フジテレビ「解はないが、問いはある」SXSW2019報告イベント「seek∞」開催へ(前編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
フジテレビが『SXSW2019報告会・未来を探すトークイベント「seek∞」~解はないが、問いはある。』を4月3日(水)に一般向けに開催する。これまで米テキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)において、講演、メディアパートナーなどさまざまな立場で参加してきたフジテレビが、今年の現地での盛り上がりや日本が世界に発信したい“風景”などについて紹介するものになる。仕掛け人のひとり、フジテレビ・ニュースコンテンツプロジェクトリーダーで、ビジョナリストの清水俊宏氏に開催の意図やSXSWが注目されている理由を聞いた。
■日本館、SXSW2019「ベスト・イマーシブ・エクスペリエンス賞」を受賞
毎年3月に米テキサス州オースティンで開催される「SXSW」は、音楽・フィルム・テクノロジーの分野で世界最大級の祭典として、近年注目されているBtoBイベントである。世界中から最先端テクノロジー企業やイノベーター、投資家などが集まるなか、今年は3月8日から17日まで、10日間にわたって行われた。今回、フジテレビはSXSWに出展した日本館「The New Japan Islands」のメディアパートナーを務め、日本の経済産業省・企業・アーティスト・学術関係者などが一体となって、未来ビジョンと未来の風景を発信するプロジェクトの発信に力を入れている。それが報告会を開催する目的のひとつにある。
報告会開催を前に、SXSWから帰国したばかりのフジテレビの清水氏に日本館がどのようにSXSWで注目されたのか、まずは尋ねた。
「SXSWには国を押し出すブースも多く出展されています。今年もEUやメキシコ、中国・成都のブースなどがありました。SXSWはコンベンションセンターを中心に街全体で展開されるイベントで、街中に「ハウス」型の国のブースが点在しています。多くはディスカッションするための場所として機能し、日本館も議論を起こしやすい仕掛けが作られていました。日本館は館内の真ん中のスペースにその場所を設けていたことが特徴にありました。国のブースはSXSWを使って、国をアピールし、いろいろな方に訪れてもらって、新しいものを生み出すきっかけを作ることが目的。日本館はそれを実現できていたのはないでしょうか」
日本館はSXSW公式の「ベスト・イマーシブ・エクスペリエンス賞」を受賞し、インパクトを与えた存在だったことが外部からも評価を受けた。フジテレビ主催の報告会には日本館の統括プロデューサーを務めた経済産業省・宇留賀敬一氏と統括ディレクターの落合陽一氏を招き、「デジタル発酵する風景」と題したトークセッションなども企画される。
■「解はないが、問はある」に込められた思いとは?
SXSWに何度も視察チームを送っていたフジテレビは、2017年に清水氏をリーダーとした取材団を派遣、2018年にはSXSWで最も注目されるイベントである公式カンファレンスの登壇も経験している。そして今年は日本館のメディアパートナーの立場で参加した。テレビ局関連のSXSWの参加は今年、NHKがソニーと大型の「8Kシアター」を展開したほか、NHKエンタープライズが資生堂とタッグを組んだプロジェクト「Invisible VR "Caico"」や、土屋敏男元・日本テレビプロデューサーとNHKエンタープライズ河瀬大作プロデューサー、ライゾマティクス齋藤精一クリエイティブプロデューサーによるプロジェクト発「THE TIME MACHINE」がブース出展した。テレビ業界のなかで活用が広がり始めているといったところだ。3年にわたり毎年SXSWに足を運んでいる清水氏はSXSWの利用価値をどのように捉えているのだろうか。
「メンバーが講演した際、『フジテレビが世界で発信して、意味あるんですか?』と、日本のある大手メーカーの方から言われたことがありました。国内需要に頼るフジテレビが世界に打って出るのは不思議に映ることに納得もします。でも、日本メディアが世界で発信する意味は大きいと思っています。例えば、テレビ局をはじめ、日本のなかで議論に上る『働き方改革』について、日本の中だけでは見えない部分がSXSWに参加することで、視野が広がっていきます。日本人同士で『みんなで今までとは違うことをやりましょう』と考えても、改善の道が狭くなってしまいがちです。はじめてSXSWに参加した時は、これまで持っていた価値観が覆されるような感覚を覚え、ショックを受けたほど。海外の方から質問攻めに合い、ディスカッションが活発化されることで、『どんな社会を作りたいのか?』『どういう社会を目指したいのか?』『自分の仕事の役割とは何なのか?』などの問いが生まれるのです。報告会のサブタイトルにある『解はないが、問いはある。』にはそんな思いが込められています。SXSWでアウトプットすることでインプットができる。それがテレビ局もSXSWに参加することに価値があることだと思っています」
■たとえ枯れたテクノロジーであっても、面白く、新しいものを人と人が作る場所
日本企業全体ではスタートアップから大手メーカーまで、SXSWへの出展、参加がここのところ増加傾向にある。SXSWに「インタラクティブ」部門が10年前に立ち上がり、テクノロジー産業の成長がその背景にあるだろう。「トレードショー」を中心に今年、SXSWに参加した日本の企業の盛り上がりを清水氏はどのようにみたのか?
「毎年、日本企業の参加、出展が増えていることを実感しています。トレードショーでは今年、電通が発表した『超未来体験型レストラン構想・寿司シンギュラリティ東京』に人だかりが作られていました。2020年にレストラン開業を目指されています。
それが実現するかどうかは実は本質にはなく、『そこに向かって、何をするのか?』ということそのものが注目されているのだと理解しています。ヘルステックで自分に足りない栄養素を補い、味を数値化し、触感も物理工学などかけ合わせると、求める社会が実現するというものです。これに限らず、SXSWでは斬新なテクノロジーに価値が置かれていません。当たり前の世界を掛け合わせることで、新たな発見を生み出すことをみんなで考える場所です。だから、面白いヒトが多く集まることもSXSWの醍醐味です。たとえ枯れたテクノロジーであっても、面白く、新しいものを人と人が作り、それが次の時代を作っていく。そういうイベントです。成長曲線がみえる新しい製品が出展されるCESとは違いがあります。SXSWでは火星に行くためのテクノロジーが発表されるのではなく、火星で住んだ時の法律を考えるような、そんな場所なのです」
テクノロジーと掛け合わせから生まれる新しい社会を考える場所であるSXSW。社会的な役割を持ち、影響を与えるテレビ業界にとっても、それは利用する価値はあるだろう。4月3日(水)の報告会では清水氏の登壇もある。1部は16時から、2部は19時から、フジテレビ22Fフォーラムで開催される。後編ではこの報告会の様子も交え、ビジョナリストとしての清水氏が考えるテレビとSXSWの掛け合わせから生まれる可能性について、お伝えする。