日本テレビ、eスポーツ事業参入の背景と理由~担当者に聞く<vol.1>
編集部
日本テレビは、6月29日にeスポーツ事業への参入を発表。子会社「アックスエンターテインメント株式会社」を設立し、eスポーツチーム「AXIZ(アクシズ)」を立ち上げる。
「AXIZ」は、さまざまなジャンルのゲームでプロ選手を抱えるマルチゲーミングチームと呼ばれる形態。最初の部門として「カードゲーム部門」を設立し、「シャドウバースプロリーグ」に参戦する。
また、タレントのDAIGOと生駒里奈、ゲームキャスター 岸大河らが出演する地上波でのeスポーツ専門番組「eGG(エッグ)」も放送開始となった(月1回)。
この事業の立ち上げの経緯や今後の展開について、アックスエンターテインメント株式会社 代表取締役社長 小林大祐氏、チームマネージャー 橋本弘美氏にインタビューを行った。前編・後編に分けてお届けする。
■若年層で男女問わず支持してもらえるコンテンツ
――日本テレビの新規事業社内公募制度「NTVIP(日テレイノベーションプログラム)」に提案があったことが、eスポーツ事業の立ち上げに繋がっているとのことですが、まずは「NTVIP」について伺えますか?
小林氏:私は、この制度の立ち上げ・運用を、まだ名前が異なる制度だった初回から担当していました。日本テレビグループに所属している社員が新規事業を提案できる制度で、外部にも声をかけることが可能です。昨年行った募集では、200件近い応募がありました。提案されたものの中から、十数件を研究テーマとして取り上げ、提案者による事業化が可能かを検証します。可能と見込まれるなら、社内各所へ提案し事業化へと繋げていきます。
eスポーツについては初回から提案がありました。それが橋本の提案だったのですが、当時はまだタイミングとして早いかなという判断でした。その後、昨年の「NTVIP」では、eスポーツに関する提案者が一挙に18名になり、社内的にも関心が高く、「やるべきだ」と研究を推進してきました。事業化に向けて提案者が研究を進める中で、この領域に私自身も関心があったということもあり、ハンズオンでリーダーとして推進する役割を担いました。現在はeスポーツ事業にほぼ専念しています。
――eスポーツ事業に参入を決めた理由について、改めて教えていただけますか?
小林氏:放送業界の視点からすると、ネットでコンテンツが観られる時代になり、特に若年層のネット利用が年々増えている中、放送と配信の両方を活用して、より支持されるコンテンツを開発することが急務となっています。これは日本テレビが中期的に持っている課題感でもあります。そういった中で、eスポーツは若年層、10代後半から20代を中心に注目されているコンテンツであり、その課題感にマッチするものです。プレーヤーは男性が多いですが、あるゲームやある大会における調査によると、男性より女性の観戦者が多いということもわかってきており、若年層で男女問わず支持してもらえるコンテンツだと捉え、参入を決めました。
――橋本さんは社内公募制度で2回ともeスポーツ事業を提案したとのことですが、どのような提案をされたのですか?
橋本氏:1回目はeスポーツ元年と言われる前でしたが、この時は配信プラットフォームが少ないということもあり、プラットフォームを作る提案をさせていただきました。その際にもらったフィードバックも踏まえ、再び提案を行いました。ただ、私だけではなく、eスポーツ事業を提案した18人の提案を合わせて事業として始めた形となっています。
――eスポーツへの思い入れも強かったのでしょうか?
橋本氏:今回チームとしてプロリーグに参加するカードゲーム「シャドウバース」も随分長くプレーしていまして、格闘ゲームも10年やってきています。マネージャーとして、一緒に戦略を立てたり、選手に寄り添ったりして戦っていきたいなと思います。
小林氏:彼自身がプレーヤーとしても強いので、コーチングの目線でもチームの選手と一緒に戦ってもらえたらと思っています。
■番組は「eスポーツ版Going!」になれたら
――放送でも「eGG」という番組を地上波で月1回展開、TVerなどを通してWebでも配信されますね。
小林氏:この番組では、プロのすごいプレーを丁寧に解説することにチャレンジしています。あくまで「ゲーム作品」という切り口ではなく「人」にフォーカスした紹介をすることで、「こういう風に頑張っているんだ」という姿を見せ、eスポーツに取り組むゲーマーに対する(世間の)意識を変えられるのではと思っています。
番組は、「AXIZ」以外にもいろいろなチームや選手に登場いただいて、eスポーツシーンの最前線を伝えていくことを目的にしています。一方で「AXIZ」の選手は、必ず番組に出ることになるので、選手たちには露出増というメリットが提供できます。番組の頻度増や拡充ももちろん考えていけたらと思います。日本テレビでは、スポーツ番組『Going! Sports&News』(毎週土曜、日曜23:55~)という番組が放送されていますが、「eスポーツ版Going!」といいますか、ゆくゆくはあのような週2回放送されるほどの形になるといいなと思います。あるいは、eスポーツがスポーツとして認識されると、『Going!』のようなスポーツニュースの中で取り上げられるようになっても面白いですね。それが究極の状態と言えるかもしれません。