ローカル局は地域で圧倒的な“権威団体”である!「『冒険県』冒険する長崎プロジェクトに見る、地域とテレビのこれから」【VR FORUM 2019】
編集部
株式会社ビデオリサーチ(以下、ビデオリサーチ社)が、東京ミッドタウンにて開催した「VR FORUM 2019」(2月13日、14日)より、14日に行われた「地域とテレビ②ローカルならではのコミュニケーション」の後編をレポートする。
地域の生活者には、マスであるテレビが効く!「ローカルならではのコミュニケーション」【VR FORUM 2019】
前半で行われた、“さとなお”ことコミュニケーション・ディレクター佐藤尚之氏の講演を受けて、テレビによるエリアコミュニケーションについて、長崎県の実例を対談を通じて紹介された。登壇者は、株式会社テレビ長崎の営業部長・田中悟史氏、トヨタカローラ長崎株式会社の代表取締役社長・藤岡良規氏、株式会社博報堂DYメディアパートナーズのメディアアカウントディレクター・波房克典氏。進行は、株式会社ビデオリサーチテレビ事業局テレビ事業計画部・長谷川晃子氏が務めた。
■ローカル局は地域で圧倒的な“権威団体”である
「冒険県」冒険する長崎プロジェクトは、県内21市町村や観光協会などの協力のもと、2018年4月から展開されている。自然豊かな長崎県を冒険フィールド「冒険県」と銘打って、感受性豊かな子どもたちがいろいろな冒険や体験に挑戦する様子を番組やネットで発信。家族で出かける番組スポットの紹介にもなっている。
今回のプロジェクトを牽引した波房氏によると、長崎県は観光県でありながら、リピーターや交流人口が生まれないという課題があったという。しかしながら、海岸線の長さが北海道についで全国2位など、豊かで個性的な自然を体験でき、鎖国時代に国内で唯一世界に開かれていた地域として和華蘭の文化があるなど、文化的コンテンツも十分。その情報が届くような施策が必要と考えた。
ここで波房氏は、このような情報の受け手として、子育て世代に照準を絞った。「地方は、首都圏ほどお出かけ情報サイトが充実しておらず、定番スポットに偏りがち。全体として情報提供が不十分」と波房氏。また、多くのローカル局が放送コンテンツの情報アーカイブに対する意識が低いことに着目。生活者が車で出かける潜在需要に対し、アプローチが手付かずであると感じた。これらを受け、「子育て世代がワクワクして楽しめるブランド」という地域に根ざしたブランドポジションの獲得を目指したという。
このプロジェクトに協力しているトヨタカローラ長崎の藤岡氏によると、賛同した理由は「地域貢献」だった。「私たちは、長崎県で商売するしかない。経営者が地域に根ざし、貢献し、恩返ししていくのが重要」とのこと。波房氏も、地域貢献という文脈は、地方のプロジェクトで関係者を巻き込むにあたり、欠かせない要素だと語った。
波房氏は、ローカルメディアとタッグを組むメリットとして、「地元では圧倒的な権威団体」であることを挙げた。「たとえば、今回のように県を巻き込むため、知事にアポイントを取る場合も、ローカル局の方のネットワークに助けられた」とのこと。それを受けてテレビ長崎の田中氏は、「“権威団体”は過大評価」と謙遜しつつ、「報道や政策の取材で認知いただいているため、核となる人へのつながりやすさはあったと思う」と補足した。
■ローカル全体を“一つの国”と捉え、そのマーケティングパートナーに
波房氏は、「エリアマーケ課題」と「ローカル局の強み」をかけ合わせると、地域巻き込み型コンテンツが組成できると提言。そして、推進事務局にふさわしいのは、ローカル局だという。
理由の一つは、市町村・都道府県庁、商工会議所、NPO、経済団体、まちづくり団体、観光団体と強いつながりがあるため。これによって、地域の活動を推進する組織づくりや、地域の熱源となるプレイヤーの発掘・巻き込みも可能だという。もう一つは、情報・報道番組、CM、WEB、制作物配布など、質の高いアウトプットがあること。「提供されたコンテンツは、社会・文化的な役割を持ちつつ、影響力は都市圏よりも絶大。周辺産業への波及も期待できる」と可能性を語った。
実際、テレビ長崎の場合も、WEB上に市町村や観光協会からの独自情報の提供、地元の大学生による動画制作など、全県単位のソーシャルコンテンツとして、ムーブメントを生みつつ拡大している。
その一方で、現時点のプロジェクトの課題は、「WEBとテレビの接点」と波房氏。WEBサイトには番組と連動した記事を随時掲載し、SNSでも発信しているが、アクセスは伸び悩んでいるという。「地方は、想像以上にネットを見ないと感じる」と語る。新たな打ち手が待たれるところだ。
対談の最後には、今後の展望についてそれぞれが語った。
トヨタカローラ長崎の藤岡氏は、このプロジェクトについて「もっとおもしろく、メジャーにしていきたい」という思いが強いという。たとえば、「冒険」の定義を「トライアル」まで拡大し、大学生のチャレンジや企業のボランティア活動なども取り上げて、地域を盛り上げていければと期待を膨らませている。「特に若手経営者は、利益をいただいた地域の方に、寄付や納税ではなく、自分たちで行動して返したいという傾向があると思う。その働きかけやマッチングをローカル局に期待したい」と語った。
テレビ長崎の田中氏は、「参加者やロケ地提供者の協力なくして、番組はつくれない」と感謝するとともに、「その土地に来てほしい」という協力者の思いを背負い、長崎の良さを発信していきたいと語った。また、「たくさんの企業と地域とを、うまくつなぎ合わせる役割」についても考えていく姿勢を示した。
波房氏は、今後のローカル局は、広告を売るビジネスから、地域の総合マーケティング会社としてのビジネスへと展開していくことを提案した。ローカルは、都会とは“違う国”で、テレビが効きやすい。そこで、日本を大胆にも分割し、ローカルを束ねて“一つの国”と捉えるべきと語る。すると、日本の総人口の1/3になり、大手クライアントに対しても提案できると言う。「そのときに、ローカル局にはクライアントのエリアマーケティングのパートナーになってもらう」と波房氏。例えば、地場に流通のない食品メーカーが、「卵の日」に各地のスーパーでご当地の卵料理を展開するキャンペーンなども、ローカル局のマーケティング力があれは可能になると語る。「ローカルでテレビがネットに負けることは、現状ではまずない。手を付けていないことが多いので宝の山と言える」と波房氏。
モデレーターのVR長谷川氏は東京のデータで語られることの多いが地域ごとにメディア接触は異なっている。ビデオリサーチの立場としては、やはりデータで取り組みの価値を示していくことが役割だと考えている。新視聴率計画では、全地区の調査仕様を統一し、365日、個人単位でタイムシフト視聴まで確認できるようテレビメディア整備を行っていくと説明。今後も、データを通じて皆様のビジネスを支えられるようありたいと語った。
地域とテレビの新しい関係が示され、大きな可能性を感じるセミナーとなった。