中国、韓国対策を探る総務省の海外支援~香港フィルマート2019現地インタビュー(後編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
アジア最大級の映像コンテンツ見本市『香港フィルマート2019』(会期:2019年3月18日~21日/主催:香港貿易発展局)が香港で開催され、今年は統一された「ジャパン・パビリオン」が展開された。前編ではローカル局を中心に「香港フィルマート」における国の海外展開支援がどのように強化されたのか、その模様をお伝えした。背景には中国、韓国をはじめとするアジアにおける映像コンテンツ市場の成長も大きく関わっている。こうした市場の動きに合わせて今、どのような支援方針が求められ、国はどう応じていくのか。引き続き総務省情報流通行政局放送コンテンツ海外流通推進室長・岡本成男氏に答えてもらった。
■香港フィルマートは国が積極的に支援するべき見本市
今年の『香港フィルマート』の会場にはアジアマーケットを重視した参加者が多く、日本をはじめ、フランス、イギリス、台湾、韓国、アメリカなどのテレビマーケットにおける主力の国をはじめ、コロンビア、モンゴル、ポーランド、ウクライナなど新興国に至るまで、広い地域から出展ブースが並んだ。Netflixなど勢いのあるネット配信事業者がアジア発コンテンツをグローバルに流通させる動きも活発化していることから、会場は活気にあふれていた。こうした状況を踏まえ、総務省が『香港フィルマート』において支援を強化する理由を改めて聞いた。
「アジアを中心とした見本市は、参加するローカル局にとって比較的、敷居が低いものだと思われます。今、アジアは経済力をつけ、映像コンテンツに対する関心度も高まっています。さらに、アジアから日本に訪れる観光客の数も多く、リピーターも増え、定番の東京、京都、大阪といったゴールデンルート以外のいろいろな地域の日本を知りたいというニーズが広がっていることも後押ししているでしょう。こうした経済、コンテンツ、観光の3つの観点から、アジア最大級の『香港フィルマート』は、国が積極的に支援するべき見本市であると考えています」。
また、中国本土からはさまざまな都市のパビリオンブースが並んだ。北京、上海、広東省、湖南省、杭州市など、中国全ての自治体ブースが揃い、中国コンテンツの海外流通が積極的に行われている様子がうかがえる。実際に中国との取引はキー局を中心に大きく伸びている状況にもある。今後、中国対策を国としても強化していく方針はあるのだろうか。
「中国の勢いは無視することができないほど。カントリーリスクは当然考えつつも、放送局の各局が中国市場との関わり方に対する関心度が高まっている状況は把握しています。総務省としては、年度事業のなかで直接的に中国市場の開拓を実施しているわけではありませんが、G to G(政府間)対話の中で中国対策は進めています。具体的には中国が外国コンテンツの規制を配信も含めて広げていく方向に向かっていることに対し、パブリックコメントで総務省が日本を代表して懸念を表面する意見を出しています。つまり、規制緩和を求めるものになります。以前は、政治的に日中間の関係が難しい局面にもあり、産業政策を行う総務省の立場から言ってもやりにくい部分がありましたが、昨今は政治的にも良好な状態です。総務省をはじめ他省庁においても中国との関係を深めている状況にあります。ですから、放送局の関心にもしっかり応えていきたいと思っています」。
さらに、海外展開の成功例を次々と作り出している韓国は「ウェブトゥーン」と呼ぶデジタル媒体向け漫画原作をベースに世界展開を打ち出すブースも展開するなど、新たな施策も打ち出していた。『香港フィルマート』に限らず、映像コンテンツ見本市における韓国勢のプレゼンスは高まるばかり。こうした状況を総務省はどのように捉えているのだろうか。
「韓国は、海外にコンテンツを売ることについて一日の長があることは否めません。そもそも海外に売ることを前提にすべてのコンテンツが作られています。販売ルートも洗練されているように見受けられます。さらにビジネスとして海外に市場を求める必要性があることに対する危機感が官民含めて持っています。世界に活路を見出していかないと、生き残れないという感覚に至るまでが早かったのでしょう。明日追い付くことは難しいとは思っていますが、韓国の政策やビジネス手法を研究しながら、日本にも取り入れることができるノウハウを活かしていきたいと思っています。日本も海外市場を前提としたコンテンツ開発や資金集めは既に進められていますから、ビジネスの動きと歩調を合わせながら、国としても支援していきます」。
■ライバルでもあり、パートナー、カスタマにもなり得る時代
日本の放送コンテンツの輸出額の現状は、総務省の最新の調査結果によると、2016年度は約400億円に上る。また、見込みの数値では2017年度は500億円前後に達し、韓国のそれを上回る規模とも言われている。数字の上では日韓の差はない。
「統計のとり方にもよりますが、純粋な番組の放送、配信権の海外輸出額だけに絞れば、確かに差はありません。差があるのはやはり存在感でしょう。特にプロモーションの仕方が韓国は上手です。日本は謙虚が美徳と考える文化が根底にありますから、その辺りがプロモーションの苦手意識に繋がっているのかもしれません。今回は『ジャパン・パビリオン』を統一することで存在感は以前より高まったと思っていますが、他を見渡すと、日本だけが目立っているわけではありません。シンプルさだけでなく、インパクトのある日本風の石垣やお城をイメージした文化的なデザインを取り入れることなどもひとつのアイデアに加えても良さそうです。モニターの数も少なく、大画面モニターを設置するなど、いろいろと改善できる余地はあります。今後、いろいろな方とディスカッションしながら進めていきます」。
放送コンテンツの海外展開の課題は、権利処理や人材育成なども挙げられる。幅広い観点からサポート体制を構築していくことも自走化を目指す上で欠かせないことだろう。
「最近は初めから海外、ネットを前提とした権利処理を行っているケースも増えています。日本は権利処理が複雑で、その辺りが海外展開のハンデになっていたという声もありますが、できるだけ円滑にしていこうという業界の取組みは進んでいます。一変に解決はできない問題ですが、少なくともこれから作るものに関しては前向きに捉えても良さそうです。総務省としても研究会の開催を通じて、権利者と制作者が同じテーブルにつくところから始めて、2009年に一般社団法人 映像コンテンツ権利処理機構(略称:aRma[アルマ])が作られました。その後、国内の状況は整備されつつあり、今後は海外向けが課題となっています。またBEAJが人材育成セミナーに力を入れ、海外との契約の仕方など細かくサポートする体制も作っているところです」。
今回の『香港フィルマート』を通じて最新の市場の動きも捉えることもできる。最後にそれに応じた対応策の方向性についても聞いた。
「世界的なスマホの普及によって、エンターテインメントに消費が移り、東南アジアのライフスタイルが豊かになっています。『香港フィルマート』全体をみた感想としてはやはり、地元香港をはじめ、中国の存在感に圧倒されます。競合相手でもありますが、お客さんにもなる相手です。ライバルでもあり、パートナー、カスタマにもなり得る。いろいろな相手とこうした関係性を築きながら、食い込んでいく必要があります。国としても支援を続けていきます」。
「競合」だけでなく「共存」を求めていくやり方は、海外コンテンツビジネスの主流である。市場の動きを見据えた国のサポート体制は中国や韓国でも行われていることであり、その視点は日本にも求められるものである。海外展開が初期段階にあるローカル局を中心とした支援体制は今後も継続されていく方向にあるなかで、市場の変化にいかに素早く対応することができるか。それが成功例を増やすカギになっていくことは間違いない。