創立60周年のビデオリサーチ メディア環境の未来(後編)
編集部
株式会社ビデオリサーチ 代表取締役社長執行役員 望月渡氏
2022年で創立60周年を迎えた株式会社ビデオリサーチ。日本でカラーテレビの放送が始まって間もない1962年にテレビ視聴率の調査会社として産声を上げて以来、テレビの視聴スタイルの変化や衛星放送、ハイビジョン、地上波デジタルなど新たなメディアの誕生に寄り添いながら歴史を重ねてきた。
現在、同社のコーポレートサイトでは「ビデオリサーチ60周年の歴史」と題して、創立年である1962年から2022年にかけての流行をモチーフにしつつ、各時代において取り組んできた事業の数々を紹介する特設ページを開設。同時に2022年、大幅なCIVIの刷新や組織の改革に乗り出している。
今回は前後編に分けて、ビデオリサーチの“これまで”と“これから”に密着。後編となる本記事では、株式会社ビデオリサーチ 代表取締役社長執行役員 望月渡氏にインタビュー。技術の変化や時代のニーズに合わせて様々な成長をしてきた同社がこの先目指す姿を探る。
【前編】「紙テープに打刻」から始まった 視聴率調査 ビデオリサーチ60年史インタビュー
■2022年、大規模な組織改編で臨む“視聴率の再定義”
――今年4月1日に行われた大規模なグループ再編とCIVI刷新について、詳しくお聞かせいただけますか。
望月氏:ビデオリサーチでは、今年2022年、「VRX(ビデオリサーチ・トランスフォーメーション)」として、3ヶ年の中期経営計画を軸とし、テレビを含めた動画ビジネス全般を支えるデータ企業への進化を図ります。
――「トランスフォーメーション」という言葉に視聴率計測そのもののあり方を大きく変えるというメッセージを感じますが、その背景にはどのような課題感があるのでしょうか。
望月氏:電波によるテレビ放送の視聴率調査は、2020年にようやく全32地区・同一方式での測定を実現しました。現在は、技術やデバイスの進化により視聴環境は変化し、その変化に対して当社も調査機器を開発してきました。例えば、録画による再生(タイムシフト)であったり、個人単位での視聴であったり。ただし、オンライン配信による動画視聴データについては、まだ提供にいたっていなのが現状です。
ビデオリサーチが測定し、提供する視聴データは、放送局のみなさんにとってメディア価値を表す重要な指標です。これまでテレビ編成の軸であった時間概念を超えていつでも見たい時に見るコンテンツという捉え方がされるいま、配信コンテンツも測定対象に含めなければ、本当の意味で放送局のメディア価値を正確に表していると言えません。そこで、これまで通りの調査仕様を続けるのではなく、視聴データ測定そのものの仕組みを変えていかなければならないという切迫した課題感が根底にはあります。
――具体的に構想していることがあれば、教えて下さい。
望月氏:ひとつは、視聴データ測定の対象をテレビを含めた動画プラットフォーム全般へと広げていくということです。放送波のみならず、放送局由来のネット動画コンテンツも測定対象とし、オンエア・オンラインすべての効果を測る新しい指標となるような仕組みを作りたい。ビデオリサーチが草案を作り、それを放送局さんや広告会社さん、さらには民放連やNHKも巻き込んで、業界全体のコンセンサスを形成することを目指しています。
もうひとつは、視聴“質”に関する指標作りです。たとえばテレビの通販番組など、通常の番組に比べて視聴人数は多くはありませんが、紹介された商品が購入されるというコンバージョンの観点では目を見張るものがあります。今後は視聴者ひとりひとりの没入感の度合いにフォーカスし、「とくに応援されているスポーツ番組」や「とくに感情移入されているドラマ」など、高い熱量を持つコンテンツが浮かび上がる仕組みを作りたいと考えています。
――まさにこれから、“視聴率の再定義”に取り組んでいくのですね。
望月氏:60年の歴史を重ねてきたビデオリサーチですが、視聴データを全32地区、同一方式で測定する仕組みがようやく一昨年完成しました。ハードの進化を待たなければならなかった面もあり、ここまでの時間がかかってしまいましたが、これからオンエア・オンラインを統合した新しい指標を作るには、ここまでの時間を費やしていては間に合いません。これまでの100分の1以下の時間で実現しなければ、とてもじゃないがダメだというくらいの気合いで取り組んでいます。
■データ提供に特化した事業会社を設立。“データ版OEM”も視野に
――今回の柱であるグループ再編の内容についても、詳しく教えて下さい。
