「2030年にテレビはこうあってほしい!」産業能率大学 小々馬ゼミ『AgeMi!マーケ!2030』レポート<Vol.3>
編集部
産業能率大学 自由が丘キャンパス ラーニングコモンズ(IVYホール)にて、同大学経営学部 マーケティング学科 小々馬敦教授が主導する「小々馬ゼミ」主催のカンファレンス『AgeMi!(アゲミ)マーケ!2030』が開催された。
「広告業界の最先端で活躍するパネリストを招き、10年先の未来を見据えた若者向け広告の潮流を講義形式で解説する」というコンセプトで行われたこのカンファレンス。当日は広告・PR業界、事業会社、テレビ・映像関連などの分野から300名を超える参加者が訪れ、賑わった。
今回は、この日最後に行われたパネルディスカッション『2030年にテレビはこうあってほしい!テレビのミライをAgeMi世代とホンネで語り合おう!』の模様をレポートする。コーディネーターはメディアコンサルタントの境 治氏。パネリストとして、日本テレビ『今日から俺は!!』プロデューサー・高 明希氏、日テレラボ調査研究部 主任 加藤友規氏と、産業能率大学 経営学部 小々馬 敦教授が登壇し、同大学 小々馬研究室ゼミ生のみなさんが参加した。
■「親には懐かしく、子には新鮮に」親子視聴を志向した日テレ「日曜22:30枠」
パネルディスカッションは、日本テレビ・高氏が担当したテレビドラマ『今日から俺は!!』の話題からスタートした。若者層を中心に爆発的な人気を博した当ドラマ。同研究室がキャンパス内の学生を対象として行った調査でも、全体の64%もの学生が「視聴している」と回答したという。
人気の背景には、同局におけるドラマ枠の再編、そして同局の若者に対するひとつの向き合い方があったという。
「日本テレビには水曜・土曜・日曜と3つのドラマ枠があります。その中でも、“若者に積極的に見てもらいたい枠”として編成されたのが『日曜22:30枠』だったんです」
同ドラマ立ち上げにあたり、同局で手掛けた藤子・F・不二雄氏の漫画を原作としたドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』でタッグを組んだ人気脚本家の福田雄一氏とともに日曜枠を担当するにあたって、ディスカッションを重ね、ターゲットを絞り込んでいったという高氏。念頭に置かれたのは「若者はテレビをどう見るか」ということであったという。
「テレビは基本リビングにあります。若い人にテレビを見てもらうためには、『家族と一緒に見て楽しめるもの』ということが大前提です。それを踏まえて提案したのが、西森博之氏原作の漫画『今日から俺は!!』のドラマ化でした。同作品が連載されていたのは、1987年から1997年までの10年間。親御さん世代にとっては名懐かしく感じ、若い人にとっては『わからない(リアルタイムで体験していない)ことで、好奇心をくすぐる』のではないかと。ツッパリの主人公たちが縦横無尽に動きまわるストーリーを通じ、若い人に『革新』を感じてもらおう、と考えました」(高氏)
学生時代は演劇活動に打ち込んでいたという高氏。福田氏もまた舞台出身であり、両者に根底には「観客のリアクション(顔)を思い浮かべながら作る」という思いが共通していたのではないか、と同氏は振り返った。
■「放送日以外も積極的に話題を創出」同ドラマのSNS戦略
日テレラボの加藤氏は同ドラマを振り返り、「普段テレビへの熱量が低い大学生が『毎週楽しみに見る』ドラマになった」と語った。
「『今日から俺は!!』番組公式Twitterのフォロワーは28万人、Instagramにいたっては66万人ものフォロワーを獲得しました。2018年10月期に放映されたドラマのSNSとして1位であっただけでなく、それまで日本テレビで放映された歴代ドラマの公式SNSとしても1位を更新する大記録となりました」(加藤氏)
とくに加藤氏が目を見張ったのは、各回放映後のフォロワー増加率。2018年11月4日の第4話放映後は、番組Instagramのフォロワー数が9万人以上も一気に増加したという。その背景には、番組公式アカウントとしては異例ともいえる「大量投稿」があったという。
「番組公式Twitterでの投稿数は、1日平均100回程度。最終回にいたってはリツイートふくめ160回の投稿が行われていました。番組放映日以外にも関連記事の拡散や、福田氏をはじめとする番組関係者・出演者のリツイートが積極的に行われ、毎日どこかで『今日から俺は!!』の話題が起きている、という状況を作り出していました。」(加藤氏)
「ドラマの撮影自体は同年の夏に終え、放送時期は編集作業に特化できていたこともあり、SNS投稿に大幅な時間を割くことができました」(高氏)
SNSに限らず、番組では公式YouTubeアカウントを通じた動画配信も積極的に実施。「映画の予告編を制作する専門プロダクションに発注した」(高氏)というクオリティの高い予告編や劇中のダンスを収録した動画、過去の名場面を振り返りながら最終回までのカウントダウンを行うスペシャル動画などを制作し、SNS上で大きな話題を集めた。2018年10月28日の第3話から翌週11月4日の第4話にかけては、関連動画が1日あたり100万回再生され、最終話直前の12月9日は1日380万回を突破。12月末に配信を終了した時点では、公開された計70本の動画の総再生回数は9,000万回を超えたという。
