キー局動画配信の課題と展望、VOD事業の行方は!?【Inter BEE 2016レポート】
編集部
2016年11月16日~18日、幕張メッセで開催された「Inter BEE 2016(国際放送機器展)」。今年は3日間で登録来場者数が過去最多の38,000人を超えるなど、大変な注目を集めたイベントとなりました。Screensは多くの展示や企画のなかで、17日に行われた企画セッション「キー局の動画配信2016」に参加。テレビの動画配信に関する課題や展望についてレポートします!
■民放公式テレビポータル「TVer」の現状は?
民放各社が参加し注目を集めている無料広告型の放送コンテンツ「TVer」について、プレゼンが行われました。
「TVer」は昨年10月に在京民放5社が参加し、テレビ番組を広告付きで無料動画配信をする「キャッチアップサービス」としてスタート。今年10月には関西の毎日放送、朝日放送も参加し、毎週約100番組が更新されています。iOS/androidのアプリDL数は400万を突破しています。
現在、「TVer」の認知率は、全体では34.3ポイントまで上がっています。また再生がスムーズであったり、CMが流れても気にならなかったり、安心して見られるCMが多いという調査結果が出ていることも特徴的です。
テレビ局がオフィシャルに番組コンテンツの配信を行っていることを認知してもらうためのツールとして着目し、違法配信ではなくて安心して視聴ができ、きちんとマネタイズもできるものであるという利点があるということでした。
しかしながら後のディスカッションにおいて、「LINE Live」「Abema TV」「GYAO!」「ニコニコ動画」などの主要ADVODサービスと比較してまだまだ立ち位置は低く、もっと頑張ってもらいたい、という意見が印象的でした。今後いかにしてより質の高い良いコンテンツを出していくかが鍵になるということです。
■キー局の動画配信ビジネスの課題についてディスカッション
続いて、キー局の動画配信事業の課題についてのディスカッションが行われました。課題は次の5つ。
1)キー局VOD事業のSVOD化、プラットフォーム化
2)黒船(amazon、Netflix)への対抗策
3)ADVODビジネス~総合視聴率との関係
4)放送同時配信への対応
5)とっておきの質問 → TVerをどうするのか?(前述)
1)について、「VODをやるには都度課金はアプリとの相性が悪く、SVODに行かざるを得なかった」「地上波放送は大きなプラットフォーマーで、配信においても本能的にプラットフォーマーを目指すのでは」といった意見が、2)については「amazonは物流とコマースを持っているので、連動できうるものではないかと考えてコンテンツを提供している」「パートナーとして対価が大きいので仲良く組んでやっている」といった意見が出ました。
3)の課題に対しては、「将来的に地上波が売れなくなった時に総合的に考えるべき」「どんな形でも視聴者に届けば、あとは放送局がどうビジネスにするかだ」といった意見が、4)に関しては、「マネタイゼーションが確立されるかどうかが肝」「ワンセグの二の舞になるのではないか」との考えが示されました。
■今後の動画配信ビジネスの展望は?
最後に、セッション参加各局の今後の動画配信ビジネスに対する展望や可能性が語られました。
「僕ら自身が届けているコンテンツの価値を維持したい。制作している人にお金が戻るようなモデルを死守したい。全方位外交が本当にいいのかどうかを考えなければいけない」(日本テレビ)
「動画配信の目的をどこに置くのか。視聴者を顧客と捉えるサービスをするタイミングがやっと来たという印象。」(テレビ朝日)
「テレビ番組のない人生は嫌。今後も作り続けるために、動画配信を担当している僕らの役割は非常に大きいので、そこをきちんと支えていきたい」(TBS)
「テレビのコンテンツをより多くの方にほぼ同時に観てもらえるのは喜び。これからも影響力やマスメディアとしての役割を持ち続けることは我々の使命」(テレビ東京)
「動画配信は特定の人しか観ていない。より幅広い人に観てもらえて、よりテレビに近付いていくようなものにしていきたい。テレビを持っていない人もいるので」(フジテレビ)
急速な拡大を見せる各社の動画配信ですが、まだビジネス化への過渡期。プラットフォームの乱立もあり、次の時代はどうなるのかは不透明。今後もキー局の動画配信ビジネスに注目していきたいと思います!
セッション参加者
○モデレータ
・塚本幹夫氏(株式会社ワイズ・メディア代表取締役、メディアストラテジスト)
○パネリスト
・太田正仁氏(日本テレビ放送網株式会社 インターネット事業局 インターネット事業部 副次長)
・大場洋士氏(株式会社テレビ朝日 総合ビジネス局 デジタル事業センター アライアンス事業担当部長)
・田澤保之氏(株式会社TBSテレビ メディアビジネス局 映像コンテンツ事業部長)
・蜷川新治郎氏(株式会社テレビ東京 コミュニケーションズ 取締役)
・野村和生氏(株式会社フジテレビジョン コンテンツ事業局 コンテンツデザイン部 副部長)