地デジ初「エリアメッセージCM」制作の裏側~視聴者の印象に強く残る戦略とは?~
編集部
フジテレビ『しあわせが一番』(毎週月曜22:54~)の「キリン一番搾り」のCMが、地上デジタル放送では初めての「エリアメッセージCM」で提供されていたことはご存知だろうか。
これは株式会社キリンビールが発売した「47都道府県の一番搾り」を展開する上で、関東1都6県の視聴者ごとに異なるメッセージを届けたいという同社の希望を受け実施された試みだ。
テレビの場合、一度に同じメッセージを多くの人に届けるマスリーチは得意だが、デジタル広告のように、エリア別にきめ細かなマーケティングを行うのは不得意とされてきた。しかし、今回、データ放送機能を利用することで、それぞれのテレビに登録されている郵便番号を元に、エリアごとに異なるメッセージを視聴者に提供することが実現。視聴者は「キリン一番搾り」のCM映像と共に、L字画面で自分が住む地域限定のメッセージを受ける形となった。
通常のCMとは異なり、エリア別にきめ細やかなメッセージを伝えられる今回の事例は、広告販売における可能性はもちろん、流通支援といった部分でも貢献できるようになると予見されている。
そこで今回は、同企画に携わった株式会社フジテレビジョン 編成局編成センター 編成部 長嶋大介氏(企画実施時は営業局スポット営業部)と営業局営業推進センター 営業推進部 野﨑理氏に、エリア別データ放送CMの実施背景と、その反響について聞いてきた。
■クライアントの要望を満たし、視聴者に寄り添ったCMの実現
――本企画はクライアントとどのようなやり取りの中で具現化されていきましたか?

長嶋:フジテレビの中でエリアメッセージCMという新商品を企画開発していまして、実際に提案作業に入るにあたり、クライアント側(キリンビール)から都道府県ごとに限定販売するキリン一番搾りのキャンペーンのお話があり、最適なのではないかと思い社内で検討し提案、実施に至りました。商品の“地元の誇りをおいしさにかえて”というコンセプトに合わせ、テレビCMを用いて地元の視聴者の方に寄り添う訴求方法を提案できたのではないかと思います。
野﨑:弊社では常々、「新しいことをしていこう」という社風があり、昨今、デジタルの進化ばかりに目が向けられている中で、テレビでも目新しいことを仕掛けたいという気持ちがありました。デジタルの優れているところは、個々の特性や趣味嗜好を捉えユーザーの関心を掴むことにあると思うので、マスを対象とするテレビがさらに個々に寄り添い訴求する今回の企画は、クライアント様の要望を叶えると同時に、視聴者にとっても親近感を与え印象に残るCMになったのではないかと思います。
■結線しているかのように見せるエリアメッセージCM
――本企画の特徴は?

野﨑:今回のエリアメッセージCMは、テレビがインターネット結線していない人たちに対しても、さも結線しているかのように見せることができた点が、演出効果として大きかったと思います。今後、テレビ受像器のインターネット結線率が高まれば、映像自体も差し替えられるようになるなど、できることも増えますが、現状、結線している世帯が少ない中で新しいCMの演出ができたことは非常に良かったです。
■認知度が向上!「自分のため」に放送されるCM配信の効果
――エリア別データ放送CM後の反響について
長嶋:キリンビール様からは、在京キー局では難しかった、より細やかなマーケティングをする試みとして、よい評価をいただいております。関東1都6県すべての視聴者に同じCMを放送するのではなく、県域ごとにセグメントして商品訴求が行えました。視聴者が地域限定のCMを見て「自分ごと」と捉えられたことで、関心を引き寄せることにつながっていると思います。
事実、エリア別データ放送CMによる反響はどのくらいあったのか、フジテレビが視聴者を対象に「キリン一番搾りが限定販売されていることの認知」に関する調査を行ったところ、起動認知率は57.3%。データ放送が起動したことについての印象としては、「わかりやすい」「目立つ」など好意的な反応が強かった。

また、通常のCMとL字ありCMを比べると、「印象に残る」「インパクトがある」「興味がわく」「つい見てしまう」など注目度を高め、記憶に留める効果ではL字ありCMの優位性が示された。しかし、一方では、今回のような商品画像と地域名といった簡潔なメッセージの場合、「好感が持てる」「親しみを感じる」といった情緒面に訴える効果は今一歩という調査結果に。同時にCMデータ放送画面で見たい情報TOP5のアンケート調査を行ったところ、CMのデータ放送画面で見たいのは「商品・サービス説明」「キャンペーン情報」「発売日・期間」といった商品関連の文字情報であることがわかった。

野﨑:反響という意味では、他のスポンサー様からのお問合せが増えています。業種に限らず、デジタル機能を利用した本企画はあらゆる応用の仕方が可能性として考えられるので、ご興味を持っていただけております。

エリアメッセージCM配信が実現したことで、テレビの課題の一つであったエリアマーケティングを克服するべく一つの事例が今回できたわけだが、今後エリアメッセージCMはどのような展開が期待できるのだろうか。次回「クライアント・視聴者・流通、すべてに有益なエリアメッセージCMの可能性」でご紹介したい。