世帯視聴率より「誰に届いているか」が大事【テレビ広告ビジネスフォーラム2019】パネルディスカッションレポート(前編)
編集部
JAAA(日本広告業協会 Japan Advertising Agencies Associationの略称)は2月7日、東京・有楽町の東京国際フォーラムにて「テレビ広告ビジネスフォーラム2019」を開催。「ポスト2020 テレビビジネスはこうなる?!」をテーマに、全8部構成のプログラムが実施された。
今回は、プログラムの最後に行われたパネルディスカッション『テレビビジネスの未来』のレポート前編をお送りする。
パネルディスカッションには、サントリーコミュニケーションズ 宣伝部部長の牧野清克氏、楽天 副社長執行役員CROの有馬誠氏、TBSテレビ 取締役 営業局長の龍宝正峰氏、ビデオリサーチ 常務取締役の尾関光司氏、ADK マーケティング・ソリューションズ 事業役員 データインサイトセンター長の沼田洋一氏が登壇。モデレーターを電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局長の須賀久彌氏が務めた。
■世帯視聴率より「誰に届いているか」が大事
パネルディスカッションの冒頭、登壇者が自己紹介とともに「最近のテレビ広告に感じる率直な所感」を表明した。
「テレビ視聴の定義がIT的なものに寄ってきていると感じます。ネットコンテンツの視聴においては、自宅・外出先といった視聴場所の違いやデバイスの違いはもはや関係ない。タイムシフト視聴のニーズが高まりつつある昨今、テレビもこうした“IT的な視聴習慣”に寄ってきているのではないでしょうか。現在、ビデオリサーチでも、世帯視聴率に限らず複数の環境での“分散視聴”を踏まえた個人視聴率の計測や、よく買う品物の種類といった購買属性を紐づけた『視聴者のリッチプロフィール化』に取り組んでいます。」(尾関氏)
視聴者のリッチプロフィール化、という言葉を受けて、サントリーコミュニケーションズの牧野氏も“要望”を述べた。
「それぞれのブランドについてペルソナを設定していて、例えば、缶チューハイでは、ユーザーペルソナ(ライフスタイルや趣味・性格といった具体的なプロフィールを与えたモデル)を設定していたり、その他のブランドについても明確なターゲットを設定したりして、全社に共有しています。しかし現状、テレビ広告を打つ場合は、『F2層(20歳〜34歳の女性)』など、おおまかな範囲しか設定することができない。私たち広告主としてはより到達度の高い枠、具体的にいうと『世帯視聴率・ターゲット視聴率が高く、より精度高く自社のメッセージが届く枠』に出稿したいのです。たとえば番組ごとに「この枠は缶コーヒーを愛飲する人に届きやすい」というような、消費者属性単位でのGRP(のべ視聴率)みたいな指標が取れたら嬉しい。テレビの強みは『多くのターゲットへ広告メッセージを届けられる』『世の中のムードを演出できる』ところにあると感じているので、テレビ局側は世帯(視聴率)だけ意識するのではなく、個人(視聴率)を取りに行くような番組作りを目指してもらえたらと考えています。」(牧野氏)
対する、テレビ局側の声は──。TBSテレビの龍宝氏は率直な胸の内を明かした。
「アド協の皆様へのアンケートを見ていると、テレビ媒体のマス向け発信力を評価していただいている反面、『いま(の仕組み)のままであればテレビの広告は増やせない』という厳しいご意見も読み取れます。よくテレビを見ていただいている層だけではなく、若年層におけるテレビのHUT(総世帯視聴率:どのくらいの世帯がテレビ放送を放送と同時に視聴していたかという割合)の低下に注意して、広告業界全体の変化にしっかりと対応していかなければならないと感じています。」
これを踏まえたうえでの現在の取り組みについても、龍宝氏は述べた。
「在京民放キー局5局による番組キャッチアップ(見逃し配信)サービス『TVer』は、民放共同の取り組みとして順調にサービスを拡大できていると思います。開始以降、ユーザー数は右肩上がりを続けており、UB(ユニークブラウザ:視聴環境ごとの訪問回数)も目標の月間1,000万UBを超えるようになっています。
キャッチアップ広告の特徴として、デジタル広告の課題といわれているビューアビリティ(実際に視聴された割合)が非常に高い事が挙げられます。MOAT社の調査(2018年7月実施・PCに限る)によると、一般的な国内のデジタル広告のビューアビリティは18.4%ですが、TVerではなんと94.2%もの水準を得ています。
