テレビ局と視聴者の“つながりを育てる”場に!テレビ新広島「TV-FAN BASE」導入の背景と今後について〜インタビュー(後編)
マーケティングライター 天谷窓大
広島県を放送地域とする株式会社テレビ新広島(本社:広島県広島市南区、以下 テレビ新広島 略称:TSS)は、視聴者向けのキャンペーン参加応募受付や同局事業における個人情報管理のための情報銀行プラットフォームサービス「TV-FAN BASE(テレビファンベース)」を2020年7月9日より開始した。
情報銀行とは、個人から同意のもと提供された個人情報を集約管理する仕組みだ。「TV-FAN BASE」では、テレビ新広島が視聴者より明示的な許諾を得たうえで個人情報を活用。その便宜として、サービスやプレゼントなどを提供する。
同サービス運用にあたっては、株式会社マイデータ・インテリジェンスが提供するシステムを利用。テレビ新広島は放送局としての参加第一号となる。
概念的にも新しい「情報銀行」という仕組みをローカルテレビ局が始めた背景とは。そして視聴者は具体的にどのようなメリットを享受することができるのか──。
前編に引き続き、株式会社テレビ新広島 メディア本部副本部長 兼 編成局長の香川正二郎氏、同編成局 メディア戦略部 部長の木村洋子氏、同部副部長の小田健氏に話を聞く。
後編では「TV-FAN BASE」開始に至った経緯をたどりながら、情報銀行という新たな仕組みを通じてテレビ新広島が描く「ファンベース(共感・愛着を元にしたコミュニティ)」構築の展望について尋ねる。
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■テレビ局と視聴者の「つながりを育てる」場に
──今回「TV-FAN BASE」を開始した経緯を教えてください。
香川氏:前編でも触れたギフトボックス「はじめてばこ」を開始した際、お届けした視聴者様から感謝の言葉をいただいたことがきっかけとなりました。
このキャンペーンはテレビ新広島が県民のみなさまに支えられて成長できたことへの感謝の気持ちを還元したいという思いからスタートしたのですが、ギフトをお送りし、それに対して感謝の言葉をいただいたことで「テレビ局としても、視聴者様との相互のやりとりができるのではないか」と気づいたのです。
──テレビ局と視聴者のみなさんとの新たなつながり方、ということですね。
香川氏:「はじめてばこ」の取り組みにはスポンサーのみなさまからも多くの関心をいただき、視聴者様や顧客の皆様との新たなコミュニケーションの場が欲しい、という要望をいただいたことも後押しとなりました。
これまで情報漏えいへのリスクから避けていた部分を「TV-FAN BASE」という信頼できるプラットフォームを使うことで有効に活かし、テレビ局として視聴者様に還元できる仕組みを作ることができるのではないかと考えたのです。
──放送局のノウハウを生かしたB2C(Business to Customer:消費者向けの直接的)サービスをつくり、視聴者との新たな関係づくりに取り組んでいくということでしょうか。
小田氏:広島に根ざすテレビ局として地元の視聴者様とのつながりの質を上げ、育てていくための施策として「TV-FAN BASE」を位置づけています。
視聴者様のニーズに対してズレのないサービスを提供するためにも、この仕組みを通じ、きめ細かくつながっていきたいという思いがあります。
■「信頼関係の担保」をまずは第一に
──「情報銀行」と名前がつくとおり、視聴者のみなさんとの信用の担保は大きな課題ではないかと思いますが、この点に関してはどのように考えていますか。
小田氏:情報を扱うには信頼関係がなければいけません。視聴者様に対してはもちろん、社内においても強い信頼関係がなければ会社として個人情報を預かっていけないと考えています。
しかし同時に、テレビ局として今後どのように事業を継続させていくかも真剣に考えていかなければなりません。情報をもとにした信頼関係をあらためて考え直し、きちんとビジネスにつなげていくことを会社として考えるきっかけになればと「TV-FAN BASE」の導入を決めました。
