海外展開の好機を迎えるアニメ【「香港フィルマート2025」現地取材レポート・後編】
編集部 2025/4/17 08:00
香港貿易発展局(HKTDC)が主催するエンターテインメント・コンテンツ見本市「香港フィルマート2025」が3月17日(月)から20日(木)までの期間、香港コンベンション&エキシビションセンターで開催された。参加者数は昨年を上回り、7600人以上の業界関係者を集めてアジアを代表するトレードショーとしての存在感を示した。今年はAIやアニメにフォーカスが当たり、アジア全体のクリエイティブ産業の勢いも反映させていた。現地取材した「香港フィルマート2025」後編は注目トピックにあったアニメセッションをレポートする。
■日本のProduction I.Gや中国bilibiliが登壇
国際流通マーケットの新たな主役として今年の「香港フィルマート」でアニメがフォーカスされた。日本でアニメはコンテンツ輸出の稼ぎ頭にあり、中国でもアニメ映画は主力ジャンルの1つにある。また香港、東南アジアの各国においては将来を見据えたアニメ制作の取り組みが広がり始めている。そんななか今回、アジアのクリエイティブ産業の成長株としてアニメが取り上げられた。
香港国際映画祭協会と香港デジタルエンターテインメント協会の共同開催で行ったデジタルエンターテインメントサミットの目玉として企画され、「Unlock Opportunities of the Dynamic Animation Market and Production in Asia:アジアにおけるアニメ市場の変革と制作の可能性」をテーマに2部構成のパネルディスカッション行われた。
第1部は「Asian Animation Market Trends &Development:アジアアニメ市場の動向と発展」をお題に各国の現状が語られた。日本からProduction I.G, Inc.のグローバルライセンシングチームリーダー、フランチェスコ・プラドニー氏が登壇し、ほか香港CMC Inc.の副社長でPearl Studioの社長であるキャサリン・イン氏、インドネシアVisinemaのチーフ・オブ・スタッフ、ミア・アンジェリア・サントサ氏、中国bilibiliのシニアビジネスディレクターのカン・ユエ氏がスピーカーに並んだ。
香港やインドネシアでは制作体制や資金調達の面でまだ課題はありつつ、アニメ市場のさらなる拡大を期待する声が上がった。「マーケットの変化を常に注視している」と話していた中国bilibiliのユエ氏もさらなる拡大を見込めることを強調していた。また「日本のアニメはとても成功しているように見えるが、一夜にして起こったことではない」とこれまでの歴史から説明したProduction I.Gのプラドニー氏は「アニメ流通に変化が起こり、制作の習慣も完全に変わった。リリース計画から海外展開を視野に入れるやり方に移り変わっている」と話し、国際化の波はまだ始まったばかりであることを印象づけた。
■海外マーケットの比率3倍を見込む
第2部は「Prospects for Animation Creation &Production in Asia:アジアにおけるアニメーション制作の展望」をお題に日本からはアーチの代表取締役社長の平澤直氏が登壇した。マレーシアのLes Copaqueプロダクションのマーケティング、セールス、ライセンシング担当ディレクターのKaryabudi Mohd. Aris氏、香港のPoint Five Creationsプロデューサー兼脚本家のPolly Yeung氏、中国Light Chase Animation Studios共同創設者兼社長のYu Zhou氏と共に、主に制作視点からアジアのアニメーションの最新動向について紹介された。
マレーシアのLes Copaqueプロダクションはキャラクタービジネスにフォーカスした事例を展開し、香港のPoint Five Creationsは国際チーム体制で制作する香港のアニメ制作トレンドを説明した。なかでも中国Light Chase Animation Studiosの Zhou氏が語った中国における人材面での制作事情の変化は興味深い内容だった。
「中国はこの10年間で、多くの成長と変化があった。弊社の場合、アニメ映画の予算はおよそ3倍に増え、その大半は人件費になる。つまり、この10年間でアニメーターの給与事情が大幅に改善されたということ。理由は2つあり、1つ目はプロダクションの質が格段に向上したことが挙げられる。もう1つは、ゲーム業界との連携が予算増に大いに貢献した。市場規模が大きいゲーム業界だからこそ多くの人材を共有することができたと言える」。
またアーチの平澤氏は日本のアニメ市場が今後、さらに拡大していることを強調した。「日本のアニメマーケットは国内と海外とで占める割合は現在、半々ぐらいだが、この比率はこの10年で大きく変化していくはずだ。海外マーケットの比率がこれまでの3倍になり、年間15%ずつぐらい拡大していくことを予想する調査会社もある。日本のアニメは長きにわたり国内マーケットをベースにしてきたが、この状況が大きく変わるのがこれからの10年だ。この好機を捉えて、日本のアニメ業界はこれまで以上に海外のファンコミュニティに耳を傾ける必要があると思う」と話し、課題についても指摘した。
■HAFプロジェクトにもアニメ枠
日本や中国、香港、東南アジア各国のアニメ市場や制作の現状、そして課題を共有することによって好機を促進していく可能性は十分にある。主催の香港貿易発展局がアニメに注力する方針は香港フィルマート期間中に開催された第23回香港・アジア映画ファイナンスフォーラム(HAF23)でも反映された。HAFは開発中の作品を対象に資金調達を行うためのフォーラムで、今回から実写映画に加えてアニメも対象となった。
35を超える国と地域から参加した投資家、プロデューサー、配給業者とのビジネスマッチングセッションを行い、投資機会を模索した48の選ばれたプロジェクトの中には日本の是枝裕和監督がプロデュースを手掛ける山浦未陽監督の『Yellow』も含まれた。
アニメ作品の中にはフランス・ベルギー・日本の共同制作『Wildheart』があり、日本語タイトルは『かなかな蝉』というもの。1960年の日本を舞台にした物語だ。監督の仲山マルソー氏は「2027年の完成を目指す」と話していた。
香港フィルマートは「香港国際映画祭」など全9つのイベントで構成される「エンターテインメント・エキスポ香港」(期間:3月16日から4月27日)の一環にあり、流通マーケットの場として発展し続けている。今回は「AI Hub」やアニメフォーカスに象徴されるようにアジアのコンテンツ業界全体の底上げを狙っているようにも見えた。支援体制の強化を図る香港政府の方針も後押した。市場の変化に合わせて香港フィルマートそのものも柔軟に変化しつつある。