日本のドラマが海外に売れにくい理由〜【MIPCOM2018カンヌ現地インタビュー:国際ドラマフェスティバル in Tokyo 実行委員会副委員長重村一氏】(前編)
ジャーナリスト 長谷川朋子
海外に向けて日本のドラマのプロモーション活動を行うオールジャパンの民間組織「国際ドラマフェスティバルin Tokyo」が、フランス・カンヌで10月に開催された世界最大級の国際テレビ見本市MIPCOM(ミップコム)の期間中、今年も日本の公式イベント「J-CREATIVE PARTY」を主催し、海外バイヤーが「買いたい」日本のドラマを発表した。今回初の試みとして「リメイク」にスポットを当て、日本のドラマの海外展開を促進する仕掛けを作っていた。その狙いは何か? 日本のドラマの国際ドラマフェスティバル in TOKYO 実行委員会副委員長兼EPの重村一氏(ニッポン放送取締役会長)に現地で話を聞いた。
■アジアを席捲した韓国ドラマに対抗、カンヌで日本のドラマアウォード
世界110か国から1万3800人の業界関係者が参加するMIPCOMの期間中、国際ドラマフェスティバル in TOKYOは9回目を数える恒例の日本の公式イベント「J-CREATIVE PARTY」を10月16日午後6時30分からマジェスティック・ホテル・カンヌで開催した。
国際ドラマフェスティバル in TOKYOそのものの活動は2007年10月から始まり、「世界に見せたいドラマがある」「見てもらいドラマがある」を方針に掲げるオールジャパンの民間組織である。「東京ドラマアウォード」など国内外でドラマの促進イベントを企画し、MIPCOMと連携する「J-CREATIVE PARTY」はその活動の一環として、続けられている。
組織の立ち上げ当初から携わる重村氏はカンヌで「J-CREATIVE PARTY」を開催するようになった理由から説明してくれた。
「日本の各放送局のなかで、海外番販は比較的マイナーな仕事です。組織が立ち上がった11年前は、放送局や制作プロダクションの多くが海外にマーケットがあるとは考えていませんでした。活動を積み重ねるうちに、『東京ドラマアウォード』のグランプリ作品が実際に海外でヒットするケースも創出され、MIPCOMをはじめする海外のテレビ見本市で日本のセラーも積極的に日本のドラマを海外に売り出していくようになりました。経営者も制作者もセラーも意識が変わっていきました。カンヌで行う「J-CREATIVE PARTY」はいわば、海外にもマーケットがあるということを自覚させるために、刺激を与えるものだと思っています」
また世界の業界関係者が集まる場所で日本の公式イベントを始めることになったきっかけのひとつにあったのが韓国の存在である。
「以前、日本の関係者の多くは『日本が韓国に負けるわけない』と思っていましたが、国を挙げて取り組む韓国はアジア展開を拡大させていき、あっという間に韓国ドラマがアジアを席捲してしまったのです。日本も本気で売っていく必要性を感じたというわけです」
■アジアの視聴者にとって「日本のドラマは観ると疲れる?」
こうしたなか、カンヌのMIPCOMで「J-CREATIVE PARTY」が企画された。イベントの目玉として、MIPCOMが推薦したバイヤーが日本のドラマの中から「買いたい作品」「自国で放送したい作品」という観点で優秀作品を選出するアウォード「MIPCOM Buyers’Award for Japanese Drama(ミップコム・バイヤーズアワード・フォー・ジャパニーズドラマ)」を創設し、毎回、授賞式が行われている。
これは海外バイヤーに「日本のドラマを視聴する機会を作ってもらうこと」が目的にある。基本的な話ではあるが、それだけ日本のドラマは海外マーケットでは「売りにくい」商品になっていたのだった。というのも、海外バイヤーから総じて『クオリティが高い』と評価されている一方で、30話以上の話数を求めるアジアの放送局向けには話数の足りなさが問題になっていた。さらに、アジアのマーケットでは『心理描写が多い』ことがマイナス要因になってしまっていた。
「かつては日本のドラマも気軽に視聴できるドラマが多かったのですが、制作力が増し、成熟していくうちに、脚本家も演出家も心理描写を重視するようになっていきました。特にアジアの視聴者から『日本のドラマは観ると疲れる』と言われることが多いことも事実です。心理描写が細かく描かれているので、集中して観る必要があるというのです。それに比べて、韓国のドラマは『バラエティを観る感覚で楽しめる気軽さ』によって人気を得ています」
むしろ欧米向きとも言える日本のドラマだが、日本人だけが出演するドラマは欧米の視聴者には馴染みがないため、そのままでは売りにくい。売れる相手が見つかりにくいような状況が続いていた。それを解決する手段としてあったのが、実はリメイクだった。
世界的にも流通手法としてドラマのリメイクが活発化していくなかで、「今年はアウォードの審査基準にリメイク性を加え、海外バイヤーにさらに興味をもってもらう仕掛けを強化しました」と重村氏は説明する。具体的にはエントリー要件を「リメイク可能なコンディションの作品」とし、審査基準のひとつに「リメイク性」を加えた。
『Mother』がトルコで大ヒット、3つの課題を解決させるリメイク展開
リメイクにフォーカスされた背景にはトルコで日本テレビのドラマ『Mother』『Woman』が揃って成功したことも大きく関係している。2016年~2017年に『Mother』が日本のドラマとしては初めてトルコでリメイクされ、好評を得た。そのトルコ版は世界31か国・地域以上で放送されるほど。
「トルコは日本の3つの課題を解決させてくれました。トルコの役者はヨーロッパ系の方も多く、アジア以外の地域でも受け入れられやすい。そして、話数の問題もトルコでリメイクされることによって30本以上に増え、いろいろな地域で放送しやすい条件に達しました。それに加えて、『Mother』『Woman』がトルコで爆発的にヒットしたのは、日本テレビの対応に尽きるでしょう。トルコ版の制作段階で脚本家の坂元裕二さんと演出家の水田伸生さんを現地に連れて行き、自分たちの精神を伝えたと聞いています。トルコ側の脚本家も演出家もそれを活かすかたちでリメイクしようということになったからこそ、成功したのだと思います。またトルコでこれまで放送されていたドラマとは異色の内容であったことも視聴者に新鮮さを与えました。日本のドラマをリメイクするとヒットするという流れができたことは、嬉しいことです」
重村氏は日本のドラマのリメイク展開に大きな期待を寄せている。
「ゆくゆくは日本がハリウッドとドラマを制作することもあり得る話だと私は思っています。日本の脚本家が描いたドラマがハリウッドでリメイクされ、ハリウッドと日本の役者が出演するドラマがそのうち生まれていく可能性もあるでしょう。実際にフジテレビがドイツとドラマ開発をはじめ、また『電車男』をハリウッドでリメイクする話も進んでいます。J-CREATIVE PARTYを開催することは、日本の制作者や経営者の意識が変わっていくために必要なことだと改めて思います」
今年も会場では海外でも人気の寿司など、日本食も提供され、恒例の日本イベントが滞りなく行われた。MIPCOM期間中、こうした国別のおもてなしパーティーは行われており、それぞれのやり方でプロモーションが行われている。この手のイベント開催の効果はみえにくいものだが、継続していくなかで、マーケットのニーズに合わせて価値を生み出していくことが大事なポイントだ。日本全体の番組コンテンツの海外展開にはまだ課題はある。後編はそんなことにも触れながら、引き続き重村氏から聞いた話をお伝えしたい。