── サービス開始にあたり、どのような点に力を入れましたか。
香川氏:いただいた個人情報の安全性確保には特に慎重を期して取り組んできました。
テレビ局にとって信頼の担保は死活問題です。
たとえば現在展開中の「はじめてばこ」は、赤ちゃんが誕生した家庭に喜びを届けるというスタンスではじめたサービスですが、ここで個人情報が漏えいしてしまうと、お子様の将来にも大きな影響を及ぼしかねません。
「TV-FAN BASE」のシステムを提供するマイデータ・インテリジェンス社とも綿密な打ち合わせを重ね、安全な形で運用できることを確認したうえでサービス開始に踏み切りました。
■子供時代から「テレビ新広島のファン」になってもらう
──現在「TV-FAN BASE」上で展開されるキャンペーンは子供向けが中心ですが、どのような意味が込められているのでしょうか。
香川氏:これから大きく育っていくみなさまとお子さまのうちから強い信頼関係を作り、広島県民のみなさまに愛される局として発展していきたいという思いを込めています。
──子供のころからテレビ新広島との接点を持ち、ファンになってもらうことが大事なのですね。
香川氏:「はじめてばこ」と並行して展開しているお子様向けのチャレンジ体験プログラム「わんぱく大作戦」では、以前参加していただいたみなさまがOBとしてスタッフに参加されていたりします。こうした強い接点づくりを通じてテレビ新広島に対する信頼を持っていただくことでテレビ新広島のファンになっていただき、親近感をもって番組を見ていただくような「絆を深くする」場として「TV-FAN BASE」を活用していきたいと考えています。
──「TV-FAN BASE」によってテレビ新広島と視聴者のみなさんとの関係性が深まれば、より綿密なビジネス展開も期待できそうですね。
香川氏:もっとも、新たなビジネスを生み出すにしても、テレビ局という本業があってのことです。個人情報を活用してビジネスにつなげよう、という単純な考えではいけません。「TV-FAN BASE」を通じて、テレビ新広島が地域に愛される放送局になっていくことにまずは地道に取り組んでいきたいと思います。
■広島ローカル局として、まずは地元との信頼関係を醸成していきたい
──今後「TV-FAN BASE」を通じて実現していきたいこと、サービスにかける思いを聞かせてください。
小田氏:少子化や人口減少は日本全体が抱える問題ですが、とくに地方はその速度が速いと感じます。そんななか、いま多くの人々に浸透しつつあるデジタル基盤はある意味新たな共通言語として大きな役割を持つのではないかと期待しています。
デジタルが持つ伝搬力やスピードをフルに活かすことで、これまで以上にきめ細かな地元の情報を集約できるはずです。県外に向けて拡大していくというよりは、これまでテレビ新広島の番組を見てくださっている視聴者のみなさまへ直接感謝の気持ちをお届けし、確実な信頼関係を醸成したうえで地域に貢献していくことを第一に考えていきたいと思います。
香川氏:まず私たちテレビ新広島が向き合うべきは、地元である広島県内の視聴者の皆様、そして企業含め広島に根ざす皆様です。情報銀行サービスに対する将来的な発展性も期待していますが、まずは地域の視聴者様の個人データを安全にお預かりしたうえで、自分たちでデータ分析を行い、自社の報道やイベント、番組制作や編成などを通じてサービス向上をしっかりやっていきたいと思います。
情報銀行は定着までもう少し時間が必要なサービスであるとも感じています。その壮大な構想だけに期待するのではなく、視聴者サービスの強化、広島という地域に対する貢献を主に、広島に根ざす企業という面をまずはしっかりと強化していきたいと思います。
ローカル局としての新たな展開に道を開きながらも、地元との信頼関係づくりを第一に考え、ともに発展していくことを志向するテレビ新広島。情報銀行という最先端技術が、ビジネスの面でも今後どのようなシナジーを生み出していくのか注目だ。