“視聴率調査の雄”ニールセンとビデオリサーチが取り組む デジタル広告の新たな指標「DAR(Digital Ad Ratings)」(前編)
編集部
ニールセンが提唱し、デジタル広告の新たな計測指標として注目される「Digital Ad Ratings(DAR)」。リーチやGRP指標といった従来のテレビ視聴率計測の手法をベースに、Facebookユーザーのデモグラフィック(人口統計学的属性)をパネルデータとして掛け合わせることで、ターゲットとする属性における具体的な到達状況(リーチ)を見ることができる。
日本では、2017年1月6日にニールセンとビデオリサーチが業務提携を発表し、広告主・広告会社・媒体社へのDARの導入を推進している。この2社がタッグを組むことで、これからのデジタル広告はどのように変わっていくのか。両社に話を伺った。
【対談者】
宮本 淳氏(ニールセン デジタル株式会社 代表取締役社長)
五十嵐 達氏(株式会社ビデオリサーチ インタラクティブ 取締役副社長)
■「“展開”のニールセン」と「“基盤”のビデオリサーチ」がタッグを組む
──ニールセンとビデオリサーチ、競合他社同士の提携はメディア業界にとってもインパクトの大きな出来事でした。提携によってどんな相乗効果が見込めるとお考えですか?
五十嵐氏:もともとPCのインターネット視聴率領域では、ニールセン デジタル社の前身のネットレイティングス社と2004年より調査パネルの共同運営を行っていました。競合でありながら同時にパートナーという関係であったわけです。
提携に至る背景としては、時代の進化に伴う課題への対応がキーとなっています。TVerやradikoに代表されるように、近年テレビやラジオなどのトラディショナルなメディアのデジタル化が顕著となってきました。これまでマス4媒体のメディアデータを扱っていたビデオリサーチとしては、将来的にデジタル対応を含めたコンテンツ・広告のトータルリーチを描くことが求められると思っています。同時にこれは、生活者の広告やコンテンツのコンタクトポイントが増えていることも意味します。このような環境変化への対応が課題のひとつです。また、測定技術も課題としてあげられます。YouTubeやFacebookなどのグローバルのプラットフォーマーに関しては、第三者が独自に広告トラッキングを行うことは、GDPRなど個人情報保護の絡みもあり難しいのが現状です。これらの課題を解決する解が、ニールセン社の持つソリューションであり、海外での先行事例でした。
ニールセン社のソリューションであるDARを活用させていただき、これにビデオリサーチグループの持つ資産を絡めることで、新たな事業を提供できるのではないかと考えています。
宮本氏:デジタル分野では外資大手などを中心にグローバルで展開を行うプラットフォーマーが存在感を増す一方、メディア業界そのものはとてもローカル的な特徴を持っている、という現状があります。ローカルな部分だけを見ているとデジタルでは全体像を捉えることができないし、かといって日本独自の構図にも通じていなければ、新たな指標を国内に普及させることは難しい。そこで、ニールセンとしては、自社の強みと社外のパートナーの強みを活かしながらビジネスを展開していこうと考えました。
ビデオリサーチ社が、これまで長年のテレビ視聴率計測において構築してきた業界エコシステムを背景にしたパートナーシップにより、DARの市場における導入が加速すると期待しています。
■「F1層の何%に届いたのか?」ターゲット別のリーチが明確に数値化
──デジタル広告における新たな指標と目されるDARですが、これまでの指標と比べてどのようなメリットがあるのでしょうか?
五十嵐氏:「人」ベースでの計測になるので、これまでの指標では見えづらかった、ターゲット層への具体的なリーチの度合いを明らかにすることが可能となります。
DARでは、日本国内で2,800万人にのぼるFacebookユーザのデモグラフィックをパネルデータのひとつとして活用し、計測するデジタル広告のログとマッチングさせます。これにより、属性ごとのリーチやオンターゲット率を可視化することができます。たとえば『この施策で、ターゲットであるF1層に何%届いたか』という結果がはっきりとわかるのです。
──Facebookそのものが持つユーザー層の偏りは、結果に影響を及ぼしませんか?
宮本氏:そのような懸念はもっともです。例えば『Facebookは会社員の利用者が多いのではないか? もともとの属性に偏りがあるのでは?』と耳にすることもあります。
Facebookのデモグラフィック情報だけでは、代表性が求められる視聴率データとはいえません。あくまでパネルデータのひとつとして用います。ここで活きるのが、ビデオリサーチインタラクティブ社と共同運営してきたインターネット視聴率パネルのデータなのです。日本のインターネット利用者人口の縮図を再現したデータを用いることで偏りを補正し、代表性を担保しています。
■「実際の効果」がわかるDAR “媒体選びの指標”にも
──すでに日本国内での具体的な事例があればお聞かせください。
宮本氏:2017年10月から2018年3月にかけて大手ブランド広告主10社と協同で利活用研究会を立ち上げ、既存の集計方法と比較を続けてきたのですが、とても印象的な結果が得られました。
たとえばDARによって計測した結果、『F1層をターゲットとした施策なのに、実際にリーチした消費者には肝心のF1層がひとケタ台%しかいない』といったケースが可視化されたのです。
これまでは全体的なインプレッション数やユニークブラウザの数、そして類推で拡張したセグメントでしかプランニングするすべがありませんでした。DARによって実際の効果がはっきりとわかるようになることで、今後は具体的にどの媒体を使うと効率が良いか、といった指針も見えてくるようになります。
五十嵐氏:DARの集計データは最速で翌日には確認することができます。集計スパンも日単位に限らず週単位、月単位、また日時ベースでの集計を行うことができるので、1〜2週間程度の短いキャンペーンでも実施中に随時チューニングを行うことができるわけです。
これまでインプレッションやUB(ユニークブラウザ)といった「全体的な数字」を通じて“推定”することしかできなかった広告効果が、DARを通じて「ターゲットにどのくらい届いたか」具体的な数値として可視化することができるようになった。これまで「総量」で劣勢を強いられていたメディアなども、今後“変化”を迎えるきっかけになるのかもしれない。
後編では、DARの浸透によってこれから予想される広告業界・メディアの変容について掘り下げていく。
DARがテレビにもたらす変容とは?ニールセンとビデオリサーチが取り組む デジタル広告の新たな指標「DAR(Digital Ad Ratings)」(後編)