生活者調査が持つ貴重な価値~50年近く蓄積されたシングルソースデータ~<vol.1>
編集部
JNNデータバンクとは、株式会社TBSテレビ(以下、TBS)をキー局とする民間テレビ放送ネットワークであるJNN(Japan News Network)加盟28社により企画・実施されている全国生活者調査だ。日本の生活者の代表性を担保したサンプリング調査として、民間では最長の歴史と最大の規模を持ち、多くの企業のマーケティング活動を支えるデータとして利用されている。本項前編では、JNNデータバンク運営委員会の事務局が置かれるTBS編成局マーケティング部の担当部長・江利川滋氏に調査の概要について伺った。
■開始当初から変わらない調査手法が結果の継続性を担保
JNNデータバンクは1971年に第1回の調査を実施して以来、さまざまな分野についての調査を毎年11月に全国規模で展開している。開始当初からJNN系列テレビ局の番組改善や営業促進などに役立てることを調査の基本方針とし、テレビを観ている全国の人を「視聴者」「消費者」「生活者」といった複数の側面から立体的に捉えるため、多くの調査項目が設けられている。
昨今、“どのような属性やライフスタイルの消費者が、どのような商品やブランドを消費し、どのようなメディアを利用しているのか”といった、生活者のあり方を丸ごと把握できる「シングルソースデータ」の重要性が日に日に増加している。これについて「JNNデータバンクの設計思想は元々シングルソースデータで、1971年の調査開始当初から変わっていません」と江利川氏は語る。
かつて他社でも同様の調査が行われていたものの、テレビ局主導で現在も全国規模で継続されているのはJNNデータバンクだけとなった。また今でも、紙のアンケート冊子で調査しているというのも大きな特徴である。
時代は移り変わって、現在では電話やインターネット調査が主流となっている。しかし、江利川氏は「調査の方法を変えると、答えや数字の出方が変わる可能性が非常に高まるので、なるべく同じ手法で調査しています」とし、「結果を過去と現在で直接比較できるのがJNNデータバンクの持つ“時系列性”の強み」と言う。
エリア・サンプリングという手法で全国の生活者を代表するように対象者を選び、アンケート冊子を配布して回収し分析するのは非常にコストも手間もかかる作業だ。「これだけの大規模調査を継続できているのは、JNN系列各局の協力と熱意、そして一体感があってこそだと考えます」と江利川氏は語る。
■幅広い調査と継続された質問項目で、現在と過去の比較が容易に
JNNデータバンクは、上述の「時系列性」「代表性」に加えて「網羅性」という特徴を持つ。日本の都市部をカバーするようにサンプル数を割り振り、北海道から沖縄まで、全国の男女13~69歳(札幌・首都圏・名古屋・関西・福岡は74歳まで)の約7,400人を対象に調査をする。そこで用いる回答選択肢は8,000カテゴリーと生活のあらゆる領域にわたる。
また、“TBSやJNNが行う調査”というイメージ・先入観が回答に無用のバイアスを加えることを避けるため、調査は調査機関名だけを出して行われる。これにより、客観性を保った数値で生活者の動向が捉えられる貴重なシングルソースデータとなっているという。
JNNデータバンクでは、生活者を“商品の保有・使用”や“生活意識・生活行動”といった「ライフスタイルデータ」と“メディア接触”に関する「オーディエンスデータ」の2面から調査・分析する。例えば「ライフスタイルデータ」には現在の暮らし向きや小遣いの使い道などの調査項目があり、「オーディエンスデータ」にはよく観るテレビ番組の種類やSNSの使用頻度といった項目がある。
質問項目には、継続性を重視するものと、時代によって変化するものがあるという。この点を江利川氏は、「消費に関する商品、購買などは具体的な銘柄が入るために毎回入れ替わっていますが、趣味・嗜好や物事に対する考え方など、価値観の部分については可能な限り同じ質問を続けています」と説明する。そのためJNNデータバンクでは、1970年代や80年代、そして現在の人々が持っている価値観を並べて比べることが可能となるのだ。
■過去のデータはいくらお金を積んでも買えない!
長年継続されてきた調査の重要性について、「1971年から調査が続けられていますが、当時のデータを今から取ることは、どれだけ費用をかけても不可能です。現在のデータは今の状況を把握するために必要ですが、過去のデータは二度と取れません。ここにもJNNデータバンクの重要性があります」と江利川氏は力を込めて語る。
JNNデータバンクは系列各局の番組編成や営業に利用されるほか、延べ500社を超える企業に利用され、多くの企業のマーケティング活動のデータとして利用されているという。消費動向やライフスタイルが複雑化し、社会の混迷がますます深まる時代において、この調査結果は生活者の分析に非常に有効的なものであることに違いない。
後編では、調査結果を具体的にひも解くことによって、「JNNデータバンク」から見えるメディアの現状について探る。