ローカル局の新たな収入源は海外番販にあった! 地域密着番組の二次・三次利用の秘密
FUMIKO SATO
ローカル局で制作した番組を安価で編集し、海外に販売する。番組制作者の思いやそれに伴う費用と時間を活かす形で大きな収益まで得られるシステム作りを構築し、さらなる展開を続ける札幌テレビ(STV)コンテンツ部マネージャーの菅村峰洋氏から、ローカル局の収入源の秘密を探ってきた。
■日本の番組は海外で売れる!50局を超える地方局が出展するJapan Content Showcase 2016
「ローカル局の海外展開はここ数年で驚くほど進みました。アジアでは多チャンネル化と日本への旅行者増加を背景に、日本のコンテンツが広まりつつあり、キー局だけではなくローカル局の番組も売れるようになりました。海外には大きなビジネスチャンスがあると感じます」
写真:Japan Content Showcase 2016台場会場
冒頭から景気の良い話題だが、今回そんな話を菅村氏から聞いたのは、2016年10月25日(火)~ 27日(木)グランドニッコー東京 台場で行われたJapan Content Showcase 2016の会場だった。同社は2010年に当イベントに出展したのを皮切りに、香港・シンガポールといった数々の国際番組見本市に出展し始め、海外販売におけるノウハウを蓄積し海外バイヤーとのつながりを強化。近年では世界最大のカンヌ・MIPCOMにも出展して4K番組も販売するようになった。
同社が海外販売を始めた当初は、同じ取り組みを成すローカル局は全国でも数社しかなかったそう。けれどたった5,6年の間で状況は急変した。今回のイベントではキー局はもちろん、50を超えるローカル局が出展し、海外のバイヤーたちと分刻みのスケジュールで次々と商談を成立させていた。
■たった5年で26ヵ国と契約、放送外収入に貢献!
そもそも菅村氏が海外進出に目を向けたきっかけは、地元北海道に訪れる外国人観光客の多さにあったという。「海外に住む日本ファンの人たちに、もっと北海道の魅力をアピールできないか……」そう考えた末に菅村氏が辿り着いたのが、同局で放映していた旅番組を海外に販売することだった。
「番組制作には何百万円というお金が必要になります。けれど既存の番組を再編集し海外用に作り替えるだけなら10万円程度でも可能です。弊社で放送中の『どさんこワイド』などには旅コーナーが多くありますから、まずはこれを安価に再編集してドンドン売り出そうと考えたのです」
歯切れ良い口調だが、道のりは決して平坦なものではなかったという。ゼロからの挑戦となる海外販売を前に、唯一海外展開をしていた他県のローカル局に教えを乞い、コスト削減のために自ら英語版のチラシやサンプル映像を制作し、海外バイヤーに顔を覚えてもらうまで何度も見本市に足を運んだ。華やかさと無縁の泥臭い努力で「行商とか竹槍部隊と呼ばれました」と菅村氏。そうした地道な努力と試行錯誤の結果、今日ではアジアを中心に26の国と地域で放送が実現。商品となる海外用番組は優に1500本を超える。利益率も高く、放送外収入に大いに貢献しているという。
■他ローカル局との共同番組制作で販路を拡大
北海道といえば大自然とグルメ、ウィンタースポーツなどが思い浮かぶが、最初はそうした北海道の番組だけで満足していた海外のバイヤーたちも、次第に日本各地の情報を求めるようになった。そこで2014年に菅村氏が考案したのが、系列ローカル局と『What's hot in Japan』という番組制作をすることだった。
ちょうどこの頃、他ローカル局でも海外販売に乗り出し始めていたこともあり、同社がまとめ役となり企画を立ち上げたところ、NTV系列27局が手を挙げ『What's hot in Japan』をスタートすることに成功した。
「海外展開ノウハウを自社だけで独占するよりも、各局で共有できればさらなる拡大が図れると思いました。一局数本でも各局で持ち寄れば何十本となりますから、番組をまとめて流したがる海外局は喜んでくれますし、想像以上にバイヤーの反応は上々でした。日本各地の魅力を伝えることができるので、観光客誘致にもつながるなど、地域貢献を使命とするローカル局としては格好の取り組みになりました」
『What's hot in Japan』の制作にあたり、同社が一番力を入れたのが、難しいと思われがちな海外向け制作ノウハウを簡略化、マニュアル化したことだ。下記、その一部分を紹介してみよう。
1.新たな取材はせず既存番組の再編集のみ行う
2.テーマは「旅」「祭り」「食べ物」「温泉」などローカルなもの
3.30分番組に収め、CMは6分で統一する
4.使用音楽(BGM)・映像は海外使用可能なものに切り替える
5.ハラール(イスラム教の禁忌)のチェック等
こういったマニュアルを逐一共有した結果、各局が海外用の番組に習熟し、150本以上の一大シリーズに成長。台湾、香港からイギリス、フィンランドまで20カ国以上で放送されているという。いったい、どんな番組構成になっているのか気になるところだが、実は我々の身近なところでいえば、大手航空会社、数社の機内上映(インフライト)でも放映されているそう。ぜひ搭乗の際はチェックしてみてほしい。
■危機感があるからこそ挑戦し続けるローカル局の魅力
同局は今年新たに、香港で北海道の蟹やホタテの通販番組を開始した。今度は地元の産品を海外に売り込むことにチャレンジだ。
「既存番組を海外向けに二次利用するだけでなく、日本国内の動画配信等で三次利用もしています。さらに、四次利用となる場所がないか模索中で、そのひとつが海外通販への挑戦です。テレビ局の枠を超えて、北海道という土地ならではの情報総合商社になれないか・・そんな夢を描いています。ローカル局は既存のビジネスモデルに対して常に危機感を抱いていますから、可能性があればなんでもやってみたいと思います」
生き残りをかけてというと大袈裟かもしれないが、ローカル局ならではの強みを最大限活かし、着実に収益につなげようとする姿勢はSTVのみならず各地のローカル局に見受けられる。同社の場合、現在は主にアジア圏との相性が良く売れ行きも好調だが、さらなる海外販路拡大のためには、番組のクオリティ向上、そしてローカル局同士の連携強化が欠かせないと菅村氏は語ってくれた。
――菅村 峰洋(すがむら みねひろ)氏プロフィール――
札幌テレビ放送 事業局コンテンツ部マネージャー
1972年、札幌市生まれ。北海道大学卒業後、札幌テレビ放送に入社。テレビとラジオの制作現場を担当したのち2009年東京支社業務部に異動し、海外展開を開始。2016年7月より現職。