望月氏:今年4月に新たなグループ会社・ビデオリサーチコミュニケーションズを設立しました。この会社は一言で言うと「スマートファクトリー」という位置づけです。ビデオリサーチのデータを正確、迅速、安価に各クライアント様へ提供することに特化します。
一方、企業としてのビデオリサーチは、グループ全体の戦略立案と事業の推進、営業に特化します。これまでの部課制から業務領域ごとのディビジョン制に切り替えるとともに、組織を横断する「クロスプロジェクト」を設け、それぞれにリーダーを配置することで、展開するサービスごとの責任の所在を明確にします。
データを生み出し供給する役割と、経営・営業面を担う役割を明確に分離し、組織全体のさらなる効率化を図るのが狙いです。
――製造業の分野においてはよく耳にする「スマートファクトリー」ですが、マーケティングやデータサイエンスの分野においては比較的新しい概念かと思います。具体的にはどのような展開を考えているのでしょうか。
望月氏:具体的には、さまざまな企業様から依頼を受けてデータを提供する「データ版OEM」を実現したいと考えています。データの供給に特化した部門を独立させることで、今後はこれまでライバル関係にあった調査会社からも業務を受注する流れが生まれていくことを期待しています。
■公正・公平なカレンシーデータで、実数データに“代表性”を与える存在に
――サードパーティーCookieや個人情報の取得が規制されるようになり、世界的に個人データのトラッキングが非常に難しくなっています。一部ではパネルデータと実数データをかけあわせて個人の動きを“推論”する向きもありますが、かねてより高い代表性を持つデータを扱ってきたビデオリサーチの強みが大きく発揮できる局面とも言えそうです。
望月氏:まさにそこが大きなポイントです。「もはや、あらゆる調査を実数ベースで行わなければならないのではないか」という意見は強いですが、実数データは、母集団全体から得られるわけではないので、そこから生じるバイアスを完全に排除することが困難であり、代表性の担保が大きな課題です。そこにおいて、我々が60年間、第三者の立場で積み重ねてきた公正・公平な視聴率というカレンシーデータが大きな役割を発揮できると考えています。
標本としての視聴率調査世帯は日本国内でもわずか1万700世帯程度と決して大きくありませんが、その対象世帯は統計学の理論に基づいて無作為(ランダム)に選ばれ、世の中の縮図となるようにしています。今後ビデオリサーチのデータは、さまざまな方法で取得された実数データに視聴データを掛け合わせ、十分な代表性を担保するための必要不可欠な“変数”として活用されていくことになるでしょう。
――今回のCI変更でよりフラットなデザインとなったコーポレートロゴ、「見るを、見つめる」というタグラインからも、そうした普遍的なアプローチを感じます。
望月氏:より抽象化したタグラインには、先進性とともに、あらゆる業界や領域に対してあまねくフラットに関わっていくという姿勢を込めています。今後メディア環境がいくら変化しようとも、その先に生活者がいることは変わりません。これからも人々が「見る」という行動に寄り添い続けていきたいと思います。
――最後に記事をご覧の業界関係者の方々に向けて、メッセージをお願いいたします。
望月氏:これまであまりアピールしてきませんでしたが、ビデオリサーチは顧客に寄り添う優秀な営業チームを擁しています。放送局さんや広告会社さんをはじめ、多くの企業の方々と密接なコミュニケーションを築かせていただいてきましたが、昨今のめまぐるしい環境の変化を踏まえ、より一層その姿勢を自らに課し、みなさまのご要望にお応えしていきたいと考えています。
その一端として今年も「VR FORUM 2022」を開催いたします。創立60周年にあたる今回は「生活者とメディアのダイバーシティを見つめる。」をテーマに掲げ、11月29日から12月1日にかけて、過去最大規模でのオンライン開催を予定しています。
生活者のライフスタイルが変化するなか、放送局によるリアルタイム配信をはじめとした放送と通信のハイブリッド化や動画配信サービスのビジネスモデル拡大など、メディア環境も多様化し、無数の選択肢が広がる“ダイバーシティ(多様性)”の時代が幕を開けつつあります。
放送局さんにおいてもキー局からローカル局までさまざまな考え方、ご意見があるでしょう。我々はそれらを丁寧に見つめ、お伝えすることで、業界全体のお役に立ちたいと考えています。ぜひご参加をいただければ幸いです。