広島テレビが、感染症予防啓蒙で厚生労働大臣優秀賞を受賞した理由は?
編集部
広島テレビの「子育て応援団 感染症の予防クロスメディアプロジェクト」が、2015年11月に「第4回健康寿命をのばそう!アワード(母子保健分野)で厚生労働大臣賞を受賞しました。感染症の予防、特に予防接種について科学的根拠を持って伝え続けたことや、ネットワーク各社との連携が評価されたものですが、ローカルテレビ局が発信する医療情報とは何なのでしょうか?
■子育ては24時間365日続くもの。何か支援を!
広島テレビは、「子育て応援団」と「感染症予防事業」を通じて、子どもたちの成長と子育てを支援する事業を続けています。特に「感染症予防事業」については、ローカルテレビ局の、あるいはテレビの枠を超えた、全国から注目されるコンテンツづくりに力を入れています。
「2004年から続く年に一度の『子育て応援団 すこやか』という子育て支援イベントがあって、医師会などからもっと同じようなイベントができないか、という声をいただいたのがきっかけです」と経緯を語ってくれたのは、広島テレビ・イノベーション事業部の益村泉月珠チーフプロデューサー。
しかし、2日間でおよそ4万人も集めるような大規模イベントを何度も行うのはかなりの労力が必要。当然、それは難しいという判断になったのだそう。その代わりに、情報で子育てを支援するという方法に着手します。
「子育てって、24時間365日ずっと続くものなので、それを支えるのは、いつでもアクセスできる情報サイトをまずはつくろうということになったのです」(益村さん)
広島テレビは、2008年に「子育て応援団モバイルサイト」を立ち上げます。子育て中のお母さんは赤ちゃんを抱っこしたままパソコンは見ないと考え、当時主流のガラケーで簡単に見ることができるモバイルサイトを構築しました。
■「子育て応援団」から、「感染症・予防接種ナビ」が独立
企画の中には、厚生労働省と国立感染症研究所との連携した内容も加わり、日本医師会の後援を取り、テレビ局30局との連携も行うまでに成長しました。そして当時、120万PV、30万人のアクセスを得るほど注目を集めることになります。
やがて時代の変化とともにパソコンサイト、スマホサイトの構築を進め、情報もより充実させていきました。
一方で、情報を充実させたがために、モバイルサイトの中で感染症情報があまりにも膨大になり過ぎた、という問題が起こります。そこで2014年には感染症情報だけを切り出した「感染症・予防接種ナビ」という別のサイトを構築することに。
■情報発信の軸足が、「感染症・予防接種ナビ」に移る
「最初は子育てを軸に進めていましたが、感染症の情報は『感染症・予防接種ナビ』から出すようにし、サイトの構造も変えて、情報発信の軸を変えることになりました」(益村さん)
この事業は「子育て応援団 感染症の予防 クロスメディアプロジェクト」となり、広島テレビがオープンデータ・ビッグデータ・専門家情報を取材しわかりやすく加工し、「感染症・予防接種ナビ」にて情報提供発信を行うという流れになりました。
日ごろからの情報発信はインターネットサイト、データ放送、全国ポータルサイトで行い、特別な情報発信はステージイベント、特別番組、インターネット配信、番組のDVD化を通じて行っています。
さらにこのプロジェクトは、「予防接種お助けツール」など医療ICTへの広がりを見せていき、2015年11月には、第4回健康寿命をのばそう!アワード(母子保健分野)で厚生労働大臣賞を受賞しました。
■メディアの役割は、「つなげる」ことと「伝わる」こと
「一時期、テレビでは予防接種に関して副反応の情報ばかりを流して、ワクチン接種をしないことによる感染、重症化のリスクを伝えていないことがありました。専門家からは『正しい情報を伝えてほしい』という要望があり、伝えたい側と知りたい側を、信頼できる正しい情報でつなぐということを意識しています」(益村さん)
予防接種は確かに間違えると悪になりますが、その課題を解決するために、間違いを防ぐための情報やアプリの提供に、広島テレビは力を注いでいます。
伝える情報には情報元をきっちりと明記し、難しい医学用語はなるべく易しく噛み砕いて解説するようにしているのが評価される理由です。
「ただ『伝える』のではなく、『伝わる』情報発信をするがメディアの役割です。それができる力を、テレビは持っています」(益村さん)
広島テレビは、政府(とりまとめ内閣府)が進める2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術イノベーションの取組に関するタスクフォースの「感染症サーベイランス強化(リーダー府省:厚生労働省)」に参加しています。
感染症情報については、全世界から人びとが集う2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けても重要性が高まることでしょう。これから広島テレビが行う情報発信に、注目と期待がふくらみます!
――広島テレビ放送株式会社 イノベーション事業部 益村泉月珠氏プロフィール
山口県出身。大学は工化学系の学部を卒業し、現在は広島テレビのチーフプロデューサーとして活躍中。仕事では日々「挑戦」をし続けるかたわら、休日は母親として息子と過ごしている。現在注目しているのは「東京オリンピック・パラリンピック」。