W主演の高杉真宙さん&柄本時生さんを囲んで
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HBC北海道放送がドラマで挑む地方発エンタメ!『三笠のキングと、あと数人』制作インタビュー
編集部 2025/4/15 08:00
HBC北海道放送(以下、HBC)が、北海道三笠市を舞台にした日昭ドラマスペシャル『三笠のキングと、あと数人』を制作。2025年4月25日より第1話を放送する。同局によるスペシャルドラマは、開局60周年であった2012年から実に13年ぶり。ふたたびドラマに挑んだ背景と制作の舞台裏、HBCが目指す地域との協業について、北海道放送株式会社 コンテンツ制作センター長兼局長(情報制作・アナウンス担当) 藤枝孝文氏にお話を伺った。
■「北海盆踊り」発祥の地・三笠市が舞台 “盆踊り“が題材のオリジナルストーリー
本作は、「北海盆唄」と北海道遺産「三笠北海盆踊り」発祥の地である三笠市を舞台とする全6話の連続ドラマ。現代社会で生きづらさを抱えた地元出身の若者達が盆踊りで巻き起こす騒動とほろ苦い恋物語をベースに、新しい地域のあり方を考え、若者が町と共に成長していくオリジナルストーリーだ。
2022年に社内外への企画募集からスタートし、2023年夏にプロットが決定。その後、HBCより三笠市へオファーを行い、ロケ―ションハンティング(ロケハン)、シナリオハンティング(シナハン)を重ねて2024年夏に撮影が行われた。
主演を務めるのは、人気俳優の高杉真宙と柄本時生。ほぼ全編にわたって三笠市ロケで撮影され、ドラマに登場するキャラクターも、すべて市民との交流から生まれたものだという。さらに今回は北海道出身のGLAYが主題歌「Beautiful like you」を提供。ドラマの世界観に彩りを添えている。
■倉本聰、山田太一…数々のレジェンドが紡いだ「HBCドラマ」の歴史を“再興”
HBCとして10年以上ぶりのスペシャルドラマとなる『三笠のキングと、あと数人』。企画背景から制作まで、そこにはどんなドラマがあったのか。
──13年ぶりにスペシャルドラマ制作を行われたきっかけについて、お聞かせください。
HBCでは、1958年から現在に至るまで、約200本にのぼるドラマを制作してきました。その多くは倉本聰さん、山田洋次さん、山田太一さん、市川森一さん、橋田寿賀子さんなど、日本映画・テレビドラマ界のレジェンドといえる脚本家の方々と作り上げてきましたが、近年ではその伝統も途絶えていました。
前回の開局60周年記念では、TEAM NACS主演のドラマ『スープカレー』を制作しました。70周年記念にあたる2022年はドラマを制作できませんでしたが、その代わりに、過去にHBCのドラマを手掛けた脚本家・倉本聰さんと、子供の頃、そのHBCドラマのファンだったとおっしゃる映画監督・是枝裕和さんとの対談番組を制作しました。
これを、今回の特別協賛社である日昭株式会社の渡辺征昭社長がご覧になっていたのです。「もう一度伝統あるHBCドラマを一緒に制作しましょう」と、大変ありがたいオファーをいただき、今回の制作に至りました。
──三笠市という舞台、そして「盆踊り」というユニークなテーマはどのようにして生まれたのでしょうか。
今回ドラマの原案を担当したクリエーター・田邊 馨氏のお祖父さんは、かつて三笠の炭鉱マンでした。幼少のころはお盆になるとお祖父さんのいる三笠で過ごすのが恒例だったといい、そんな思い出の地を舞台にしたプロットが上がってきました。
ドラマの主題となった「北海盆踊り」は、毎年各地で行われる北海道民には馴染みの伝統文化ですが、そのルーツは明治時代、三笠の炭鉱町で唄われていた「べっちょ節」という民謡なのだそうです。初めて知る事実に驚きつつ、田邊氏による「北海盆踊り」をベースにしたプロットを日昭の渡辺社長に提案したところ、「盆踊りのドラマ、面白いじゃないか!」と賛同いただき、決まった次第です。
■「北海道の風景を空気感ごと描く」オリジナル脚本・オールロケのこだわり
──企画から制作まで3年という長い準備期間がかかっていますが、この中で苦労したこと、印象に残っていることをお聞かせください。
私が入社した30数年前はまだドラマ専門の部署もありましたが、HBCが制作する全国ネットドラマ枠が消滅するとともにその伝統も途絶えていました。携わっていた社員はすでに卒業か部署異動となっていたため、まずはタッグを組むプロダクションを探す所からスタートしました。
監督や脚本家の方には「ご自分の作品だ」という自負がありますから、お涙頂戴のありふれた観光ビデオにならない作品を志向します。一方で、クライアントや市役所の方からは「北海道らしい雄大な風景」や「感動ヒューマンストーリー」を期待する声がありました。
ストーリーが飛躍しすぎては町のイメージに影響がありますし、かといって無難すぎても町の魅力が伝わりません。素晴らしい作品にするため、要所要所で調整弁としての役目に苦心しました。ときには脚本の方向性を巡ってお互いが意見をぶつけ合い、ハラハラする一幕もありましたが、いまとなってはそれも良い思い出です。
──高杉真宙さん、柄本時生さんW主演というキャスティングが目を引きます。どちらも売れっ子のお二人、ブッキング等大変だったと思いますが、撮影現場ではどのような雰囲気だったのでしょうか。
ローカル局制作でオール三笠ロケ、夏場の約1ヶ月拘束されるドラマということで、主演のブッキングには難航を極めました。特に高杉さんはNHK大河ドラマとの掛け持ちだったため、撮影期間中は東京と三笠を何度も往復することになり、苦労されたと思います。もっとも、以前から共演経験のあるお二人ということもあって、現場ではドラマの役柄そのままに仲が良く、カメラが回っていない時も盛んに会話を楽しんでいる様子でした。
──高杉さん、柄本さんの言葉で印象に残っているものはありますか?
