産学官連携でTVドラマの可能性を広げる【「シリーズ・マニア2025」現地取材レポート・後編】
編集部 2025/4/16 08:00
フランス北部のリールで開催される「シリーズ・マニア」はTVドラマ業界最注目の国際イベントだ。地域と連繫した一般向けフェスティバルとプロ向けマーケットなどで構成されたもので、連続ドラマ専門イベントとして年々、その存在感を強めている。今年は2025年3月21日から28日の8日間にわたって行われ、フェスティバルの来場者数は10万人を超え、フォーラムには75カ国から5000人の業界関係者が参加した。後編は産学官連携の国際フェスティバル機能をレポートする。
■フェスティバル来場者数10万8000人超え
自己記録を塗り替えた今年の「シリーズ・マニア」はフェスティバルイベントも盛り上がりをみせた。世界中から参加した作品上映会をはじめ、マスタークラスやトークイベント、ファン向け展示、レッドカーペット、プレスカンファレンスなどを展開するもので国際ドラマ祭の理想形を追求している。
ベルギーとの国境沿いにあるフランス第4の都市であるリールを舞台に、地域で盛り上げるイベントとしてまずは印象づける。幸い天気にも恵まれ、中世の面影が残る街中を歩いていると、シリーズ・マニアのポスターが次々と目に入り、石畳にまで色とりどりのロゴステッカーがデザインされていることに気づく。7回目を数える今年の来場者は10万8000人を超え、昨年より1万人以上増加したことが主催者から発表された。
教育・研究機関とも連携し、前年比70%増の1万1872校が参加し、オー=ド=フランス地方を巡る「シリーズ・マニア・バスツアー」には4259人が参加したという。シリーズ・マニア創設者兼ゼネラルディレクターのローレンス・ハーシュバーグ氏は「ドラマファンに愛されるイベントであることを証明し、同時に経済波及効果ももたらした」とコメントする。
映画やドキュメンタリーの大規模イベントは国内外で行われているが、テレビ連続ドラマに特化したものは珍しい。シリーズ・マニアの運営はオー=ド=フランス地域圏やフランス国立映画センターなどが支援し、ブランドパートナーにフランス大手保険会社クレディ・ミュチュエル、公式パートナーにはフランス公共放送のフランステレビジョンやグローバルプレイヤーのNetflixなどの名前が並ぶ。産学官連携で開催を支えているのだ。「シリーズ・マニアは国際的なドラマ作品のショーケースであり、業界が戦略的に推進する人気イベントとして、独自の役割を確立しています」とハーシュバーグ氏は語る。
■上映チケット販売の同時接続数2万超え
フェスティバルはリールの街中に点在する9か所の会場で行われ、街歩きが必須になる。華やかさを添えるのはフランスを代表する俳優たちだけでない。ハリウッド女優のアマンダ・セイフライドやクリスティーナ・ヘンドリックスがレッドカーペットを歩き、Netflix人気シリーズ『ブラック・ミラー』のショーランナー、チャーリー・ブッカーも来場した。
上映会の会場前には長蛇の列が作られるほど、活気を肌で感じた。1日で最高3万4000件のチケット予約を記録し(前年比54%)、オンラインチケット販売窓口の同時接続数は2万件を超えた。一時的にサーバーが飽和状態になるほどだったという。コンペティションやセレクションなど上映された作品数は約50作。連続ドラマが中心だが、アニメ作品も含まれた。夜の回は多くの若者の観客で埋め尽くされた。
注目の国際コンペティションは最優秀賞にスペインのストリーミングサービスMovistar Plus+と独仏共同テレビ局ARTEの共同制作ドラマ『QUERER』が受賞した。性の問題をはらんだ家族ドラマが描かれた作品で、夫を告発し、成人した2人の息子たちと向き合う妻ミレン(ナゴレ・アランブル)の演技が光った。国際コンペティションの審査委員長を務めた女優で声優のパネラ・アドロンは作品全体の選定基準について「ドラマ作品はマーケティングが重要視されがちですが、人生に影響を与える国際的な作品を評価しました」とコメントする。
また最優秀脚本賞はイスラエルとアメリカの共同制作ドラマ『GERMAN』が受賞した。実はこの作品の上映中、パレスチナ支持団体による大規模なボイコットが起こり、上映継続が困難になるほどの事態に見舞われた。その場に偶然、筆者も居合わせたが、会場は異様な雰囲気に包まれ、「イスラエルのプロバガンダ作品にあたる」という彼らの主張は残念なものだった。家族の愛をテーマにした作品であり、政治的な意味合いは一切ないからだ。作品関係者はプレスカンファレンスで「言論の自由」とだけコメントを残した。
■『フレンズ』や『ツイン・ピークス』のドラマ展示
ドラマファンによるファンのための展示イベントもシリーズ・マニアを象徴する。今年は「Forever 90‘s」と題し、『フレンズ』や『ツイン・ピークス』など90年代のヒットしたテレビ連続ドラマにフォーカスしたこのイベントの来場者数は3万人を記録した。時代を超えて愛されるドラマ作品の小道具やセット、90年代を再現した演出が散りばめられ、テレビ連続ドラマに対する熱量の原点のヒントを得る空間を作り出していた。
オンラインも好調だったようだ。「Séries Mania+プラットフォーム」のカンファレンスやマスタークラスの視聴回数は5万7000回、フォーラムの視聴回数は1万回を記録したという。公式ウェブサイトのページビューは前年より150%増の250万件ビューを記録し、SNS全体のページビューは300万ビューに上った。なかでもインスタグラムのビュー数が伸び、前年比275%増となった。
筆者を含むプレス参加も今年は伸びた。昨年より1割増の32カ国から558人の認定ジャーナリストが参加したことがわかった。大半は本国のフランスをはじめ、イギリス、アメリカからのメディア参加で占めるが、「成長する国際マーケット」としてグローバル発信する各業界誌やエンタメ誌から報じられた。
来年の開催は2026年3月20日~27日(シリーズ・マニア・フォーラム:2026年3月24日~26日)を予定する。産学官連携という強力タッグで、ファンダムとビジネスの両面からTVドラマの潜在的な価値の追求に賛同する参加者はまだ増えていきそうだ。