TVerデータで変わるテレビコンテンツ革命
株式会社TVerサービス戦略部 内藤和大
“テレビコンテンツ” が変革の時を迎えている。ひと昔前では、地上波テレビが娯楽の代表として選ばれていたが、Amazonプライム、Netflix、Youtubeなどなど各社サービスの登場により、選択肢も増え生活者のコンテンツ視聴行動も多種多様化。TVerが登場して6年、今年3月には月間動画再生数が2.5億回を突破するなど、テレビコンテンツもかなり視聴されるようになってきたが、この動画配信戦国時代、生活者にもっとテレビコンテンツに触れてもらうには、「生活者が求めるコンテンツ」をデータセントリックに開発していく必要が出てきている。
今回は、民放公式テレビ配信サービスとして動画配信市場に参入している『TVer』が、テレビコンテンツの生き残りを懸けて仕掛ける「テレビコンテンツのDX戦略」について紹介する。
【Index】
■TVerが登場してもテレビのDX化は出来ていない?
■“島根の深夜ローカル番組” がキー局番組をジャイアントキリング
■データで金脈を掘り起こす
■TVerデータで変わるテレビコンテンツ革命
■TVerが登場してもテレビのDX化は出来ていない?
TVerが2015年10月26日にサービス開始以来、"時間や場所に縛られず、テレビをいつでもどこでも見られる" サービスとして多くの生活者が利用するようになった。TVerの登場は「民放テレビDX化の象徴」などともよく言われる。
一方で、TVerの登場によって「テレビの視聴スタイル」こそ変革されど、「テレビコンテンツそのもの」が視聴スタイルに合わせて変化しているかというと、そこまで大きく変わっていないのではないか。各テレビ局は視聴率を上げるべく様々な研究や分析を進めている一方で、「地道なリサーチ」や「長年の研ぎ澄まされた勘」がコンテンツ制作を支えている部分がまだまだ大きいと聞く。
テレビの「視聴スタイル」はDX化が進んだ一方で、テレビの「コンテンツ制作」におけるDX化は開拓途中の領域であり、TVerの登場によって全局の視聴データを “横断的” に分析できるようになった現在、大きな切り札になり得ると考えられる。
■“島根の深夜ローカル番組”がキー局番組をジャイアントキリング
昨年7月、鳥取島根エリアの深夜ローカル番組『かまいたちの掟(TSKさんいん中央テレビ)』が、キー局制作の有名番組を押しのけてTVerランキングに入り込むという出来事があった。
実はこの番組、TVerと組んで視聴データを活用した番組制作のテスト施策を裏側で実施していた。
・TVerでは、バラエティは男性視聴者が多い傾向だが、『かまいたちの掟』はバラエティにも関わらず女性視聴者が多め
・TVer(サービス全体)の視聴者は女性が多い
という分析結果のもと、女性層を取り込むポテンシャルが高いのでは、という仮説を立てた。そこで女性向けの企画や戦略的なSNS展開を実施。するとTVer視聴者の数はじわじわと増えていき、番組の歴代最高再生数を記録した。「生活者が求めるコンテンツ」視聴者構成の男女比も狙い通り逆転(女性が多く)なった。
そして番組の勢いはとどまることなく、テスト開始から3か月経った7月にはキー局GP帯の番組を押しのけてランキング入り(最高16位)するまで成長した。地方局制作、地上波放送エリアも限定的なローカル番組が20位以内にランキング入りするのは史上初の快挙だった。
■データで金脈を掘り起こす
先述した『かまいたちの掟』のテスト施策は、”データを活用したコンテンツづくり” の大きな可能性を示してくれた。テレビにまつわる膨大なデータは、活用次第ではコンテンツを大化けさせることができる宝の山=金脈ということだ。
こうした施策の精度をあげていくことで、地方に眠っている魅力的なコンテンツを掘り起こせると考えている。20年ほど前に北海道のローカル番組『水曜どうでしょう』が、全国からも絶大な人気を博したが、「第2、第3の水曜どうでしょう」を発掘できる可能性は十分にある。
『かまいたちの掟』施策と同時期に、広島エリアのローカル番組『レンタルクロちゃん(RCC中国放送)』でも、データに基づいた施策を実施して視聴者を伸ばすことが出来た。この施策についての詳細は、下記URLよりご覧いただきたいが、番組内の企画で発売した商品(もみじ饅頭)は即日完売。購入者の半分以上が「放送の無い広島県外」という結果となり、TVer配信を通してマーケットが拡張する事例を創出することができ、ビジネス展開にも繋がるヒントになった。
■TVerデータで変わるコンテンツ革命
紹介した2番組はローカル番組だったが、現在次のステップとして取り組んでいるのが、在京キー局や在阪準キー局のスケールでのチャレンジだ。
民放全局のコンテンツを束ねるTVerに集まった膨大なデータを精度高く処理し、
「タレント同士の相性をデータで見ながらゲストをブッキング」
「番組同士の相性データをもとに特集をつくる」
「検索ワードの需要を見ながらネタやロケ先を決める」
「ふだん地上波テレビをみないローテレ・ノンテレ層を狙ったコンテンツ開発」
といった制作アプローチが提案できるような準備を進めている。
先述したテレビ局制作サイドの地道なリサーチや長年の研ぎ澄まされた”勘”も引き続き重要な一方で、出演者やネタとの化学反応や、視聴者が求めているニーズを「定量的」に観測出来るようになることで、制作側の手札が増えたり意思決定の後押しになる。
自然と視聴者の満足度が上がり裾野が広がるとともに、離れかけているテレビコンテンツとの距離が縮まっていくことを期待したい。
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