テレビ視聴データとブランドマネジメント〜新たなテレビマーケティングの形とは?〜【セミナーレポート】vol.3
編集部
2019年2月26日、東京・六本木の日本マーケティング協会 アカデミーホールにてシンポジウム『テレビマーケティングデータの最前線 〜広告主が真に必要とする評価軸とは?〜』が開催され、テレビ媒体におけるマーケティングデータの具体的なケース紹介とともに、今後に向けた展開のヒントを探るディスカッションが行われた。
その中で今回は『テレビ視聴データとブランドマネジメント』と題され行われたセミナーの模様をお伝えする。
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このセミナーには、株式会社Mizkan Holdings 執行役員CDO 渡邉英右氏(写真:左)、株式会社インテージ Life Log Data事業本部 クロスメディア情報部 部長 李相吉氏(写真:右)が登壇し、ブランド浸透における消費者層の変容をシングルソースパネルの視聴データから読み解いた事例について紹介した。
■視聴データを「顧客層の態度変容の指標」に利用
ミツカングループとの取り組みでは、インテージ社のシングルソースパネル『i-SSP』とスマートテレビ視聴ログ『Media Gauge TV』を活用。テレビCM視聴者に対する態度変容をシングルソース(同一個人)レベルで追跡することで、ブランドの浸透や消費喚起につながるコミュニケーションの設計を図っている。
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食酢の大手ブランド「ミツカン」を擁するミツカングループでは、「新しいおいしさで変えていく社会」を昨年11月に策定した「ミツカン未来ビジョン宣言」の中で定めており、従来のカテゴリー視点の消費者分類に変わり、顧客ニーズ視点でライフスタイルを含めた人物像やクラスターづくりを志向している。これに基づく具体的なアプローチの判断に、テレビCMの視聴データを活用している。
■「ターゲット層に人気の番組」の視聴動向に注目
ミツカングループは、インテージ社のソリューション『i-SSP』を、消費者ターゲット層のクラスタリングにおけるコミュニケーションの仮設検証に活用した。
『i-SSP』では、テレビとPC・モバイルといったデジタル媒体の接触動向と消費者の購買行動や意識の変化を紐づけ、同一個人(シングルソース)単位で行動に関する複数のデータを集計することができる。
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渡邉氏は、同社の人気商品『カンタン酢』での事例をもとに、視聴データの具体的な活用例を紹介した。
「『カンタン酢』は、『お酢が身体に良いというのはわかっているけど、どう使っていいかわからない』という消費者の疑問に呼応する形で、『これ1本で簡単にいろんな料理ができる』というコンセプトを打ち出しました。2008年の発売開始以来、酢を使った具体的な料理のレシピを啓蒙する施策を打ち出してきましたが、今回インテージのデータを使用し、ターゲットとする消費者を『料理謳歌』、『家庭的手作り』という志向別の2クラスターに分類しました。」(渡邉氏)
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『料理謳歌』クラスターは「自分らしさを重視する50-60代中心の層」、対する『家庭的手作り』クラスターは「じっくりと比較検討する30〜40代中心の層」をペルソナとして設定。それぞれの層が好むテレビ番組の視聴データとデジタル媒体の接触度合いを比較したところ、特徴的な結果を得ることができたという。
「『料理謳歌』クラスターが好むテレビ番組は「人生や趣味に関する番組」が多く、デジタル媒体ではLINEの使用頻度が高め。対する『家庭的手作り』クラスターは「流行や話題のトピックを扱う番組」を好み、Instagramの使用頻度が高かった。前者は「自分らしいアレンジを追求し、LINEを通じて身内に共有する」、後者は「流行に乗り、“SNS映え”する題材を広く発信する」特性を持つことが浮かび上がったのです。」(渡邉氏)
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■データをもとにCM出稿、その視聴データをさらに分析
ターゲット像の特性に沿って、Mizkan(またはミツカングループ)は2018年11月から約1か月間『カンタン酢』のテレビCMを関東・関西・中京エリアで計600回にわたって出稿。ここでインテージのソリューション『Media Gauge TV』を組み合わせ、視聴者の個人プロフィールに基づいた視聴データ分析を行った。
『Media Gauge TV』では、月あたり100万台のスマートテレビと70万台の番組レコーダーから収集された視聴ログデータをもとに、都道府県単位での視聴動向を把握することができる。
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「関東・関西・中京エリアでのテレビCMの視聴ログを解析したところ、既婚女性全体のリーチに比べ、『料理謳歌』にクラスタリングした層が10%高いスコアを叩き出しました。また、これらの層が週末の午後帯や平日23時以降の深夜帯にテレビをよく視聴することもわかりました。一方、『家庭的手作り』にクラスタリングした層は期間後半で伸び悩みを見せ、これらの層が視聴する時間帯と出稿した時間帯がズレていることもわかりました。このように、ターゲットごとに効率的な出稿時間帯を把握し、視聴ログからさらなるPDCAサイクルを回す流れをつくることができたのです。」(渡邉氏)
この他にも、テレビCMを視聴した消費者の購買行動をクリエイティブ別に比較し、それぞれの層ごとに購買を喚起するクリエイティブのパターンを把握することもできたという。
■「ライフスタイルの多様化にあわせ、サンプル数の充実を」
パネルデータや視聴ログをブランドマネジメントの指標として用いるという新たな試みを、渡邉氏はこう振り返る。
「商品やブランドのマーケティングプランの実現を念頭においたコミュニケーションプランの連携が、よりよいマーケティング実践の基盤につながっていくと感じました。ターゲットをクラスタリングし、ある種の“共通言語”を作り出せたことで、社内での意思疎通もスムーズになりました。消費者のライフスタイルは、今後もさまざまな形で多様化していくと考えられます。それらに対応する意味合いでも、パネルデータを扱う各社にはサンプルの数をもっと増やしてほしいと願っています。」(渡邉氏)
パネルデータでターゲット層の具体的なペルソナを定め、さらに実数ベースのログを組み合わせて動向を追跡するというMizkan(またはミツカングループ)の試み── どちらか片方だけではなく、両方を同一の個人軸で連携させ、活用させることによる新たなテレビマーケティングの形が見えてきた。