地域貢献に向けて解き明かさなければいけないパズル「第2回マル研カンファレンス2017 ~ローカル放送局のAutonomy(自律)~」<vol.1>
編集部
マルチスクリーン型放送サービスの実用化を目指す「マルチスクリーン型放送研究会(マル研)」が、「第2回マル研カンファレンス2017 ~ローカル放送局のAutonomy(自律)~」を慶應義塾大学三田キャンパス北館ホールにて開催した。
カンファレンスは3部構成。1部・2部では「ウチは最近こんなことやってま~す」をテーマにローカル放送局10社によるプレゼンリレーが行われ、3部では慶應義塾大学環境情報学部教授・村井純氏を招いての基調講演、および講演内容を踏まえたパネルディスカッションが展開された。本カンファレンスの内容を全3回に分けて報告する。
プレゼンリレーでは、テレビ大阪株式会社の西井正信氏(写真:右)、讀賣テレビ放送株式会社の福井健司氏(写真:左)を司会に、各局の担当者が現在進行中の施策について約10分ずつプレゼンテーションを行った。第1回目は、これらのプレゼン内容の中から「地域を活性化させるビジネス展開」にフォーカスし、各社の施策をピックアップする。
■BtoBビジネスを積極的に展開、新規ビジネスのプロデューサー的な役割も担う
・広島テレビ
広島テレビ放送株式会社では、「地産全消」をテーマに最先端技術を使用したローカル発のビジネス展開を推進している。広島テレビ放送株式会社 営業本部営業局事業部 片山裕太氏は、「現在手がけているのは、8K対応実写高精細VR「バーチャルツアー」と、以前Screensでも紹介した「動画写真投稿システム」であると語った。
「バーチャルツアー」では、2.5憶~40億画素の超高精細な画質や、全デバイス・全OS対応の環境に依存しないスムーズな閲覧環境などを提供している。たとえば「カープ公式スタジアムバーチャルツアー」では、スタジアム内の様子を超高精細なVRで見ることができる。片山氏は「各座席からの眺めを確認した上で、座席の特徴やチケットの価格なども確認できる。」とバーチャルツアーのメリットを紹介。VRの製作にあたっては「他社との差別化を図るため、独自インターフェイスと独自エンジンを採用し、様々なカスタマイズにも対応。オーダーメイドで模倣困難な、最高品質のVRの提供を目指している」と語った。
※「バーチャルツアー」「動画写真投稿システム」については、こちらの記事を参照。
・奈良テレビ
奈良テレビ放送株式会社 クロスメディア局開発部 次長兼技術部長 浅井隆士氏は、「地域創生を目指す事業の一環として『1300年のベトナムつながりプロジェクト(平成29年放送コンテンツ海外展開助成事業)』を実施している」と自社の取り組みを紹介。この事業の狙いは、ベトナムのテレビ局と共同で番組をつくり奈良から情報を発信して、インバウンドを促進することにある。プロジェクトは現在進行形で、その様子はFacebookで随時配信されている。さらに、連動事業ではベトナムの人に奈良の特産品を紹介する「にっぽん奈良祭り」や、奈良県の優良企業とベトナムの企業とをつなぐ商談会も開催。浅井氏は「特に法人向けの商談会は奈良県からは10社、ベトナムからは96社が参加するなど、大盛況だった。奈良テレビでは今後も放送の枠を超えたマネタイズに力を入れていく方針だ」と語った。
同じく、クロスメディア開発部・技術部・アナウンス部 名倉涼氏は、自身が出演するLINE LIVEのネットオリジナル番組について「スマホ1台で手軽に撮影・配信を行っている」と説明。ほかにも奈良テレビ放送では、無料動画配信サービス『エムキャス』でのネットサイマル放送や、Yahoo!ニュース・LINE NEWSへの記事提供など、放送以外の事業にも積極的に取り組んでいる」と語った。
・株式会社仙台放送
仙台放送では、『仙臺いろは』というブランドで、地域活性化と誘客促進を目的としたクロスメディア展開(テレビ放送、マガジン配布、WEB・SNS配信)を行っている。
その一例として、株式会社仙台放送 ニュービジネス開発局デジタル事業部 工藤健太郎氏は、「『Yahoo!MAP』アプリで“せんだいいろは”と検索すると、番組で紹介された店舗や施設が一覧表示されて詳細情報の掲示やルート検索ができる。さらにアプリ上で『GYAO!』に遷移すれば、コーナー動画を無料で視聴することも可能だ」と説明した。
仙台放送では地域の災害対策や減災への取り組みにも積極的だ。工藤氏は「災害時の情報伝達ツールとして東北大学とNTTドコモ、構造計画研究所が開発した『スマホdeリレー(R)』の実証実験を、4社共同で実施した」と語った。その一方で、「脳体操コンテンツ」や「ドクターサーチ」といったコンテンツ開発にもチャレンジしており、地域を超えて日本全国で展開可能なコンテンツでマネタイズ化も目指している。
■地域メディアとの連携に積極的に取り組む
・テレビ大分
株式会社テレビ大分 経営戦略局経営戦略部 阿部洋樹氏は、「地域のきずなを深めるために他メディアとの連携を強化している」と語った。
2017年3月にはJ:COM大分とコラボレーションし、イベント共催やコンテンツの共同制作を開始。6月には大分合同新聞社と共同で県内のスポーツを応援するWebサイト&アプリ「オー!エス!OITA SPORTS」をスタートし、県内で活躍する学生の素顔や熱い試合の様子などをお届けしている。また、高校野球特集では、年3回程書籍化して販売も行っているそうだ。「今後は災害時の連携や4Kの共同制作などで、他メディアとの連携をさらに深めていく予定」と、阿部氏は自社の方針を示した。
■技術のイノベーションでローカル局全体に貢献
・東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)
東京メトロポリタンテレビジョン株式会社 事業局クロスメディア推進部 服部弘之氏は、「マル研として国際放送機器展『InterBEE 2017』にも出展した放送局が共通で利用できるテンプレートが実現できたら嬉しい。」と説明。
『InterBEE 2017』で展示したものは、マル研で各社協力のもと開発したコンテンツ管理システム「シンクキャスト(Synccast)」を利用しハイコネ(TM)(ハイブリッドキャストコネクト)とテレビのハイブリッドキャストが接続できる様にすることを想定、テンプレート化することによって、制作コストや労力の削減が出来る。コンテンツの内容としては通販用WebRTCテンプレート、4KIPマルチキャストを利用した放送の同時再配信テンプレートなど。いずれも民放ローカル局のビジネス展開をサポートする仕組みになっている。
特に2016年から推進しているWebRTCとハイコネ(TM)を融合させたモデルは画期的で、服部氏は「オペレーターと視聴者の双方向のやり取りを強化することで新たなビジネスモデルの展開が期待できる」と語った。
各社の取り組みから、放送とWebのイノベーションが進むほど、地域密着のためのアイデアが多様化している現状が見えてきた。「数ある技術の選択肢から、なにを選び取り、どのように組み合わせるのか」というパズルのなかに、ローカル放送局のAutonomy(自律)を確立する答えがあるのかもしれない。
次回は、次世代技術やサイマル放送にフォーカスして、各社の取り組みを紹介する。