左から)ビデオリサーチ 佐藤 誠氏、電通 木村 朋枝氏、テレビ東京 川崎 由紀夫氏

14 FEB

間口広がるアニメビジネス 注目される「地域産業化」の可能性〜VR FORUM 2024レポート(4)

編集部 2025/2/14 08:00

株式会社ビデオリサーチが、2024年11月27日に東京ミッドタウンホールで「VR FORUM 2024」を開催。5年ぶりのリアルイベント(リアル&オンラインのハイブリッド形式で開催)となった今回は「コンテンツから拡がる”その先”へ」をテーマに掲げ、生活者とテレビメディアの変化に向き合いながら、最前線で活躍するキーパーソンらによる濃密な議論が繰り広げられた。

このうち本記事では、SESSION4「アニメコンテンツの事業化・広告活用について」の模様をレポートする。

権利保有者中心に市場形成がなされているアニメビジネスだが、権利を持たない企業でも許諾を得ることでアニメコンテンツを活用することができる。今回はこの点にフォーカスし、アニメコンテンツを用いた事業化・広告活用の始め方から昨今のトレンドについて、事例を交えながら解説する。

パネリストは、株式会社テレビ東京 専務取締役 川崎由紀夫氏、株式会社電通 IPグロース&ソリューション1部 部長 木村朋枝氏。モデレーターを株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット ビジネスアセット開発グループマネージャー 佐藤 誠氏が務めた。

■アニメ業界参入にありがちな「誤解」 権利を保有せずともビジネス展開は可能

セッション冒頭、佐藤氏がアニメビジネス市場の現状について解説した。

アニメ産業の市場規模は、前年比で106.8%の成長率を記録し、2兆9277億円という市場規模を達成。この大幅な成長の背景には、映画や配信に加えて海外展開が主要なドライバーとなったことが大きいという。

その上で佐藤氏は、「アニメ業界における一般的な誤解」についても言及。「アニメビジネスは権利を保有していないと展開が難しいと考えられがちだが、実際にはタイアップやライセンス契約を行うことで幅広いビジネス展開が可能」と語る。

■リスクと利益を複数企業で分担 アニメの収益構造を支える「製作委員会」モデル

中長期的な展開を前提とする大型作品は、映像制作と並行してゲームや商品開発が進められている一方、深夜帯を中心とした1クール作品は熱量の高いファンがターゲット。SNSやネットニュースで話題性を狙うものが多い。

「期待を裏切れば厳しい評価を受けるため、リスクも高い」と川崎氏。アニメ制作における重要な収益構造である「製作委員会」モデルについて詳しく説明する。

テレビ東京 川崎 由紀夫氏

このモデルは、複数の企業が資金を出し合い、リスクと利益を分担する仕組み。製作委員会には、制作会社、広告代理店、放送局、玩具メーカーなど、アニメ作品に関連する多様な企業が参加する。企業は売上に関わらず印税を支払う一方、同様に売上に関わらず報酬が配分され、作品が成功した場合はそれに応じた追加報酬が配分される。

「製作委員会は、参加企業が多いほど宣伝や露出の機会が増えるため、作品の成功に直結する」と川崎氏。その一方で意思決定のプロセスが複雑になるという課題もあるといい、「柔軟性を持たせるため、近年では製作委員会の運営方法も進化している」と語る。

「製作委員会はひとつのものと考えられがちだが、日々その形態は変化している。中長期的には企業に対するライセンス、短期的にはキャンペーンなどでの使用料で、クライアントと双方にメリットをもたらすようバランスを図っている」(川崎氏)

■アニメタイアップの需要と現状「販促活動にとどまらず、ブランド向上にも寄与」

次に電通の木村氏は、アニメキャラクターを活用したタイアップが急速に増加している現状を紹介。タイアップは企業が一定期間人気のアニメIPを使って販促活動を行う手法で、木村氏のもとには、2024年現在で1ヶ月あたり30社以上から問い合わせがあるという。

「タイアップの魅力は、短期間でアニメIPの人気を活用し、消費者の関心を引きつける点にある」と木村氏。タイアップが単なる販促活動にとどまらず、長期的なブランド価値向上にも寄与している点を強調する。

電通 木村 朋枝氏

これに関連した成功事例として、北米発のキッズ向けアニメ「パトロール」の日本展開を紹介。この作品は2019年に日本での展開が開始され、テレビ放送、配信、YouTubeチャンネル、映画化など多方面でのクロスメディア展開が実施されている。

「(家では)常にテレビや配信で、外出時はYouTubeチャンネルを通じて、さらに夏にはイベント的に映画でも作品が見られるという展開をしている」(木村氏)

地上波ではテレビ東京系6局ネットを中心に放送される一方で、ローカル局での放送も拡大。Netflix、Hulu、Amazon Primeビデオなど、複数の配信プラットフォームでも視聴可能となっている。

また公式YouTubeチャンネルでは、短尺動画やタイアップ商品のおもちゃレビュー動画を中心に配信し、登録者数146万人、総視聴回数10億回を突破。これらのクロスメディア展開によって、日本での映画興行収入が9.5億円を突破するなど、市場規模を急速に伸ばしていると木村氏は語る。

■地域活性化とアニメの可能性「単なる観光促進でなく、地域の産業として根付かせる」

後半の議題は、地域活性化とアニメの可能性について。「アニメの舞台となった場所を訪れる『聖地巡礼』は、ファンがその土地を訪れるきっかけとなり、観光需要を創出している」と川崎氏は語り、配信の普及による視聴形態の変化もその後押しになっていると語る。

「配信の普及によってヒットが出ればすぐわかるようになり、地方でのイベント展開など、早め早めに準備ができるようになった。発局がどこでも柔軟に対応できるため、まとめてアニメイベントをやりやすくなった」(川崎氏)

「ファンの人達の共感力を上げるうえで、地方でのイベントが果たす役割は大きい」と川崎氏。「声優イベントや地元企業とのタイアップが地域経済に与える貢献はめざましい」としつつ、「聖地巡礼を成功させるには地方自治体や地元企業が早期に準備を行い、ファンのニーズに応える必要がある」と語る。

川崎氏は、アニメ制作のためのクリエイター施設を整備し、地域に根ざしたアニメ産業の基盤を形成した高知県、アニメやマンガ文化を活用した観光施設やイベントを展開する新潟市の事例を紹介。「アニメを単なる観光促進ツールとしてだけでなく、地域の産業として根付かせることが、持続可能な発展につながる」と強調した。

これを受けて木村氏も、アニメIPを活用した地域企業との商品化事例を紹介。宮城県では『ハイキュー!!』と地元銘菓「萩の月」、北海道では『ゴールデンカムイ』と「白い恋人」とのコラボが実施され、地域特産品とアニメIPのシナジーによる経済効果をもたらしているとした。

「アニメを活用したビジネスは、首都圏だけでなく地方でも展開可能であり、産業や地域の発展を促進する鍵となる」と佐藤氏。「製作委員会モデルやタイアップなどの多様な参加形態を持つアニメ産業は地域活性化という面でも大きな可能性を秘めている」と述べ、セッションを締めくくった。