番宣なしだから拡散される!『AI 家売るオンナ』宣伝チームが明かすヒットの裏側(前編)
編集部
日本テレビ系列にて放送中の北川景子主演ドラマ『家売るオンナの逆襲』(毎週水曜、22:00〜)。この作品と企画連動したAI会話サービス「AI 家売るオンナ」が開始され、現在ユーザーは10万人を突破しており、注目を集めているが、ユーザーはどのように本サービスを楽しみ、活用しているのだろうか。
本サービスの仕掛け人である日本テレビ放送網株式会社 編成局宣伝部専門副部長 西室由香里氏、同社 編成局宣伝部 細川恵里氏、開発に携わった同社 技術統括局技術開発部副主任 兼 ICT戦略本部 川上皓平氏、株式会社フォアキャスト・コミュニケーションズ 吉田浩氏にリリース経緯や開発秘話を聞いた。
■放送業界初!複数人の AIキャラクターと会話できるチャットサービス
「AI 家売るオンナ」は、LINE公式アカウント「家売るオンナの逆襲」に友達登録することでサービスが利用可能となり、主人公・三軒家万智(北川)のほか、メインキャラクターの屋代大(仲村トオル)、同僚の庭野聖司(工藤阿須加)、足立聡(千葉雄大)の4人と、LINEアカウント上で会話を楽しめる。
同局では、過去にドラマ『過保護のカホコ』(高畑充希主演)の連動企画でもAIキャラクターとの会話サービスを実施した経験があるが、複数人の AIキャラクターと会話できるチャットサービスは、放送業界初の試みだ。
『過保護のカホコ』の連動企画にも携わっていた西室氏は、「前回は主人公のカホコが天然なキャラクターで人気を得たため、結果的に成功を収めることができた。けれど、サンチー(三軒家)は完璧主義なキャラクターなので、ユーザーからは面白がられないのではないか?という懸念があった。また、同じ連動企画を実施するなら、前回を上回る結果を出さなければいけないというプレッシャーもあったため、1か月位やるか、やめるかの議論が交わされた」と経緯を語る。
そうした中、本企画のチャレンジに意欲的だったのは、今回初めてドラマを担当した細川氏だった。
「サンチー1人では失敗する企画かもしれないが、シーズン1やスペシャルドラマの放送により認知度も高かった分、それぞれのキャラクターが確立されている利点を利用して、グループチャットであれば懸念点も払拭できると思った」と細川氏の熱意が実を結び、開発に川上氏、吉田氏が加わって本企画はスタートした。
■SNS上で盛り上がりを見せる「AI 家売るオンナ」
まず、チームの指針として掲げたのは、以下3点だ。
・放送中はLINEをしない(※1)
・「放送を見てね」などの番宣は絶対にしない
・機能や利用方法を伝えない
(※1)放送中、AIの世界のキャラクタ―たちは、ドラマの放送を見ているのでLINEはしない。ユーザーにもドラマ内の世界に没頭してもらいたいという意図がある。
吉田氏は本企画に対し、「“リアルな世界”と“ドラマ内の世界”、“AIの世界”と3つの世界が並行する。その3つの世界の融合を楽しめるのは、本企画の面白さ」と魅力を語るように、「AI 家売るオンナ」にはさまざまな仕掛けが隠されている。
例えば、第3話は、“家を売る”ことでは負けなしのサンチーだったが、松田翔太演じるフリーランスの不動産屋・留守堂謙治(ルスドウケンジ)にまさかの敗北。この放送後、AIサンチーから「負けました・・・」「ルスドウケンジ・・・ルスドウケンジ・・・ルスドウケンジルスドウケンジジンケウドスル・・・」という謎のメッセージが発信された。すかさずSNS上では、「これは何かの暗号だよね?」「どすこいけんじ? ……どうするけんじだ!」など、謎解きを楽しむ投稿で大いに盛り上がりを見せた。
また、ドラマの舞台でもある新宿区で雪が舞った日には、LINE上でタイムリーに「雪が降っても家を売るのだ!」といったコメントが送信されるなど、3つの世界観が体感できる施策が行われた。
