『報ステ』など震災から8年間の映像200本をネットで公開~狙うはグーグルマップ・シリーズ~(後編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビ朝日は、東日本大震災の記録映像をニュース企画サイト「●REC from 311~復興の現在地」(https://news.tv-asahi.co.jp/special/recfrom311/)で公開している。これまでテレビ朝日の報道局が東日本大震災から被災地の変化を撮影し続けている定点撮影映像など、動画の数は200本以上に上る。サイトはグーグルマップと連携され、震災から8年間の時間の流れやそれぞれの場所で何が起きていたのかが、直感的にわかるような作りだ。
テレビ朝日は、この新たなニュース企画サイトをどのように活用していくのか? 前編に続き、企画・制作したテレビ朝日報道局デジタルニュース戦略担当部長の西村大樹氏と、WEBディレクターのテレビ朝日メディアプレックス今野達也氏、システム構築した同社竹井淳氏に話を聞いた。
■定点撮影映像からは風景の移り変わり、ニュース映像からは心の動きがわかる
「●REC from 311~復興の現在地」で現在、公開されている動画の数は200本以上。テレビ朝日の報道局をはじめ、ANN系列各局が撮影した震災の記録映像が撮影場所ごとにグーグルマップと連携しながら、動画が埋め込まれている。8年目を迎えた被災地の新たな記録映像も随時更新されていく。
東日本大震災を報じた記録映像がインターネット上でまとめて視聴できるサイトは他にはなかなか見当たらない。テレビ局が制作した動画をこれだけの規模で構築することができたのは、前編で伝えた通り、グーグルの支援によって実現に至った。だが、新たなニュース企画サイトが生まれたのは、震災以来、撮り続けている100か所以上の定点撮影映像素材があったからこそ。テレビ朝日の報道局はどのような体制で定点撮影を続けているのだろうか。西村氏が答えてくれた。
報道局 クロスメディアセンター デジタルニュース戦略担当部長 西村大樹氏
「震災以降、定点撮影を毎年欠かさず続けています。今年はカメラマンとVE、ドライバーの3人体制。取材ポイントは約100か所。前回のカットと合わせながら撮影しています。ひとつのクルーが岩手の北から南下して行き、もうひとつクルーが福島の南から北に向かって行く。10日間かけて宮城あたりで2つのクルーが合流するこのレギュレーションを最低、年に一度のペースで続けています。震災後から少なくとも10年間は撮影をし続けることを『絶対にやめない』。実際に取材するクルーをはじめ、テレビ朝日の報道局全体で感じている共通認識です。継続できることもテレビ局の強みだと思っています」。
撮り続けている100か所の定点撮影映像の他にも、『報道ステーション』の企画『3.11から伝えたい』や被災3県を中心にANN系列が制作したドキュメンタリー番組『テレメンタリーシリーズ』なども視聴できる。
「定点映像からは風景の移り変わりが時系列でわかります。でも、それだけではなく、心の動きも見せることによって厚みも出てきます。そのため、『報道ステーション』で放送され続けている特集企画や、系列各局にも動画の掲載を理解してもらい、権利処理作業にも協力してもらいながら、ニュースコンテンツも充実させています」(西村氏)。
(2017/10/10「報道ステーション」放送)
■動画×地図は桜の開花前線からドラマ、アニメ、スポーツまで可能性あり
今回開発された動画と地図を組み合わせた配信システムは、今後、いろいろなジャンルの放送コンテンツでも活用できそうだ。第2弾のニュース企画サイトや、ショート動画の視聴傾向が高い若年層向けの企画なども計画されているのだろうか? 西村氏をはじめ、今野氏、竹井氏それぞれからアイデアが生まれている。
「動画と地図は非常に相性が良いと、今回改めて感じました。テレビで一回放送したらそれで終わり、ではなく、地図上でアーカイブしていくことによってシリーズ的にみせることもできると思っています。オンデマンドで一覧に並んでいるだけだと紐づかないものも、地図を組み合わせることによって、繋がりを持たせることもできます。つまり、地図上で見せることによって、次々と見たくなる動機づけを作り出すことになるのです。インターネット上でまだまだ放送コンテンツのいろいろな見せ方ができると思っています。」(西村氏)。
Web制作部 報道・スポーツチーム チーフ 今野達也氏
「例えば、桜の開花前線を追いかけて、その動画と地図を組み合わせる企画も考えられます。報道分野だけでなく、ドラマやアニメの聖地巡礼企画などにも相性が良さそうですし、バラエティも番組の企画によっては活用できそうですね。それから、スポーツも駅伝やカーレースなどコースが長い大会で有効に使えそうです」(今野氏)。
テクニカルデザインセンター テクニカルグループ チーフ 竹井淳氏
「ユーザー投稿を受け付けて地図上で反映させていくことも可能です。拡張性があるシステムですから、技術的にも企画のアイデアに合わせて、対応していけると思います」(竹井氏)。
■東日本大震災の定点観測が直感的にわかるユニバーサルデザイン
また「●REC from 311~復興の現在地」には、世界の人に見てもらいたいという思いも詰められている。
「ロゴマークはカメラのファインダーからバックタリースイッチを回すと出てくる『●REC』のマークと、『from311』を組み合わせたシンプルなユニバーサルデザインです。
海外の方にも知っていただけるようにと、英語版サイト(https://news.tv-asahi.co.jp/special/recfrom311/en/)も開設しましたが、日本の方だけでなく海外の方も、ロゴマークをご覧になっただけで東日本大震災の定点観測がここに展開されていることが直感的に理解していただけると思っています。」(西村氏)。
サイトを開いた第一印象では、テレビ朝日が企画していることは一見してわからない。テレビ朝日のロゴそのものを前面に押し出していないからだ。これにはどのような意図があるのだろうか。
「サイト内で展開されているYouTubeの『ANNnewsCH』映像にはANNニュースのロゴがあるために信頼度も増し、ブランディングにも自ずと繋がっていくのではないかと思っています。それに、震災をテーマにしたものであり、系列各局にも協力してもらっていて、テレビ朝日は企画・制作する裏方の立場でもありたいと思っています。何より、広く多くの方に知ってもらう、使ってもらえるサイトを目指しています」(西村氏)。
最後に「●REC from 311~復興の現在地」チームの3人に改めてこのサイトが目指す役割についてそれぞれの想いを聞いた。
「ご覧になった方それぞれが震災の記録を感じて欲しい。何を感じるかは、映像の受け止め方次第で変わるでしょう。このサイトは押し付けることはまったくしない見せ方だと思っています」(西村氏)。
「いちユーザーとしてこのサイトを見ると、あの時に思いを馳せる、いいきっかけになります。正直なところ、時間が経過しても変わっていない部分がたくさんあるというのがとても印象的で、まだ復興途中であることを認識してもらうことに役立ってほしいです」(今野氏)。
「3.11の記憶は各々置かれていた状況によって違うでしょう。思い出すきっかけにもなるだろうし、今後も震災は起きる可能性はありますから、次の教訓として活かすことができるものになればと思います」(竹井氏)。
ビジネス的な観点では、グーグルマップと連携した配信システムにより、取材映像や番組素材を活用できる展開がいろいろなかたちで広がっていく可能性があることがわかった。そして、サイトそのものが「復興の現在地」として日本をはじめ、世界への発信も実現できた。今回のグーグルの支援によるプロジェクトは1年間にわたり継続される予定である。テレビ局が持つコンテンツをインターネット上で展開していくことで、映像の新たな役割や価値を生み出す取り組みとして、引き続き注目される。