北海道テレビ(HTB)東京支社編成業務部長の阿久津友紀氏
横串ローカルコンテンツ「Local TV GoGo」、TVerで手応えあり【民放ローカル局インタビュー前編】
編集部 2025/2/12 08:00
街ネタからグルメまで、各地の民放ローカル番組のコーナーVTRを繋いで並べた放送局横断のオムニバス番組が民放公式テレビ配信サービス「TVer」などで展開されている。「Local TV GoGo」というサービス名の実証実験として2024年12月23日から開始されたもので、ローカルコンテンツの再価値化を狙う取り組みだ。北海道から沖縄まで地上波民放55局が参加し、一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)の主体で実施している。これまでの手応えはいかに。プロジェクト中心メンバーの1人、北海道テレビ(HTB)東京支社編成業務部長の阿久津友紀氏が今後の課題を踏まえて語ってくれた。前・後編にわたりお伝えする。
■狙いはローカルコンテンツの再価値化
「TVerでは地方在住者の視聴量が大きいことが数字から見えてきました。つまりこれは、ローカルコンテンツに対するニーズがTVerでもそれなりにあることを示しているように思います」。
地上波民放55局が参加する実証実験「Local TV GoGo」の開始から約1カ月が経過したところで、HTB阿久津友紀氏は一定の手ごたえを感じている様子だ。
検証メディアはTVerのほか、スカパーJSATの有料動画配信サービス「SPOOX」も含まれ、ローカル局横断のオムニバス番組が無料配信されている。またウェブ版の電子番組表「番組表.G ガイド」上では参加局の当該コンテンツを見逃し視聴できるようになっている。
IPG、地方放送局コンテンツの再価値化を狙うLCB実証実験をブラウザ版「Gガイド」で開始
そもそも今回の実証実験は放送局横断で“コンテンツの束”を生成する仕組みを作ることで、コンテンツ流通の機会が増え、ローカルコンテンツの再価値化が図れるのでないかという仮説を検証することを目的としている。「メタ情報の付与によるローカルコンテンツの再価値化に関する実証事業(LCB=ローカル・コンテンツ・バンク実証実験)」というのが取り組みの正式名称になる。経緯としてはローカル局から有志で集まったメンバーが2年前からプロジェクトを進め、A-PABが支援するかたちで実証実験の実施に至った。
阿久津氏はプロジェクトの背景には「プロジェクトのメンバーそれぞれが持つ課題意識があった」と説明する。たとえば、各局が取材し、制作された情報番組のコーナーVTRはオンエア後、流通が限定的になりがちで、十分に活用されていないと感じていたという。
「ローカル局のコンテンツをもっとプロミネンスしていくべきという認識を持ち、横串を通して協調型のシステムを作ることができれば突破口になるかもしれないと思ったのが前提にあります」。
■TVerで埋もれがち、ユーチューバーと競合
「Local TV GoGo」プロジェクトについてはInterBEE2024の特別企画「INTER BEE BORDERLESS」で昨年11月14日に行われたセッション「ローカル局コンテンツに明日はあるのか?」の中でも紹介されていた。
セッションを企画し、進行したTVQ九州放送(テレQ)コンテンツ戦略局コンテンツ戦略部の永江幸司氏が挙げたローカル局の共通課題はまさに「Local TV GoGo」の取り組みの背景に繋がるものでもあった。
永江氏は「ローカルコンテンツの現在地を私なりに解釈します」と前置き、続けて説明したのはローカルコンテンツの流通の現状が見えてくるものだった。
「国内外の様々な配信プラットフォームが乱立し、色々なコンテンツがあるなかで、2次利用されているローカル局のコンテンツは埋もれがち。TVerに至ってもキー局のバラエティ番組の視聴が伸びている一方、ローカル局バラエティ番組は見つけてもらえにくい現実があります」。
実際、テレQの自社制作レギュラー番組を毎週6本ずつTVerで配信しているが、数は打てどもまだまだ十分な視聴実績に至っていないようだ。
またローカル局がYouTubeにコンテンツを展開するケースも増えているが、課題は多い。「もちろんYouTubeには無数のコンテンツがあります。YouTubeクリエイターと常に戦わなければならないのです。YouTube広告においては我々がセールスする必要がないものの、テレビ広告収入の減少をカバーするほどの額には及びません。低単価であることが大きいのですが、巨大プラットフォーム相手にテレビ広告の営業活動のように値段交渉することも難しい。これがローカルコンテンツの現状です」と、永江氏は問題提起する狙いから率直な思いを述べた。
■放送後にすぐさま70万回再生
InterBEEのこのセッションにはHTB阿久津氏も登壇し、「Local TV GoGo」プロジェクトを進めることになった具体的なきっかけについて説明していた。それは自らの体験で得たローカルコンテンツの価値の気づきだった。
阿久津氏は乳がん患者であることを公表している。乳がんに罹患した5年前、セルフインタビューをまとめた約10分尺の番組VTRを制作し、自社での放送後、YouTubeに投稿したところ、すぐさま70万回再生を記録したという。
「全国からお手紙が届いたり、励ましのメールを頂いたり。全国展開の番組を作りませんか?というお話も頂き、1つのコンテンツが広がっていく体験をしました。その時思ったんです。ローカル局の番組は放送して終わるのではなく、ネット上や様々なところで二次利用、三次利用できる価値があると。この自分自身の体験が「Local TV GoGo」の取り組みを始めた大きなきっかけになっています」。
またHTBでは北海道情報を発信するテキストメディア「SODANE」を展開しており、その中で阿久津氏自身が執筆した病の体験コラムも載せている。書き続けること記事本数は270本近く。毎回10万PVに上るという。読者層も道民に限ることなく、幅広い。「SODANE」読者全体で北海道在住者の割合は全体の20%ほどで、東京在住者は40%に上る。こうした数字からもローカル発信コンテンツの可能性を感じたという。
北海道情報を発信するテキストメディア「SODANE」(HTB)
「ローカル局が集まったら、ローカルコンテンツの価値をさらに見出せるのではないかと思いました。横串も縦串も刺してみたら、いろいろな価値が生まれ、面白いことができるんじゃないかと可能性にかけてみたくなりました」。
阿久津氏が語るように実証実験の中で、ローカルコンテンツの活用が大胆に行われている。一方で、課題もみえてきた。後編に続く。