民放のキャッチアップ媒体は、すでにプレミアムな広告枠としての価値を持っているのです。このほかにも、民放連でもローカル局の代表の方と一緒に『テレビ視聴指標研究プロジェクト』を立ち上げ、新たなセールス指標の研究に目下取り組んでいます。」(龍宝氏)
■「プレミアムビール愛飲者はWBSを見る」 “ユーザー視聴率”という概念
これまでのような年齢層・性別単位でのターゲット設定のみでは広告主も的確なターゲティングが行えない── 具体的な例を挙げながら、ADK マーケティング・ソリューションズの沼田氏が延べた。
「たとえば、ビール購入者というカテゴリのなかでも銘柄や飲み方の違いによってテレビ番組の視聴傾向が異なるのです。たとえば、高級志向のプレミアムビールを飲む人は『新・情報7DAYSニュースキャスター』(TBSテレビ)や『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京)、また深夜帯のバラエティ番組を見る率が高いことがわかりました。一方、発泡酒を愛用する人がよく見るのは『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)や『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ)などのバラエティ。糖質ゼロや低カロリーといった要素を前面に出した機能系ビールの愛飲者では『ぐるナイ』(日本テレビ)、『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ)の視聴率が高いことがわかりました。このように“○○が好きな人は○○の番組を見る”という明確な傾向が浮かび上がっているのです。
こういった面は、M2・F2といったおおまかなカテゴライズではわかりません。これからのCM枠の買い方として、商材のユーザー層がよく見ている、いわば『ユーザー視聴率』に対して買う、というほうがよいのではないでしょうか。」(沼田氏)
ECサイトやWEBメディアなどを展開し、まさに広告主と媒体両方の立場を持つ楽天では、購買などの消費行動分析データとテレビ視聴データを結びつけ、CM枠購入の選択に活用できる広告商品を開発しているという。
「楽天では『楽天ID』というユーザーID単位で『何がどんな人に売れたか』というデータを蓄積しています。これを『STADIA』(電通が開発した統合マーケティングプラットフォーム)と組み合わせ、テレビの視聴ログと結びつけると、売り出したい商品に応じて、その商品を購入するユーザーが、どの番組をどのくらい見ているか、という『テレビ視聴のヒートマップ』を算出し、テレビスポットの購入材料として使用することができます。併せて活用するのが、『STADIA』のソリューションのひとつである『STADIA TV Live』という仕組み。
あらかじめキーワードを設定しておき、CMや番組中でこれらが出現したタイミングで関連するデジタル広告を即時配信することができます。」(有馬氏)
■「自社の視聴者は具体的にこんな人」放送局は“視聴者のプロファイリング”を
いまやマス媒体の広告出稿においても具体的なプロフィールベースでのバイイングに舵が切られつつあるという現状を踏まえ、放送局各社においても自社が得意とするユーザー層を可視化する取り組みが必要、とADKの沼田氏は語った。
「メーカーが自分のお客さまをプロファイリングするように、放送局も自社の視聴者をプロファイリングしたほうがよいと思います。先日、ラジオ局のJ-WAVEにて『自社の視聴者層は具体的にこんな人』というユーザーペルソナをADKの保持するデータから算出し、これに基づいた媒体資料を作成しました。」(沼田氏)
「実際に、番組視聴者とカテゴリーユーザーが重なって、成功した事例がテレビ朝日の特番『アイス総選挙』。通常、テレビ番組に登場する商品の平均的な購入率は0.7%程度ですが、この番組で『1万人選んだアイス』としてランキング1位に輝いたブランドは、視聴者ベースの購入率が5.8%にも達しました。一般的な平均の約8倍もの効果が明らかに出たのです。」(沼田氏)
「世帯より個人」「マスよりもターゲット志向」── かねてより概念の提唱そのものは行われてきたが、いよいよ最近になってその具体的な事例を多く目にすることとなった。
この現状をふまえ、テレビ媒体に求められる具体的なアクションとは── 後半で引き続きお伝えする。