クライアント・視聴者・流通、すべてに有益なエリアメッセージCMの可能性
編集部
フジテレビ『しあわせが一番』(毎週月曜22:54~)の「キリン一番搾り」のCMが、地上デジタル放送では初めての「エリアメッセージCM」を提供したことで、クライアントが望むより細やかなマーケティングが実現したと同時に、視聴者にとっても目新しく親近感のあるCMとして強く印象に残る結果となった(前編「地デジ初「エリアメッセージCM」制作の裏側~視聴者の印象に強く残る戦略とは?~」参照)。
後半となる今回は、エリアメッセージCMの可能性と課題について、同企画に携わった株式会社フジテレビジョン 編成局編成センター 編成部 長嶋大介氏(企画当時:営業局スポット営業部)と営業局営業推進センター 営業推進部 野﨑理氏にうかがった。
■チラシやDMとの連動、QRコードや気象情報によるエリアメッセージCM
――データ放送機能を利用する取組みとして、今後どのようなことができるようになりますか?

長嶋:今回はテレビに登録されている郵便番号を元に、エリアごとに異なるメッセージを提供する形を取りましたが、テレビがインターネットに接続される時代には、顧客データをお持ちのスポンサーさんであれば、その精査されたデータベースと突き合わせることで、戦略的な宣伝ができるようになることを期待しています。
野﨑:現状では、構成されるデザインを大幅に変えて行う出し分けは10地区程度、デザインは固定して、文字だけ差し替えるかたちであれば50地区程度の出し分けが可能です。
例えば、フランチャイズの英会話教室のCMを流す場合、画像は同一にし、”渋谷校”、”横浜校”など文字要素のみを替えるなら、各居住地に合わせた50パターンのCMとして広告訴求することが可能です。他にも、新規店舗の開店キャンペーンを、必要な地域だけ集中的にエリアCMを流しお知らせすることもできます。
長嶋:その他にも、チラシやDMを投下した地域だけに配信など、限定してCMと連動することもできますね。また、L字部分に「QRコード」を入れて、エリア限定でクーポン券をプレゼントしてサンプリングに誘導することも可能ですから、既存のデータ放送機能の応用範囲は広いと感じています。

野﨑:唯一デメリットがあるとすれば、L字画面で挿入することで、映像の部分が小さくなってしまう点ですが、これは「オーバーレイ」といって、画面を絞らずに映像の上に文字を載せることでクリアーできるのではないかと思います。
長嶋:朝の情報番組で天気予報が出るようなイメージですね! 他にも現在食品メーカーさんと進めているのが、視聴者が居住する気象予報に合わせたCM配信の企画です。気象予報は5分毎に更新されますから、「天気予報が晴れだったら」「最高気温が30度以上だったら」といった各種条件に合わせて該当居住地の方へCMを配信することも技術的には可能です。
野﨑:エリアメッセージCMの優れている点は、条件をクリアーした場合にインターネットから情報を受け取るのではなく、あらかじめすべての情報を送っておいて、条件をクリアーしたところ だけに表示ができるので、この取組みは今後、全国でも展開していけると思います。
■エリア+視聴者ニーズ+流通ニーズを意識したマーケティング展開
――他にもエリアメッセージCMで期待できることはありますか?
長嶋:エリア毎に広告を打ちたい商品が替えられるので、流通においても貢献できるのではないかと考えております。
野﨑:本企画自体、もっと細かくエリアマーケティングに踏み込んでいけないかというところから始まっていますから、これまでのCMのように露出するだけでなく、CMがもう一歩踏み込んだツールになりえるのではないかという可能性を感じています。
――一歩踏み込んだツールとは、どんなイメージでしょうか?
長嶋:本企画では、エリアを限定することで、視聴者の生活に寄り添ってCMを届けることが実現したわけですが、それに加えて小売・流通まで枠組みを広げていける可能性があると考えています。例えば、あるエリアのスーパーマーケットの近隣の視聴者の方々に向けて、メーカーが販売を強化したい商品の情報や割引クーポンを流すことによって購買意欲を促し、店舗に送客していく。売り場支援にもつながると思います。
野﨑:メーカーや広告会社は商品の魅力を訴求すると同時に、視聴者と商品の接点となる店舗をいかに盛り上げるかという課題を抱えていますから、本企画のようにエリア+視聴者ニーズ+流通ニーズを意識したマーケティング展開は、今後さらに重視されていくのではないかと思います。
■エリアメッセージCMの課題とネットタイムCMへの意欲
――エリアメッセージCMの課題点は?
野﨑:エリアが細かすぎても運用面でのリスクが生じるので、どのくらいのエリアが適正なのか、まだ探っている状況です。実際、お客様によってニーズや特性が異なるので、どのような対応ができるかという点も課題ですね。まだルールが明確ではないので、そういった取り決めも今後は必要になってくるのかもしれません。
――現状は関東ローカルのみでの出し分けですが、ネットタイムやスポットCMでの配信はお考えですか?
野﨑:ネットタイムについては今後系列局にも協力を仰ぎながら、本格的に検討していきたいと思っております。ただ、スポットCMについては技術的には可能ですが、さまざまな制限があるため、現在は、タイム枠での運用をメインに考えております。

まだ課題は残っているようだが、今回のデジタル放送機能を利用した取組みをきっかけに、より視聴者を惹きつけ、強く印象に残るテレビCMが創造される日は近いと予感させるインタビューだった。