「東京と比べて、三笠は本当に過ごしやすい街ですね」とお二人とも語っていたのが印象的でした。盆地に位置する三笠の夏は我々道産子にとって連日酷暑でしたが、そんな中も常に涼しい顔をされていたのを覚えています。特に柄本さんに至っては、「このあたりの土地代はいくらですか?」と真剣な勢いで尋ねられていました。こうしてお二人が感じられた三笠の心地よさもまた、ドラマの空気に反映されているように思います。
──撮影や編集において特にこだわったポイントはありますか?
HBCドラマの伝統として、オリジナル脚本・オールロケにこだわりました。多くの局がスタジオにセットを組んで収録を行うなか、過去のHBCドラマにおいては、難易度の高いロケにこだわっていました。かつて「東芝日曜劇場」などの演出を手掛けたOBの方が、その著作でこのような言葉を残していました。
「内地(本州)とは明らかにちがう成り立ちをもつ北海道の風景を、空気感ごと奥行きを持って描くこと。その上で、そこに生きる人間たちのリアルな姿をドラマにかたちづくること。これが、HBCドラマにとっての演出という仕事だった」
私は演出家ではありませんが、HBCでドラマを復活させるにあたり、ここだけはどうしても外せないポイントでした。
■登場人物は「ほぼ実在の人」色濃く反映された三笠の人々の魅力
──今回のドラマでは実在する地元の名物料理や祭が登場し、作中の人物も実際に三笠で暮らす方々がモデルになっていると伺いました。
ロケハン、シナハンを重ねる中で多くの市民の方々と出会いがあったのですが、みなさんとても明るく、地元を愛し、キャラクターも強烈で個性的な方々ばかりでした。ドラマに登場する人物は、すべて三笠市民のみなさんとの交流から生まれたものです。
作中で「キング」と呼ばれる市長も、「あと数人」と呼ぶ周囲の人々も、描くにあたってデフォルメこそしていますが、ほぼ実在の人物と思って御覧下さい。
──『三笠のキングと、あと数人』というタイトルは、実際に三笠で暮らす人々の姿を表しているのですね。
当初挙がったタイトル案は、『夜に踊れば・・・』とか、盆踊りそのものを表すものでしたが、ロケハンを何度もしているうちに、市民のみなさんの元気な姿に感銘を受け、三笠の人々そのものの魅力に焦点を当てたものにしようということになりました。
人口こそ最盛期の約10分の1に減少した三笠市ですが、街にあふれる市民の活気と心意気はかつての炭鉱華やからしき時代と何一つ変わっていないのではないでしょうか。地元には三笠高校という、料理と製菓に特化した高校があるのですが、ここの卒業生の中には、就職を機に札幌や道外で修行したのち、ふたたび地元に戻ってきて、料理人や店主となっている方がいます。今回、現場のケータリングはすべて三笠市のみなさまによるものでしたが、その運営リーダーを担ってくれたのも、三笠高校の卒業生の方でした。
実を言うと、ドラマのプロットも当初はもっと暗い内容のものでした。過疎化が進む町を若者が立て直していく、というようなストーリーだったのですが、実際に三笠へ足を運ぶと、とんでもない。みなさんすごく元気で。そうした交流を通じて、シナリオも変わっていきました。
そんなみなさんが先祖から受け継ぎ、大切に守っているのが、「北海盆踊り」や郷土料理の数々なのです。これをぜひ視聴者の方、全国の方に知ってもらいたい──こうした思いも、作品の中に込めていきました。
■地元自治体と実行委員会を組織、官民一体となって作品作りに参加
──ドラマ作りにあたって、三笠市民の方々や、市役所が多く協力されたということですが、地元の人々や団体との協力は具体的にどのような形で行われたのでしょうか。
今回ご制作をご一緒したプロダクションのand picturesさんは、舞台となる自治体と実行委員会を組織し、地元の方々に「食部会」「総務部会」「プロモーション部会」のメンバーとなっていただくかたちで、これまで多くの地域と連携しながら官民一体となって一から作品を作り上げていました。そのやり方を、今回のドラマ制作でも取り入れました。
具体的には三笠市民の方々による「ミカサ・ドラマ・プロジェクト委員会」が発足し、俳優やスタッフの三度の食事から、宿泊、エキストラの手配まで、市を挙げて多岐にわたってサポートしていただきました。みなさま、本当に一生懸命に取り組んでいただき、感謝してもしきれない思いです。
──市民のみなさんを交えての完成披露試写会も、大盛況だったそうですね!
