日本で良質なコンテンツ在庫を大規模に見つけるには?「Advertising Week Asia 2019レポート」
編集部
東京・六本木ミッドタウンホールにて『Advertising Week Asia 2019』(2019年5月27日〜30日)が開催。マーケティング・コミュニケーション業界の企業やキーパーソンによるワークショップやカンファレンスが多数行われた。今回はその中から、28日に開催されたセッション「日本で良質なコンテンツ在庫を大規模に見つけるには」の模様をレポートする。
このセッションでは、動画配信コンテンツにおける「プレミアムな広告在庫の確保」というテーマのもと、ビューアビリティ(実際の広告閲覧数)やコンテンツセーフ、ブランドセーフ、マーケティングの観点から、その具体的な方法論が議論された。
パネリストとして、株式会社フジテレビジョン(以下、フジテレビ)部長職の野村和生氏、株式会社サイバー・コミュニケーションズ データ・コンサルティングマネージャーの丸田健介氏、株式会社電通 ラジオテレビBP局 動画ビジネス推進部長の植木崇文氏、SpotX(以下、SpotX Asia)アジア地域マネージングディレクターのGavin Buxton氏が登壇。モデレーターは、SpotX Japan 合同会社 日本カントリーマネージャーの原田健氏が務めた。
■広告媒体として強みを持つ『テレビコンテンツ』
セッションはまず「プレミアムな広告在庫」の定義に関する話題からスタート。電通デジタル・電通・CCIが2018年10月より開始した広告商品『Premium View』では、TVer・GyaO・AbemaTVの3媒体を「プレミアム(高付加価値)な動画広告枠」と定義。SpotX社の配信プラットフォームを使用し、これらのサービス内の番組中に動画広告が挿入される。
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電通の植木氏は、プレミアムな広告在庫の構成要素を「広告枠の質」「コンテンツの質」「アカウンタビリティ」「再現性」と定義。このうち前者の3要素は、「付加価値の高い媒体に限定した広告枠展開を行なうことによって担保している」とした。
TVerは、民放テレビ局の番組を対象としたキャッチアップ(見逃し配信)サービスであり、 GyaO・AbemaTVも、地上波テレビの番組フォーマットを踏襲したオリジナルコンテンツで人気を集めている。
フジテレビの野村氏は「テレビのコンテンツは最初からCMの挿入を前提としたフォーマットで長年作られてきた」と話す。「違法アップロードされた動画や、人権を侵害する内容等の視聴者に不快感を与える動画に対して動画広告が(挿入先のコンテンツ内容にかかわらず)自動挿入されるケースも問題となっている。そういった点では、ストレスなく視聴できる作りのテレビコンテンツは(好意的に)CMを見てもらいやすい」。
『Premium View』では、広告配信のみならず、放映後の態度変容を検証し、さらなる効果をあげるために広告を「リプランニング」するサービスをあわせて提供。電通の植木氏は「もともとテレビ畑に長くいた人間として、広告は安全であたりまえという認識。なにより効果を出せることが大事。広告を見た人がブランドや商品を認知しているか、という点に重きをおいている」と語った。
■「データ」が広告の質を上げる
サイバー・コミュニケーションズの丸田氏は、こうした「プレミアムな広告在庫」に計測データがもたらす価値について言及。「データを計測することによって、ターゲットに向けてどのような広告が刺さるかを明確にできる。配信された広告がターゲットに与えた影響をデータとして蓄積することで、広告在庫のプレミアムな価値を証明することができる」と。
続けて丸田氏は、CCIが展開するプラットフォーム『DataCurrent』との連携で実施する広告主・広告媒体向けデータサポートを紹介。4億件にのぼるCookie(サイト閲覧者に紐づく個人履歴データ)と1億件のモバイル広告IDデータによって精度を担保した、約1,300種類のセグメント別オーディエンスデータを提供しているという。
SpotX AsiaのBuxton氏は、「より効果の高いターゲットに配信できるようにすることでCPM(Cost Per Mille: 広告1,000件あたりの配信にかかるコスト)を大きく下げることができる」とコメントした。
■「テレビはMAUの宝庫である」
大規模な広告在庫を確保するうえで、配信枠やUU(Unique User:絶対ユーザー数)といった「スケール」の課題は切っても切り離せない。フジテレビの野村氏は「接触するUUをどれだけ増やすかに尽きる。配信コンテンツの数を増やしていくことが大事」と話す。
