左から)榎 智和氏、田村恵里氏、趙 学来氏、小川 亮氏
TVer配信に強い“体制”をどう作る? TBSテレビ担当者インタビュー(後編)
編集部 2025/4/25 15:00
2024年度、TVerにおける無料見逃し配信・過去作配の総再生回数が約9億8,000万回を記録し、3年ぶりの3度目の全局1位を達成したTBSテレビ。総再生回数、UB(ユニークブラウザ)、総再生時間でも同局歴代最高記録達成、「水曜日のダウンタウン」4年連続でTVerアワードバラエティ大賞受賞と続く快進撃の裏には、どのような戦略と体制があるのだろうか。
本記事では前編に引き続き、TBSテレビのTVer配信戦略を担うキーマン4名にインタビュー。大きなパワーと速さを生み出す部署連携の方法と、「TVerで強い」番組の秘訣、今後に向けた展望を伺う。
プロフィール
<田村恵里氏(DXコンテンツ部)>
配信プラットフォーム上のコンテンツ運用を担当。制作を始めとする社内外の各部署と連携し、見逃し配信の配信判断や施策、スケジュールの設定に携わる。
<榎 智和氏(営業部)>
TVer広告のセールスを担当。前職でのデジタルプロモーションの経験を活かし、営業の視点と並行させながら広告主への提案や商品設計を行う。
<小川 亮氏(DX戦略部)>
配信プラットフォーム戦略全般を担当。配信施策の企画立案やキャンペーン設計のほか、プロモーションにも携わる。
<趙 学来氏(戦略部/プロモーション部)>
プロモーション領域を担当。地上波と配信の相乗効果を意識しながら、戦略的な露出やタイミングの設計を行う。
■「必要であればすぐにつながれる」三冠につながるフットワークを生んだ連携体制
──今回の三冠達成には部署間の綿密な連携も大きな役割を果たしていたのではないでしょうか。連携面で特に注力された点や、決め手となった部分について伺えれば幸いです。
田村氏:連携という点では、配信における営業、戦略、プロモーションの連携は、フットワーク軽く常にやってきたつもりです。メンバーの中にはフロアが同じ人も違う人もいますが、今はいろんな連絡ツールがありますし、基本的に思いついたらすぐ連絡するようにしています。会議体が必要なら作るし、必要があればちゃんとつながって会話する。そういうことが重要だと思っています。
榎氏:営業面でいうと、TBSでは営業局とは別に「プラットフォームビジネス局」という、配信専門の営業部署が設けられています。地上波と一緒に一つの営業部署で担当している場合は配信独自の判断や展開がなかなか難しいと思うので、こうした組織体制もまた強みに働いていると思います。
田村氏:再生数の伸びが3月に入ってちょっと鈍化してきたときに、趙さんや小川さんに「どうやったら伸びるかな」「プロモーションどうしようか」と相談したんです。3月の半ばぐらいだったんですが、すぐ動いてくれて。そういう連携の速さ、協力体制のフットワークの良さは、今のチームや部署の強みだと思っています。
趙氏:今回は「再生数1位」というわかりやすい目標を年初に掲げたことが非常に大きかったと思います。それに向かって各所が連携していた、そこがすべてかなと。もし目標がぼやけていたら、こういう連携は取れなかったと思いますし、あとはやっぱり皆さんそれぞれにバックボーンがある。それを活かしながらの相談がすごく円滑にできたというのもあると思います。
たとえば榎さんでいうと、営業部に所属しながらもプロモーションやマーケティングを手伝ってくれました。そういう自主性と連携によって、いろんなコラボレーションが生まれたのかなと思います。
田村氏:配信に関わる部署が一つになっているというか、局が一つになっているという感覚がありますね。相談しやすいですし、内部事情もお互いにわかっているので理解が早いんです。目標が明確だから、何に向かっているかが共有できていて、目的への集団の考え方も早くまとまったと思います。
■TVerで見つけてもらうために「ユーザーの興味を絞り、検索経路をコントロールする」
──TVerでの再生数を増やすためには、コンテンツの充実のほかに「いかにユーザーに見つけてもらうか」という観点も大きいと思いますが、この点について意識されていること、実践されていることがあればお聞かせいただけますでしょうか。
榎氏:TVer内でどう番組を見つけてもらうかという観点では、サムネイルや特集への参加といったところがありますが、情報があふれてユーザーの接触にも偏りがある中では、自分たちのコンテンツにある程度興味を持ってくれそうな人に的確に届けることが大事だと考えています。結果、それが視聴につながるので、どう届けるかというところを意識して、いろんな施策を行ってきました。
──具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか?
