どんな場所もイベント会場に!MBSグループ企業が展開するVR同時体験システム「どこでもVR」(前編)
マーケティングライター 天谷窓大
毎日放送、GAORAなどで構成されるMBSグループの新規事業創出を担う会社として設立された「MBSイノベーションドライブ」。その事業領域はVRから食、スポーツにいたるまで、放送業界の枠にとどまらない多様な展開軸をもつ。2018年11月には、VR(仮想現実)技術を駆使するホラーコンテンツ制作会社『株式会社闇(やみ)』の株式を80%取得し、子会社化した。
今回、その『闇』がVR同時体験システム「どこでもVR」をリリース。同社からレンタルされる、映像作品インストール済みの4K高画質VRゴーグルと再生制御用タブレットがあれば、大掛かりな装置や設営工事を一切必要とせずにどこでもVRイベントが開催可能となる。
記事執筆中の2020年6月現在、新型コロナウイルス感染防止のため政府や自治体では密閉・密集・密接の「3密」回避を中心とした「新しい生活様式」が呼びかけられている。従来のような大規模な集客イベントを開催しづらい状況にあるなか、「どこでもVR」が可能にする「新たなイベントの形」とは──。
当記事では前後編にわたって株式会社闇 ディレクターの向後史朗氏、同テクニカルディレクターの久保田健二氏にリモートでインタビュー。前編となる今回は、開発の経緯とパッケージの具体的な利用方法、そして「どこでもVR」によって実現する「新たなイベントの形」について尋ねる。
■VRゴーグルとタブレットだけで「どんな場所もイベント会場に変身」
──「どこでもVR」の概要について教えてください。
向後氏:「どこでもVR」は、イベントの集客に特化したVRの一斉同時体験システムです。このサービスでは、VR映像作品が収録されたVRゴーグルやヘッドホン、そしてこれらを制御するタブレット端末をワンパッケージでレンタルします。「どこでもVR」を使えば、イベント担当者は会場に(参加者が座る)イスを用意していただくだけでVRイベントを開催できるのです。
──「イスさえあればVRイベントが開催できる」という点は非常にキャッチーですね。
向後氏:極端な話、お客様に立って体験していただくスタイルならばイスすらも必要ありません。大掛かりな会場設備を用意することなく、いつでも誰とでも簡単にVRイベントを体験できるのが特徴です。参加人数も1人から20人規模のものまで柔軟に対応することが可能です。レンタルするVRゴーグル・制御用タブレットさえあれば文字どおり「どこでも」VRイベントの会場に早がわりします。
■実際のイベント会場で稼働実績を重ねたシステムをパッケージ化
──実際に闇がイベント現場で運用していたシステムがベースになっているそうですね。
向後氏: 2019年の夏から秋にかけてテーマパークや商業施設でVRイベントを展開した際に開発したシステムが元となっています。クライアントから「アルバイトスタッフでも簡単に操作ができる」と評価をいただき、このシステムを活用すれば実際のお化け屋敷よりも少人数でイベント展開ができるのではないかと考えたことが開発のきっかけとなりました。
──これまで制作されてきたコンテンツの有効活用という側面もあるのでしょうか。
向後氏:はい。これまで闇は主にテーマパークから受託でコンテンツを制作してきましたが、せっかく時間をかけて(コンテンツを)作り上げてもイベント終了と同時に体験できなくなってしまうのがもったいない、もっと有効活用できないかと感じていました。
パッケージ化すれば、いちど作りあげたVRイベントコンテンツをさまざまな商業施設やイベント会場で複数展開することも可能になります。
──「どこでもホラーVR」ではなく「どこでもVR」と、名前にホラーが入っていない点も印象的です。
向後氏:VRゴーグルに搭載する動画コンテンツは自由に載せ替えが可能なので、ホラーに限らず「絶叫体験(アトラクション)」を作り出すこともできますし、たとえば「かわいい世界観」のような、新しい機軸のコンテンツにも使うことができます。
久保田氏:VRでの工場見学や、社員教育の場などにも活用していただけたらと思います。
■起動後10秒で準備完了。インターネット回線のない場所でも使用可能
──数あるVRプラットフォームのなかで、とくに「どこでもVR」が優れているのはどんな点ですか?
久保田氏:ネットワーク環境のないところでも稼働できるのが大きな特徴です。再生されるVR動画はゴーグルのローカルストレージに格納されていますので、動画データをネットワークから逐一ダウンロードする必要がなく、インターネット回線のない場所でもご利用いただけます。
──インターネット接続がなくても使える、というのは大きいですね。
久保田氏:機材構成はシンプルな点はウリだと思います。VRゴーグルとタブレットはローカルWiFiによって接続されるため、双方をつなぐ通信ケーブルも必要ありません。内蔵されたバッテリーを使用すれば完全ケーブルレスでの運用も可能です。
向後氏:現場で機材を起動すれば、わずか10秒ほどでコンテンツ体験の準備が整います。通信用のルーターをセッティングしたり、動作のための電源を確保したりといった必要もありません。(注:機器充電の際には外部電源が必要)
──これまで導入を迷っていたような場面でも可能性が生まれそうです。
久保田氏:「どこでもVR」を使えば、これまで「イベント会場」としては注目されていなかったような場所でもイベント展開が可能になります。
向後氏:ビアガーデンなどの「半屋外」な環境でも手軽にVRコンテンツが体験できるので、イベントの余興としても使っていただくこともできるでしょう。利用価格も国内のVRレンタルサービスのなかではもっとも安い水準(※)なので、遊園地やテーマパークに匹敵するクオリティのイベントコンテンツを、気軽にお試しいただくことが出来ます。
※運営サポート及び映像コンテンツ込みのVR1台/1日あたりのレンタル料金として(2020年5月時点 日本国内企業比較)
■「どこでもVR」で、“3密”を避けたイベント開催が可能に
──アフターコロナにおける新たなイベントの形が模索されていますが、「どこでもVR」によって今後どんなイベントが可能となっていくのでしょうか。
向後氏:やはり今後のイベント開催は、安全安心が第一になっていくのではないでしょうか。具体的には密閉・密集・密接の“3密対策”がリアルイベントでは必ず求められてくると思います。その点「どこでもVR」はこうした対策ができ、体験性も損なわれないのが大きな特長と考えています。
──たしかにVRイベントならば、物理的に人を密集させずにイベントを開催できますね。
向後氏:VRイベントならば換気の良い屋内はもちろん、屋外でも開催可能なので「密閉」を回避できます。お客さま同士が若干離れていても体験の内容は損なわれないので「密集」も回避できます。
VRゴーグルはマスクをしたまま装着できる仕組みになっているので、もし体験中にお客様が叫んだりしても飛沫をおさえることができ、「密接」も回避できます。
デバイス内にコンテンツそのものを内蔵させ、インターネット接続を必要としないローカルネットワーク経由で制御することによって文字通りどこでもVRイベントを展開できる「どこでもVR」。いわゆるアフターコロナにおけるイベント開催のかたちが模索されるなか、これまで会場として活用されてこなかったような場所にも新たな注目が集まりそうだ。
後編ではこの「どこでもVR」を支える技術、そして闇が考えるこれからのVRコンテンツのかたちについて掘り下げる。
リアルタイムなVR体験はどう開発されているのか〜MBSグループ企業が展開するVR同時体験システム「どこでもVR」(後編)