「フジテレビが運営するオンデマンド動画配信サービス『FOD』では毎週30番組が見逃し配信されているが、まだ配信できていない作品もある。大変なことではあるが、将来的にはバラエティなど、少なくともゴールデン・プライム帯のものは100%に近い形で配信していきたい」と野村氏。
現在は、フジテレビが自社単体で運営する『FOD』だが、野村氏は他サービスとの連携にも意欲を見せる。
「『FOD』全体のMAU(Monthly Active Users:月間アクティブユーザー<1回以上利用したユーザー>数)は現在500万程度だが、同じ人に重複して広告が配信されてしまう問題も抱えている。一方、『TVer』はUUが1,300万程度まで大きく増加しており、より多くのターゲットにリーチできるという面では魅力に感じている。他局や他サービスとの連携という道もあるのかもしれない。例えば、目当ての番組名で直接検索する人は『FOD』にやってくるが、“ながら見”の人は『TVer』にアクセスし、サムネイル画像を見て気になるものや、話題作としてピックアップされているものをチェックする傾向にある。『TVer』という場を活用して、リーチ対象を増やしたい」(野村氏)。
電通の植木氏は、地上波のテレビ番組全体を「動画広告枠」としてとらえた場合のポテンシャルの巨大さを強調。「地上波テレビのリアルタイム視聴者数をMAUに置き換えると1億2,000万くらいになり、タイムシフト視聴でも8,000万ほどに相当する。『TVer』の月間MAUが1,350万、『AbemaTV』が2,000万弱程度であることを鑑みると、かなりのインパクトを持つ数字だ」。
植木氏は「今後、地上波テレビのすべての番組においてキャッチアップ(見逃し配信)が実現すれば、手持ちのタブレット端末やスマートフォンがいわば『無料のポータブルな全録画レコーダー』に変身する」と話し、「たとえユーザーが重複しても、キャッチアップ全体で6,000〜7,000万MAUは夢ではない」と希望をのぞかせた。
SpotX AsiaのBuxton氏も、スクリーン数の増加にともなうテレビ番組の視聴習慣の変化に言及。「タイムシフト視聴が充実すれば『テレビのプライムタイムは夜』という概念も古くなり、仕事帰りやランチタイムの時間帯が新たなゴールデンタイムになるかもしれない。プログラマティックな広告挿入が可能になれば、マスメディアとしてカバーできなかったターゲットの個別リーチも可能になるだろう」と述べた。
■「プレミアムな動画広告」はアドフラウドのないセーフティな世界をどう担保するのか
昨今、広告主側からは広告配信における透明性の担保が叫ばれている。すでにネット広告業界ではアドフラウド(不正広告)問題が取り沙汰されているが、動画広告においてこのあたりはどう考えられているのか。
野村氏は、テレビ業界が長年運用してきた「仕組み」による担保を強調。
「テレビ業界では、CM素材はあらかじめ人の目で厳格にチェック(考査)され、内容や表現に問題がないことを担保した上でオンエアされる。ネット広告では『いつのまにか素材が差し替わっている』『意図しない広告が前後に掲出される』などといった問題も散見されるが、テレビの世界ではそれが起こらないよう担保されている」。
SpotX AsiaのBuxton氏は「配信元の信頼できるメディアがキュレーションしていることで動画広告の質が担保されている」とし、「機械チェックと人力チェックの良いところを組み合わせれば、十分にカバーできるのではないか」と語った。
アドフラウド問題の一端とされるビューアビリティ(広告の実視聴率)については、その指標に拘りすぎることへの異を唱える声があがった。
「ブランドセーフティやビューアビリティは確保されていて当たり前であり、あくまで結果のひとつとしてとらえるべき。大事なのは、広告がどれくらい認知や行動に寄与したか。これ自体が良くなくとも、高い認知を獲得するケースもある」と植木氏。
丸田氏は、「『Premium View』においては、動画広告のビューアビリティ(実視聴率)は100%。そもそもブランドセーフなところにしか出さない。プレミアムな動画広告媒体であると自信を持って販売することで、このあたりは担保できると考えている」。
さまざまな角度からの意見が出つつも、テレビメディアが従前より持ち合わせてきた広告媒体としての仕組みの盤石さという点ではパネリスト全員が共通の見解を示した今回のセッション。締めくくりにモデレーターのSpotX Japanの原田氏が「質の高い広告配信につながる良質なコンテンツ在庫確保のためには『コンテンツの付加価値を向上し続けること』『コンテンツのラインナップのさらなる充実』、そして『広告主側でのリプランニングをサポートするデータプラットフォームの提供』が大事である」とまとめ、セッションは終了した。