東日本大震災の被災地100か所定点撮影映像をグーグルマップ上で公開、テレ朝報道局の挑戦(前編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビ朝日は、東日本大震災とその後の復興の様子の映像をグーグルマップの上で可視化するニュース企画サイト「●REC from 311~復興の現在地」(https://news.tv-asahi.co.jp/special/recfrom311/)を2月21日に公開した。
テレビ朝日の報道局が東日本大震災から被災地の変化を撮影し続けている100か所以上の「定点撮影」映像をはじめ、『報道ステーション』(毎週月曜〜金曜、21:54〜)やANN系列で制作・放送された復興関連のドキュメンタリー番組などを集約した。地上波放送とは異なるアプローチで、テレビ局が今できることとは何か? 企画・制作したテレビ朝日報道局デジタルニュース戦略担当部長の西村大樹氏と、WEBディレクターのテレビ朝日メディアプレックス今野達也氏、システム構築した同社竹井淳氏に話を聞いた。
■使い切れてなかった100か所以上の定点撮影映像の活用方法を模索していた
テレビ朝日のニュース企画サイト「●REC from 311~復興の現在地」は、グーグルニュースイニシアティブ(GNI)の支援を受けて実現したものになる。GNIはデジタルニュースの信頼性と質の向上を目指しており、それに賛同したテレビ朝日がGNIのYouTubeイノベーションファンディングに応募した。応募するに至ったきっかけは何だったのだろうか。西村氏にまずはその理由から聞いた。
報道局 クロスメディアセンター デジタルニュース戦略担当部長 西村大樹氏
「テレビ朝日は、2009年からYouTubeチャンネル「ANNニュースチャンネル(ANNnewsCH)」をスタートし、ニュースの提供を続けています。報道機関として、信頼性のあるニュース映像を提供できるのはテレビ局だからできることだと自負しています。足で稼いだ情報をいろいろな方に見てもらう場にもなっていると思います。YouTubeも信頼性あるニュース動画を提供したいという方針であり、支援プロジェクトを設立しています。テレビ朝日としても新しい取り組みをYouTubeのフレームの中で何かできるのではないかと思い、応募しました」。
その「何か」とは、テレビ朝日の報道局が東日本大震災から被災地の風景の変化を撮影し続けている100か所以上の「定点撮影」映像の活用だった。西村氏が以前から模索していたこともあり、今回の話に繋がったという背景もある。
「私自身、15年にわたって報道カメラマンを担当していたことから、テレビ朝日の映像取材部が震災直後から被災地の映像を撮りためていることを知っていました。でも、地上波で放送する場合は、尺の関係で紹介される映像はごく一部。使い切れていない現実がありました。震災から5年目のタイミングで、一挙に見せる方法はないかと模索したのですが、その時は時間やコストの制約などから、実現には至りませんでした。そして今回、再トライしようとグーグルの支援に応募したわけです」(西村氏)。
■全てのカットをみせることで、映像の新しい価値が生まれる
YouTubeチャンネル「ANNニュースチャンネル(ANNnewsCH)」が支援の対象に選ばれたのは昨年の12月。わずか2か月の準備期間で、第一弾として「●REC from 311~復興の現在地」を今年2月21日に公開した。震災から8年間の時間の流れやそれぞれの場所で何が起きていたのかが直感的にわかり、震災からの復興の記録としてまとめられている。
「地上波では変化したところを中心に見せます。でも、実際は変わっていないところも多いのです。一年目の映像は瓦礫がなくなり、景色が変わったことが一目瞭然ですが、それ以降、実はあまり変わっていない場所もあります。全てのカットをみせることで、それがわかるのではないでしょうか。そうすることで、映像そのものの新しい価値も生まれていると思います」(西村氏)。
サイトでは地図上を移動するように映像を視聴していくこともできる。「ANNニュースチャンネル」で展開してきた動画とグーグルマップを連携させているからで、ネット的な見せ方だ。西村氏が考案した企画をテレビ朝日メディアプレックスの今野氏と竹井氏はどのように具現化させていったのだろうか。
