夢は大きく!広島ホームテレビが取り組む「プロジェクションマッピング」今後の展望
編集部
株式会社広島ホームテレビ(本社:広島市中区、以下広島ホームテレビ)が5年前から制作しているプロジェクションマッピングについて、同社 総合編成局 編成部 担当部長 プロジェクションマッピング事業 山下晴史氏にインタビューした。
前編の「テレビ局はエンターテインメント企業!広島ホームテレビが手がけるプロジェクションマッピング制作」では、同社が新規事業に取り組んだきっかけや経緯、放送外収入に対する考えや収益化についてお伺いしたが、後編となる今回は、今年4月に開始された、屋内では中四国地方最大となる常設プロジェクションマッピングを利用した、新感覚エンターテインメント「ワープする路面電車」の制作秘話と今後の展開について伺った。
■時空間を演出する全く新しい体験型アート『ワープする路面電車』の取組み
同社ではテレビ局ならではのメディア力と地元テレビ局としての高い信頼性、テレビ映像制作のノウハウを活かし、商業施設向けのプロジェクションマッピングをはじめ、えひめこどもの城(松山市)のデジタルアートアトラクション「ミラクルたまごの泉」の制作などを行ってきた。また、5月末には広島で行われた「第117回日本皮膚科学会総会」に参加し、皮膚の3DCGのVR展示に携わるなど、様々な要望に応え実績を積み重ねている。
そうした中、「THE OUTLETS HIROSHIMA(広島市佐伯区)に、広島電鉄から寄贈された3両編成の路面電車を展示する広場が出来るが、何か面白いことが出来ないか」とイオンモール株式会社から相談を受けた同社は、新進気鋭の開発ユニット、AR三兄弟とタッグを組んで「ワープする路面電車」の制作にあたった。依頼からおよそ1年半を要した一大プロジェクトは、どのような形で進んで行ったのか。
■『ワープする路面電車』概要
依頼時に決まっていたのは、実際に運行していた3両編成の路面電車が、1階ステーションコートに展示されるということのみ。瀬戸内海の風景を中心に、春夏秋冬に合わせた映像を投影、インタラクティブな要素も持たせるという企画からスタートした。しかし、単に見るだけのマッピングや、同じストーリーを何度も流すのでは飽きられてしまう、何か仕掛けが欲しいと思い、縁のあったAR三兄弟に相談し、コンテンツディレクターを務めてもらった。そこから「ステーションコートを始発駅として、一緒に旅をしてもらう。その電車に乗っている気持ちになれたり、走っている電車を外から見ている気持ちになれたり、色々な感覚をプロジェクションマッピングで体験してもらう」というコンセプトが生まれた。その上で、行き先や車体の色を選び、何通りも楽しめ、車体全体と床を巨大スクリーン化した、スマートフォンと連動する最新技術を駆使した参加型プロジェクションマッピングの制作につながった。
1日に4度行われる投影だが、アウトレット内でも表立った宣伝はしておらず、ステーションコート自体が憩いの場でもあるため、「何の気なしに立ち寄って、“何やっているんだろう?”と興味を持ってから参加してもらえたらいい」と、あえて説明も非常にシンプルなものにし、係員も配置していないそうだ。それがかえって関心を引く効果があり、子どもからお年寄りまで、常時、定員数を満たし、楽しんでもらっている。
■失敗がノウハウになる!制作を通して学んだこと
AR三兄弟とタッグを組んだことに触れると、山下氏は、「彼らは放送局と相通じるところもあるが、アーティスト、芸術家です。アイデアをカタチにする方法や考え方、絶対に妥協しないところは本当に勉強になった」と語った。また、苦労した点を尋ねると、「設備の打ち合わせには相当の時間を要し、計11台使用するプロジェクターの選定からシステム設計が難航した。特にテクニカルディレクターは、オープン前は徹夜で作業する日々が続いた」と話した。
開業から3か月、大きなトラブルはないが、テレビ放送と同じで、日々、想定外のことは起きているという。しかし、「トライ&エラーを繰り返し、次は同じ失敗をしないよう心がけているのはもちろん、失敗はノウハウになるから頑張ろうとみんなで話している」そうだ。
■勉強と努力を積み重ねてきた日々
インタビューの中で、何度も山下氏の口から「勉強」という言葉が出てきたのだが、3DCGやテクニカルな知識もあるのでその経歴を尋ねると、入社34年、最初の10年は報道を務め、その後はメディア開発部に配属され、web制作やデジタル放送の立上げなどの業務を担当し、現在に至るそう。そのため、「新しい部署や事業に携わるたびにゼロから勉強し、スタッフが具体的にどういう仕事をして、どのくらいの労力をかけているのかを立ち合って調べるようにしている」と。また、安請け合いやトラブルを避ける意味でも自ら把握し、事業が終わる毎にチェック表を配布して課題点をまとめるといった作業を繰り返してきたと語る。「そうしないと前に進めない。毎回心が折れるのは本当に嫌だから」と笑いながら山下氏は語るが、そうした努力を惜しまない姿勢こそ、新規事業展開で成果を出す上では大切なことだ。
■夢は大きく!広島ホームテレビの今後の展望
今後の展望について尋ねると、直近では「県内の支援事業にエントリーしたい」と回答。また、「弊社のプロジェクションマッピング事業はまだ確固たるものがないので、独自のカラーになる新商品(独自商品)の開発を検討している。とにかく色々なことに挑戦していきたい」と続けた。
前後編にわたり、広島ホームテレビの取組みについてお届けしたが、同局が取り組むこの新規事業が、今後どのような発展を遂げていくのか、その動向を追っていきたい。