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TVドラマ業界関係者必見の国際イベント【「シリーズ・マニア2025」現地取材レポート・前編】

編集部 2025/4/16 08:00

フランス北部のリールで開催される「シリーズ・マニア」はTVドラマ業界最注目の国際イベントだ。地域と連繫した一般向けフェスティバルとプロ向けマーケットなどで構成されたもので、連続ドラマ専門イベントとして年々、その存在感を強めている。今年は2025年3月21日から28日の8日間にわたって行われ、フェスティバルの来場者数は10万人を超え、フォーラムには75カ国から5000人の業界関係者が参加した。現地取材した「シリーズ・マニア2025」を前後編にわたりレポートする。

■日テレ唯一ブース出展、WOWOWバイヤー参加

今年の「シリーズ・マニア」は過去最高記録を次々と更新した。7回目の開催というまだ歴史の浅いイベントだが、TVドラマ業界関係者にとって欠かせないマーケットになりつつあることが参加規模から会場の熱気に至るまで顕著に現れていた。

「シリーズ・マニア・フォーラム」と呼ぶプロ向けマーケットは3月25日から27日までの3日間限定で開催された。リール市内にある「リール・グランパレ」で行われ、75カ国から5000人の業界関係者が会場に集結した。昨年より2割増の参加者を集めたという。バイヤー数も年々増加し、今年は500人が参加したことがわかった。流通マーケットとしての機能を強化しようとする取り組みの効果が表れたと言える。フォーラムの前哨戦として新設されたバイヤー限定企画「バイヤーズ・アップフロント」には世界各国から100人のバイヤーが招待され、日本からはWOWOWのバイヤーが参加機会を得ていた。

大手テレビ局や制作スタジオのブースが色とりどりに並んだ会場の出展社数は84を数え、その内、各国のナショナルブース数は25に上った。全体的に欧州色が強く、ブース数はまだ小規模だが、日本では他局に先駆けて日本テレビが出展参加を継続させている。2025年1月期ドラマ『ホットスポット』をはじめ、世界各国でリメイク化が進む『Mother』などを打ち出したブースを展開していた。

アジアからは韓国と台湾がナショナルブースを構えていた。韓国ブースは多くの国際マーケットでも存在感を示しているが、シリーズ・マニアでも好立地にある広々としたブースで商談を進めていた。台湾ブースはセラーチームだけでなく、開発中の企画を売り込むためプロデューサーや脚本家も参加していた。

全体的にどのブースも商談テーブルが賑わっていたことが印象的だった。シリーズ・マニアが支持を集めている理由の1つにプロデューサーなど作り手の参加が多いことが挙げられる。番組の売買だけでなく、国際共同開発を探る場としても機能しているのだ。日本からはフジテレビの国際共同制作プロデューサーの参加もあった。

■NHK「大河ドラマ」ショーケースセッションも

60を数えるセッションも企画され、人気セッションは開始前に長打の列が作られるほど活気があった。全体のテーマは「ポスト・ピークTV:課題の時代。AI、資金調達、視聴者...」というもの。キーノートには業界の顔であるワーナー・ブラザース・ディスカバリー国際プレジデントのゲルハルト・ツァイラー氏やイギリスITVスタジオのトップを務めるラッシュ・ベリー氏などが務め、地元フランスからはフランス・テレビジョンCEOやTFIグループCEO、ウォルト・ディズニー・カンパニー・フランスのカントリープレジデントがスピーチを行った。

今やドラマの主流流通基盤にあるグローバル配信勢のセッションも人気も集めた。最終章の世界配信を控えるドラマ『イカゲーム』のパフォーマンスから始まったNetflixの欧州ローカルストーリーをテーマにしたセッションは満席を記録した。

またAmazonプライム・ビデオのショーケースセッションにはフランスと日本を担当するプライム・ビデオオリジナルの責任者トーマス・デュボア氏が登壇し、ゲーム原作ドラマ『龍が如く』を海外でも成功した日本オリジナルの例に挙げた。「日本市場が非常に興味深いのはIP供給力に尽きます。顧客の期待も強力IPの活用に集中しているように思います」とデュボア氏は日本市場について語った。

日本のテレビ局では唯一NHKがセッションを企画し、「NHK TAIGA DRAMA :Enticing Japan and Beyond」タイトルでコンテンツショーケースを行った。NHK看板コンテンツにある「大河ドラマ」をはじめ意欲的な国際共同制作事例や世界展開ドラマなどを紹介したもので、NHKコンテンツ戦略局専任部長でドラマ演出家の加藤拓氏をはじめとするNHKとNEP所属のドラマプロデューサー計6人が登壇した。

大河ドラマについては現在放送中の『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜』や話題を呼んだ『光る君へ』の制作意図をはじめ時代考証、美術、バーチャルプロダクションなど幅広い視点から説明を行い、「新しい制作技術を活用し、脚本上でも新しい表現を追求することで、世界中のプロデューサーとの協力の機会を広げていきたい」などと語られた。

また国際共同制作の取り組みとして、ドイツの公共放送ZDFグループのZDFスタジオと第二次世界大戦を舞台にしたドラマ企画が開発中であることが明かされた。ZDFスタジオの制作&開発エグゼクティブのロバート・フランク氏も共に登壇し、「資金面だけでなく、国際共同制作は互いの文化や語るべき歴史について理解を深める方法だと思います」と、NHKとのタッグに期待の声を寄せた。

■最優秀企画賞は日仏共同制作『東京クラッシュ』

国際共同制作はクリエイティブとビジネスの両面からドラマ業界が注目する手法だ。シリーズ・マニア・フォーラムでは資金調達を目的に企画される「コープロ(共同制作)・ピッチング」は目玉企画の1つにある。今年は72か国から406件の応募があったという。フランスのスタジオCANALのM-Kケネディ氏を審査委員長にデンマーク公共放送DRやスペイン国営放送RTVE、ドイツ公共放送ZDRのドラマ責任者などが審査員を務め、選ばれた15のプロジェクトのピッチがグランドシアターで行われた。

最優秀企画賞はフランスと日本の独立系プロデューサーが共同開発する『東京クラッシュ』が受賞し、賞金の5万ユーロ(約800万円)を手にした。フランス人作家ヴァネッサ・モンタルバーノの同名小説を原作に東京のレストランを舞台にしたラブコメのドラマ化を目指す。受賞後、共同プロデューサーのジャン=フェリックス・ディアルベルト氏は「日本のテレビ局などと共同制作の道を探りたい」と話していた。

シリーズ・マニアの企画ピッチは毎際に成立に至るケースが多いと聞く。マーケットトレンドのコメディとアジアがキーワードにある作品として今後の展開が期待される。

テレビの黄金期は過ぎ去り、動画配信サービスは加入者獲得モードから維持モードへと移行した厳しい時に今はあるが、テレビ連続ドラマの新たな開発や流通のチャンスを探る場としてシリーズ・マニアの存在価値があるようだ。後編はドラマそのものを盛り上げることを目的とした地域連携のフェスティバルについてレポートする。

産学官連携でTVドラマの可能性を広げる【「シリーズ・マニア2025」現地取材レポート・後編】