市民300人限定で観覧を募集したところ1500人以上の応募があり、急遽昼・夜の2回上映を行いました。
自分はすでに制作過程で何度も作品を見ていたこともあり、果たして本当に面白いのかどうか、既に客観的な見方ができない状態だったのですが、会場にお越しいただいた三笠市民のみなさまには本当に喜んでいただき、温かいメッセージも多数いただきました。
ドラマの原案を務めた田邊 馨さんと、フィルムコミッション窓口を務めていただいた三笠市役所の藤井陽一企画財政部長が陰でこっそり涙を拭いている姿を見た時は、思わずこちらも目頭が熱くなりました。
──主演の高杉真宙さんらによる舞台挨拶も、非常に感動的だったと伺いました。
藤枝氏:「今回のドラマ制作において、市民のみなさんは制作側だと思っています」と。「同じ気持ちで作品を作っていった結果、本当に素敵な作品を作ることができました」と語ってくださいました。まさに、この言葉通りだったと思います。
■「もっと世界が憧れる北海道を、実現する。」HBCが描く未来ビジョン
──いま北海道はインバウンド観光客からも非常に注目されています。作品の海外向け展開はお考えでしょうか。
プロモーション用の英語字幕版を制作し、HBCで海外戦略を担当する「編成戦略局ライツ・コンテンツ部」が、2025年3月に開催された「香港フィルマート2025」に出展、プロモーションを行いました。
今冬は、インバウンド観光客の方々が「雪見たさ」に三笠の隣町の岩見沢や美唄にまで足を延ばしたというニュースもありました。外国でもこのドラマが放送され、夏の「北海盆踊り」のPRに繋がることを願っています。
──HBCのスローガン「ガッチャンコ」には、人と人、地域と地域をつなぐ存在でありたい、と願いがこめられていると伺いました。今回のドラマをはじめ、様々な地域との取り組みの中で、ローカル局として今後果たしていきたい役割や展望についてお聞かせ下さい。
道内の179市町村それぞれに固有の歴史とその伝統をしっかりと守っている人たちがいて、そこには179通りの物語があります。ドラマに限らず、ニュース、情報番組、映画、配信など、HBCが持つアセットを活用してその物語を描くことで、地方発エンタメの可能性はまだまだ広がると思います。
「もっと世界が憧れる北海道を、実現する。」が、HBCの描く未来のビジョンです。今回の『三笠のキングと、あと数人』は、その一歩となるドラマになったと思います。
──ドラマを楽しみにしていらっしゃるみなさんへ、メッセージをお願いします!
三笠市のみなさまをはじめとする素晴らしいスタッフ、豪華なキャスト、北海道を愛するスポンサーに恵まれ、伝統のHBCドラマを再びお届けできることになりました。このドラマのために郷土の偉大なるバンド、GLAYのみなさんに提供いただいた主題歌「Beautiful like you」もドラマを感動的に彩ってくれています。
みなさんの思いがたくさん詰まった「大きな北海道の、小さな町で起きた、幻みたいなひと夏の素敵なストーリー」を、是非お楽しみにしていただければと思います。
(とはいえ、中身はあくまでコメディですので、余り肩肘張らずご覧いただければ)
<放送情報>
番組名:日昭ドラマスペシャル『三笠のキングと、あと数人』
放送局:北海道放送株式会社(地上波北海道ローカル)
放送日時:2025年4月25日(金)18時30分~19時(第1話)
放送回数:全6話(毎週金曜日18時30分~放送)
主題歌:GLAY/「Beautiful like you」
番組HP:https://www.hbc.co.jp/tv/mikakin/