Web制作部 報道・スポーツチーム チーフ 今野達也氏
「グーグルマップを使った企画は以前にも担当させてもらったことがありましたが、これほどの規模は今回が初。新たな挑戦でしたが、この規模で見せることがこの企画においては大事なことでした。いかにユーザーに見せやすくできるか。それを第一に考えながら、構築していきました。基本的な構造は、マップ上にあるピンで動画のサムネイルを見せ、クリックすると動画が再生される作りです。マップの拡大率によって、サムネイルの大きさも変えています。またピンだけではなく、メニュー上で見たい地点を選べるようにもしました。
地点を選んだ時にマップと連携して動きをつけることによって、ユーザビリティも向上します。さらに、どなたでも操作しやすいように、動画を一覧で見ることができるようにもしました。スマホでご覧になる場合も想定した作りになっています」(今野氏)。
テクニカルデザインセンター テクニカルグループ チーフ 竹井淳氏
「基本的にはグーグルマップのシステムのAPIをベースに構築しました。簡易的にポイントを指定して、約100か所分のピンを指せるようにしたことがポイントです。動画の数が圧倒的に多いため、スマホ上でも変わりなく視聴できるようにするために、チューニングには苦労しました」(竹井氏)。
■使いやすさを追求、余計な説明書きがないデザイン
使いやすさを追求したのは、「震災の現状をより多くの方に見てもらいたい」という想いが大きいからこそ。シンプルに見せながら、中身の情報量は多い。動画で見せる「他にはない震災復興サイト」を目指し、公開までに再構築を重ねていった。
「サイト全体のトーンや細かいデザインの調整については、テレビ朝日のコーポレートデザインセンターにもサジェスチョンしていただきました。このサイトには余計な説明書きがありません。デザインでいかに見せるかを追求したからです。これはウェブディレタクー冥利につきる作業でもありました。また説明過多になっていないところが功を奏し、英語版の制作もスムーズに行えました」(今野氏)。
「技術的な観点でも、いろいろなオーダーに合わせて、細かく調べていきました。既存のAPIとの新たな組み合わせなど、配信システムの構築に時間はかかりました。もちろん苦労もありましたが、西村さんを中心に、より良いサイトを目指したいという想いが動かしていったのだと思います」(竹井氏)。
サイト立ち上げまでに要したコストは主にシステム部分。グーグルからの支援の範囲内で作られた。地図上に埋められている動画の多くは、100か所の定点撮影映像と、『報道ステーション』特集やANN系列による番組などのこれまでのアーカイブ映像が活用されているため、新たに手が加えられたのは定点撮影映像のポスプロ作業ぐらいだったという。トップ画面の映像と今回使用された音楽は、サイトオリジナルのコンテンツとして新たに制作された。
「音楽はトップ画面と定点撮影映像用に5つのパターンがあります。そもそも、バリエーションを出したのは、制作をお願いした方から逆に提案をいただいたからです。バリエーションをつけることによって、映像に対する印象も高まります。オープニング動画を担当した編集マンも8年間のアーカイブ映像から印象に残ったカットを選り抜き、その数カットのために何日もかけてくれました。貴重な震災復興サイトを公開することに、関わっていただいた方それぞれが理解してくれ、3.11に対する想いがあるからだと思います。チームの皆がよりよいサイトを目指し、最大限の力を発揮してくれました」(西村氏)。
参考:●REC from 311~復興の現在地】宮城・気仙沼市① 定点撮影
テレビ朝日はここのところ、地上波とは異なるデジタルニュースの見せ方にも積極的に取り組んでいる。AbemaNewsをはじめ、それはグループ全体の強化事業として展開されているケースも多い。そんななかで、今回のサイトは報道局の映像活用がグーグルの支援によって実現した。震災復興に向けてテレビ局が何をできるのか。そんな想いが集約されている。後編は「●REC from 311~復興の現在地」に埋め込まれている映像制作の背景や、さらなるサイトのシステム活用などについてお伝えする。