榎氏: TBSには「ドラマストリーム」という、地上波とストリーミング配信の両面を前提とした新形態の深夜ドラマ枠があります。通常、番組の運用は編成部門が行っているのですが、この枠に関してはプラットフォームビジネス局が担当しています。
そこで現在、『地獄の果てまで連れていく』(2025年1月クール※取材時は放送中)というドラマを放映しているのですが、ここでは「どれだけ濃いユーザーを連れてこられるか」「どう知ってもらうか」というところに注力しています。
具体的に、初見の方が興味を持ってくれるような記事を番組サイトに掲載して、そこへユーザーに検索で飛んできてもらう、という仕掛けを行っています。たとえば「1月ドラマを見たそうな人」「復讐もののドラマに興味がある人」というように、特定のジャンルで何かを探している人の検索の「飛び先」を用意しておくなど、工夫しました。
──ユーザーの検索をコントロールしていく、ということでしょうか。
榎氏:興味を絞っていって、その先で特定の検索経路にたどり着いてもらえるようにする、という考え方です。どんなキーワードを入れてもらうか、どうカテゴライズしてラベルをつけるか、というところまで含めて誘導していくという方法もあるかと思います。
■2025年も三冠目指して──質にこだわり、TBSのファンを増やす
──TVerでの総再生回数、UB、総再生時間三冠を達成されて、今後この先にどのような展望をお持ちでしょうか。最後にお聞かせいただければ幸いです。
田村氏:2025年度も同じく三冠、TVerもさらにグロースし、どんどん膨らんでいく市場の中で1位を取ることが目標です。今年も総再生回数、UB、総再生時間、この3つのKPIで三冠を取りたいと思っています。
榎氏:同じく、今年も三冠を取ることが目標です。今年は世界陸上があるので、それをキーワードとして展開していく予定ですし、その中でコンテンツの展開や収益化まで含めて、いい座組、いい取り組みができればと考えています。
小川氏:やはり今のご時世だからこそ、視聴者にとってその作品や番組が信頼できるものか、期待に応えるものになっているかという視点がすごく重要だと思っています。TBSの作品ならば面白いだろう、安心できるという感覚を、作り手だけでなく、我々のような配信ビジネス側やプロモーションの立場からもしっかり支えていく必要があると思っています。
一言で言うならば、TBSのファンをもっと作っていくことに取り組みたいですね。再生回数という数字だけではなく、もっと“質”――心理的な部分とか、同じ1再生でもその重みが違うような、そういうところを目指していきたいです。主にはプロモーションやSNS運用の領域で、そういった取り組みをしていきたいと思っています。
趙氏:再生数だけが伸びても、一見さんにしか見られていないという見方もできますし、すべてにおいて質にこだわることが重要だと思っています。
三冠を取ることはもちろんですが、いかにTBSのファンを増やすか。TBSのコンテンツを中長期的に安定して見てもらえるためにも、再生数だけではなく、再生時間とUBにも引き続きこだわっていきたいですね。いまは各局さんそれぞれ目覚ましい取り組みをされていますから、ともに切磋琢磨しながら、業界全体の基盤や再生支援の底上げもできればと思っています。