「SNSへの投稿数が多すぎると『通知が多くて邪魔』とブロックされてしまう。大量投稿に対する葛藤もありました。ゆえに、投稿内容は“むやみやたら”ではなく、ひとつひとつしっかりと練りあげた内容を心がけていました。結果的に大きな反響を得ることができ、『番組からの投稿は、量と質のバランスが大事』という結論に至りました」(高氏)
ドラマづくりもSNS投稿も、心がけなければいけない点は共通していたという。
「『今日から俺は!!』の次にスタートしたドラマ『3年A組』がまさに訴えていたテーマですが、SNSは『顔が見えないから人を傷つけることに鈍感になってしまう』という怖い面があります。『自分たちの発信したものが相手に届いたとき、誰かが傷ついてしまうという可能性を想像し、受けての気持ちを意識し続けなければならない』という考えは、この仕事をするうえで、つねに大事にしていることです」(高氏)
■「なぜ“見なかった”のか」から見えてくる、若者のテレビへの向き合い方
パネルディスカッションでは、壇上のパネリストと大学生パネラーとのあいだで積極的な質疑応答も行われた。
参加大学生に向けて行われた「『今日から俺は!!』を視聴した人は?」という質問では、ほぼ全員が「視聴した」と回答。しかし数名は「視聴しなかった」と回答した。日本テレビの高氏は、「視聴しなかった」と回答した数名に、その理由を尋ねた。
「1話を見逃してしまったので(ストーリーに乗っかれないと思った)」(参加者)
「1980年代の世界観に興味が湧かなかった」(参加者)
テレビドラマは「イッキ見」が多いとされる大学生においては「ひとつのストーリーをいちどに体験する」ことに重きが置かれている。ひとたび1話でも見そびれてしまうと「見ることをあきらめてしまう」傾向にあるようだ。反面「テレビの前にいる時間は増えている」(参加者)という声もあり、テレビというメディアが持つ“共時性”が強まっている側面が浮き彫りとなった。
また、「1980年代の世界観に興味が湧かなかった」という声からは、世界観そのものへの共感や、「(自分たちにとって)リアルな世界観であるか否か」という判断基準も伺えた。
現在の若者たちにとって、ドラマをはじめテレビ番組は「自分にとって共感できる世界観を、同時に多くの人と共有する場所」という意味合いを持つようだ。
■「“ひとつ上の世代”の日常が見たい」
コーディネーターの境氏からは、パネリストの小々馬研究室ゼミ生に向けて「テレビがどうだったら“見る”という気になるか?」という刺激的なトピックの質問が投げかけられた。
「“同年代”の話は知っていることなので興味がない。『JK(女子高生)のためのテレビ!』というようなコンセプトを標榜する番組も多いが、高校生は興味が湧いていない」(参加者)
「 “アラサー女子”を描いたドラマ『東京タラレバ娘』(日本テレビ)に“なりたい自分”を見出していた。『大人になったら、自分たちはこういう姿になるのでは?』というように、自分たちより“ひとつ上の世代”に憧れがある」(参加者)
「自分たちにとって“ひとつ上の世代の日常“を描く作品がみたい。同い年から下の世代の話には共感できなくなってくる」(参加者)
これらの意見に対し、強く反応していたのが日本テレビの高氏。「みなさんの意見にハッとなった」と、次のように述べた。
「いわゆる“月9ドラマ”も、高校生たちが(ひとつ上の世代である)20代の恋愛に憧れて見るもの、と言われていた。1990年代のトレンディドラマは『自分たちが流行を作る』というスタンスであったのを思い出しました。」(高氏)
■来る令和時代、テレビは再び“ソーシャルなもの”になる
パネルディスカッションのしめくくり、この日行われた『AgeMi!マーケ!2030』すべてのセッションを統括し、産業能率大学 小々馬教授より挨拶が行われた。
小々馬教授は「世の中全体の流れが、『社会にも優しく、人間にもやさしく』という流れになってきている」とし、「これまで世代間でくくられ、断絶されていたものが融合していくと良いなと思う」と、お互いの世代や立場における偏見を捨て、価値観をすりあわせて行くことが未来の鍵になる、と述べた。
「若い人にとって、テレビとネットの融合はもはや当たり前のこと。我々はスマホを使っているが、『スマート』という言葉の意味を意識することはほとんどなく、SNSにしても『ソーシャルな仕組み』であるという自覚もないほど、自然に溶け込んだものとなっている。これらとテレビが融合することで、本当に“ソーシャルな仕組み”が実現できるのではないか」(小々馬教授)
これからの人口減少時代を踏まえ、「世代間が断絶している場合ではない」と強調した小々馬教授。「人々が美しく心を寄せ合い、文化が花開く」という意味がこめられた新元号『令和(れいわ)』時代における新たなメディアコミュニケーションの可能性を示唆しながら、『AgeMi!マーケ!2030』はすべてのセッションを終了した。