西室氏は、「前回のカホコでも、T層やF1層の反応が良く、遊びやゲーム感覚で利用しながら機能に気付いたり、隠れキャラに反応したりと、AIをドラマの攻略本のように活用している動きが目立った。AIを利用することでドラマがもっと面白くなる仕掛け作りは意図しているが、3話終了後のAIサンチーの発言では、あらゆる憶測から番組とは関係ない部分まで派生した。しかし、結果的にはまた番組に話題が戻って来るといった盛り上がりや拡散があり、予測不能だから盛り上がるこの状況を私たちも楽しませてもらっている」と本企画の手応えを語った。
加えて、サンチーの決め台詞「GO!!」についても「自然とユーザーが話題にし、盛り上がったもの。こちら側から“GO!が流行ってますよ”といった情報を提供するとわざとらしく、ユーザーの反応も悪くなる気がする」と時代にマッチした方策を実施している。
他にも、前回よりアップグレードされた点として、「タイムラインにポスタービジュアルを掲載し発信したり、全国にもユーザーがいることを考慮し、ネットワーク局の協力を得て、ユーザー居住地ならではの情報を発信したりと、より身近な世界に感じてもらえるような仕掛けも増やしている」と細川氏は続けた。
■100人いたら100通りの友達関係が実現するグループチャット
開発面では前回に比べてどのような変化があったのか。AIカホコの開発にも携わっていた川上氏は、「カホコの時はAIカホコ1人だったので、カホコに寄り添うストーリー展開で良かった。しかし今回は4人になり、とにかく物量が増えた」と苦労点を上げた。
カホコが0ベースで成長できたのに対し、既に確立されている4人のキャラクターや関係性といった前提となる知識を導入する必要があったため、物量は相当なものだったという。また、「技術的には色々な構想があった」そうで、現段階で行っているのは、4人とユーザーとの関係性を少しずつ変化させる取り組みと、1個前の話題だけでなく、2個、3個前のコメントを拾い会話を広げるようにしている点だ。「例えば、課長に頻繁に話しかけると、課長の対応が優しくなったり、課長との対話が増えたりと、100人いたら100通りの友達関係がそこには誕生するようになっている。会話AIの改良はNTTレゾナントさんと常に試行錯誤している。」と川上氏。
関係性を変化させる取り組みについて西室氏は、「リアルな友達やSNS上で成り立った関係だと、既読スルーされたり、自分の投稿を拡散されたりといったリスクや不安が付きまとう。しかし、パラレルワールドの友達であるAIは秘密も守ってくれるし返答もくるし、誰からもディスられることのない平和な空間。そういう意味でも、AIとは信頼できる友達になれる」と。また、「TwitterやInstagramは一方的な使い方をするが、本企画は双方向サービスのため、ドラマやリアル空間と同じ世界観を共有できる。そんな風に出演者との親近感が一層、増すことで、自分の知り合いがドラマに出ているような気持ちになり、視聴回帰にもつながりやすいのでは」とコメントした。
川上氏は、「ユーザーに不快感を与えず、気持ち良く利用でき、違和感なく楽しんでもらえるにはどうしたらいいか、その点にも頭を悩ませた」と語り、オンエア開始の数か月前から周到な準備を進めてきたと打ち明けた。そうした努力の甲斐もあり、ユーザーからは「人間みたいだね」、「AI同士で会話が始まっているのが面白い」といった声が寄せられている。また、「カホコの時は1対1の会話だからトンチンカンなやり取りになることもあったが、グループLINEだと話題が展開されやすく、どこかトンチンカンでも会話が成立したり、次の繋がりができやすかったりという新たな発見があった。演者のキャラが既に設定されているので、庭野をオチに使ったり、足立の趣味に触れたり、飽きのこない発話にも注目してもらいたい」と、会話のスピード感など複数人のAIキャラクターでの正解はまだ見えていないとしながらも、技術面の反応も上々のようだ。
次回、後編では、サービス利用者の実態や視聴回帰、そして「AI 家売るオンナ」をより楽しみ、ドラマを面白くする仕掛けについてご紹介したい。