TBS参画グローバル広告プラットフォーム「One Platform Global」がテレビを再価値化する理由【TBSインタビュー後編】
ジャーナリスト 長谷川朋子
左から)TBSテレビ取締役龍宝正峰氏、同DX戦略部福田雛子氏、同ICTセキュリティ戦略部兼DXコンテンツ部住友永史氏
広告のグローバル展開を見据えて、TBSテレビが新たなチャレンジに乗り出す。米国NBCUniversal社が今年10月から運用開始予定のデジタル広告プラットフォーム「One Platform Global」に、TBSテレビは日本から唯一の国際ローンチパートナーとして参画し、グローバル連携によって競争力を高めていくことを目指す。この国境を超えた広告ビジネスプロジェクトは放送局にどのような価値をもたらすのか。前編に続き、TBSテレビ取締役龍宝正峰氏と同DX戦略部福田雛子氏、同ICTセキュリティ戦略部兼DXコンテンツ部住友永史氏が説明した内容をお伝えする。
【関連記事】TBSテレビ、米国NBCUniversalが主導するOne Platform Globalに日本国内で唯一のローンチパートナーとして参画
■TBSの広告在庫を買付可能にする新しいグローバルな取り組み
――NBCUniversal社の「One Platform Global」は、マーケティング担当者が1度の取引で日本を含むアジア、北米、ヨーロッパ、オーストラリアに展開するキャンペーンを一元管理でき、190カ国以上の視聴者にリーチできるようになるようですが、これは放送局にとって新しい試みになるのでしょうか?
龍宝氏: 全くもって新しい取り組みです。例えば、とあるグローバルカンパニーからNBCUniversalが10億円予算の広告発注を受けたとして、これまではその在庫の中に我々が入りたくてもルートはなく、またNBCUniversalの広告システムと取引できる広告プラットフォームを独自に作ることも簡単なことではありません。そもそも今回のようなグローバル連携のコンソーシアムという発想も聞いたことがありませんでした。
福田氏: 日本では1000万円のキャンペーンがあったら、デジタルに300万円、放送局に700万円と別々の部署に発注していくのが通常ですが、欧米では各国に拠点を持つ企業の本社が一気にまとめて発注をすることが徐々に増え、それに対応することがスタンダードになっています。グローバルに広告展開を行う場合、YouTubeにもテレビにも広告を出せるので、確かに効率は良く、いろいろな要素でボーダレスになっています。
龍宝氏:「One Platform Global」の活用として、世界一周するクルーズ船のコマーシャルはイメージしやすいかもしれません。もし、日本にも経由する船だったら、日本でもコマーシャルを打ってみようという話になる可能性があり、そういう時にTBSの広告在庫をすぐに買い付けることができます。実際に、そのようなクライアント提案についても現地で相談を受けています。
住友氏:インバウンド関連の国際的な広告を受け入れる仕組みはこれまで恐らくなかったものです。「One Platform Global」によってそのルートが作れる意味は大きいです。配信は国境を超えやすく、アウトバウンドでの活用も今後検討できるのではないかと思います。
■放送局の広告在庫はプレミアムであることに自信を持つ
――NBCUniversalは「使いやすいグローバルな広告プラットフォームの構築だけが目的ではなく、放送局が競争力のあるネットワークを活用し、マーケティング担当者が熱心なファンにリーチしやすくする大きなチャンスを作る」と語っていますが、これに対してどのように考えていますか?
福田氏:カンヌライオンで各国の放送局やメディア企業と話している中で印象に残っていることがあります。海外は放送局の広告在庫はプレミアムであることを強く意識としていると思いました。プレミアムゆえにプレミアムの値段が付き、だからその価値を表明していかなければいけないと。プレミアムであることに自信を持ってもいます。日本はどうしても自分たちのことを卑下しがちですから、今は姿勢そのものも彼らから学びたいです。短期的には金額的な価値は未知数ですが、長期的に考えた時に、胸を張って自分たちの在庫がプレミアムであることを言い続けることでマインドセットでき、それが結果的に日本国内でのテレビ広告の価値が上がることに繋がればと、個人的に思っているところです。
龍宝氏:国内では広告会社からYouTubeとのコスト比較をされますが、ヨーロッパの放送局は自社のコンテンツに強い自信を持って、メディアが広告主に向き合っていました。だからメディアの中で棲み分けができているのでしょうね。今、我々に必要なのは、放送とインターネットの両方にプレミアムなコンテンツを送れるのは放送局だけだと開き直ることなのかもしれません。テレビのプレミアムコンテンツという定義を作ることも大事なことだと気づかされます。
住友氏:海外の放送局と広告主の関係性についても参考にできる点が多いです。放送局は、コンテンツメタやクリーンルームといったデータを介して、広告効果を評価・分析しやすい環境を提供しています。それが広告主の信頼を高め、お互いの関係性が向上し、さらにはコンテンツの価値についても広告主から理解を得ることに繋がっていると考えます。
■TVerで共有すれば、テレビのプレミアム在庫が増える?
――NBCUniversalとの取り組みの背景から、日本の放送局全体の課題も見えてくるようですが、TBSが先行して得る知見を今後、日本の業界内で共有していく意向はありますか?
龍宝氏:今はまだ共有するほどの知識を持ち合わせておらず、説明できるようなコンディションになることが先決です。そうなったら、一局ではなく、やはりTVerで共有していくイメージを持っています。そうしたら、TBSの在庫だけでなく、テレビのプレミアム在庫という形がもっと増えていくかもしれません。NBCUniversalとの取り組みが上手くいけば、TVer社や他局の皆さんのご理解を得ることができたうえで、共有してみたいと思います。
(※龍宝氏は20年7月~22年6月までTVer社の社長を務めた。)
――最後の質問になります。改めて、グローバル規模の海外広告を取り込むための大きな一歩を踏み出したと言えますか?
龍宝氏: そうですね。成果はこれからですが、種を植えたところに芽が出始めています。1年以内に花を咲かせたい。通常は、日本に支社がある海外企業が日本の広告会社を通じて広告を発注するケースがほとんどだと思います。ですから、日本の放送局自ら海外広告を取り込むことなんて、できるわけないと思うところもありました。言語のハードルや独特の商習慣もあり、これまでなかなか踏み込めずにいましたが、グローバルの壁に風穴を開き、手前にある自分たちのメディアの壁も超えていきたいと思っています。それにはやはり自信を持たなければならないのかもしれません。今の考え方のままではダメなんだろうなって思っています。
――グローバル規模のテクノロジーとパートナーシップを構築したNBCUniversalの「One Platform Global」を通じてテレビ広告の再価値化を図ることが、この取り組みを成功させるカギの1つにありそうだ。参画したTBSテレビをはじめ、各国の放送メディアが持つ共通認識が原動力となり、成功を確実なものにするようにも思う。
TBSが米デジタル広告プラットフォーム「One Platform Global」に参画した狙いとは? 【TBSインタビュー前編】