左から)メディサコンサルタント 境治氏、日テレ 松本 学氏・武井裕亮氏、宣伝会議 谷口 優氏
「局内製オンライン取引PF」が引き出すテレビCMの価値 ~InterBEE2024「アドリーチマックス・プラットフォームのインプレッション取引を深掘りする」
編集部 2025/1/29 08:00
一般団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2024」を2024年11月13~15日にかけて幕張メッセで開催。昨年より約2,100名多い33,853名が来場した。
本記事では、放送と通信の融合を前提としたうえで、その“先”にあるビジネスの形をさまざまな切り口で取り上げたセッションプログラム「INTER BEE BORDERLESS」をレポート。今回は11月13日に行われたセッション『アドリーチマックス・プラットフォームのインプレッション取引を深掘りする』の模様をお伝えする。
本セッションでは、日本テレビが2025年春のスタートを目指して開発中の「Ad Reach MAX(アドリーチマックス)」にフォーカス。テレビ広告の取引をデジタル広告のように「インプレッション」単位で行うという特徴に触れながら、それがもたらすテレビCMの新たな価値を取り上げた。
パネリストは、日本テレビ放送網株式会社 営業局営業戦略センター アドリーチマックス部 部長 松本 学氏、同部 武井裕亮氏と、株式会社宣伝会議 取締役 メディアデジタルコンテンツ本部本部長 兼 月刊『宣伝会議』編集長 谷口 優氏。モデレーターをメディアコンサルタント 境 治氏が務めた。
■テレビCM取引のオンラインプラットフォーム 「どの局も参画可能」
松本氏は「Ad Reach MAX」について、「営業局員と広告会社とのオフラインなやり取りだったテレビCM取引を、アドテクによってオンライン化する」と説明。テレビCMでもデジタル広告同様に細かなターゲットを指定したバイイングや効果測定が可能になると語る。
「広告主様は広告キャンペーンを迅速に展開できるだけでなく、その効果をリアルタイムで測定し、具体的なデータに基づいた意思決定が行えるようになる」(松本氏)
取引基準となるインプレッション数値は、ビデオリサーチの視聴率データに視聴エリアの推定人口を掛け合わせて算出。視聴率10%は全国で約1100万人、関東で約430万人のインプレッションに相当する計算だ。
「視聴率を個人全体4歳以上のMAUに換算すると、民放キー5局系列で1億1000万MAU以上になる」と松本氏。「テレビCMは視覚的なインパクトが強く、視聴者の記憶に残りやすい」といい、ブランド認知に対する高い貢献度をアピールする。
提供するサービスは、広告会社のシステムとの連携を想定した「AdRM-API」、プログラマティック広告をオンライン取引できるサービス「スグリー」、SSPやDSPから入札可能なマーケットプレイス「AdRM-Exchange」の3つだ。これらはすべて「Ad Reach MAXプラットフォーム」という共通基盤上で稼働。
■“テレビ局内製”の強みを発揮する「スグリー」
続いて武井氏が、プログラマティック広告をオンライン取引するサービス「スグリー」について紹介。「チャンスを逃さずに広告をすぐ打てるのが強み」と語る。
「スグリー」では、わずか数分後のオンエアに出稿することが可能。これまで3〜4営業日前までが原則であった素材指定についてもオンエア20分前まで対応し、出稿から放映までのステータス管理をすべてオンライン上で行えるという。
「『スグリー』では、テレビ局内製だからこそできる『テレビ広告のオンライン完結』の形を実現した。ゆくゆくは日テレ系以外の局の在庫もカバーしたい」(武井氏)
取引カレンシーにはインプレッションを採用しており、判断基準となる実績データは最速で放送15分後に取得可能。UUリーチやフリークエンシーも営業日ごとにレポート表示する。
「リーチUUのモニタリングも可能で、CPMだけでなくターゲットへのリーチも測ることが可能。サービスローンチの時点では、コア層(男女18〜44歳)を6区分に分けて発注時に属性の指定が可能。モニタリングは全ての区分で確認することができる」(武井氏)
「特定ターゲットにだけ届けたいというニーズにも対応しており、『F25-44指定で3500万インプレッション』というように属性指定によるインプレッション取引が行える」と武井氏は説明。その際、ターゲットのセグメントのみが課金対象になるという。
その一方で「ターゲット外への接触でアウトサイドファネルにもアプローチできる点がテレビCMの強み」と武井氏。「結果的な広告効果の向上や市場の枯渇を防ぐ役割」があるという。
「スグリー」は2024年12月にプレオープン。2025年3月より関東ローカル枠の購入受付を開始し、4月にオンエアを開始するほか、9月より全国ネット枠の購入受付も開始する予定だ。
■ライセンス形式でのノウハウ共有も検討「これからのニーズへ対応できる仕組みに」
後半は、予め寄せられた質問を境氏が紹介し、松本氏と武井氏が回答。谷口氏もあわせてコメントした。
Q. 放送直前まで素材差し替えが可能という機能について、天候や不祥事対応以外にどのようなニーズを考えているか?
「4営業日前の時点で指定したら、あとは素材を変えられないということそのものが時代にそぐわないのではないか、と考えた。具体的なニーズはむしろこれからできていくと思っており、それに対応しうる状況を作る仕組みと考えている」(武井氏)
「本編との関連性を作り出すため、CMチャンス前に特定の人物が出ていたときだけオークションに入札したい、というような『モーメントターゲティング』への対応が可能になる。今後発生する需要に応じて、適宜機能を提供したい」(松本氏)
「直前差し替え可能であることは、むしろこれからのデファクトスタンダードになるのではないか。スポーツイベントの結果に連動した『優勝おめでとうCM』など、ニーズが高まるリアルタイム視聴をより見てもらう価値づくりとして、こうした仕組みは必要になると思う」(谷口氏)
Q. 受容性に差があるデジタル広告とテレビ広告を同一指標で扱うことは可能なのか?
「デジタル媒体にもいろいろあり、単価も価値も、媒体ごとの効果も違う。だからこそ、テレビもデジタルも同じ土俵で評価できなければいけない。同じ評価で扱うことで、トータルなメディアプランニングができるようになる」(松本氏)
「1impに対する価値に違いが出るのは当然のことと思う。肌感覚として、1impという同じ土俵に立ったときに受容性の違いが出てきて、そこからテレビの重要性が可視化されるのではないか」(谷口氏)
「『指標を揃えることでテレビが安売りされるのではないか』という議論もあったことも事実。しかしそれ以上に、共通言語を持たないメディアはプランニングの俎上にも上がらなくなるのではないかという危機感が先にあった」(武井氏)
Q. 業界全体へ仕組みを普及させるのは、視聴率予測の精度が重要になると思う。他局に対してもノウハウを共有できるか?
「競争領域ではあるが、普及のためにはノウハウの共有も必要と思う。利用料を定め、その範囲内で提供していく形になるのではないか」(松本氏)
「リアルタイム取引の上では視聴率予測が重要、というご指摘はたしかにその通り。予測精度が上がれば、『売れなすぎ、売れ過ぎ』が防げる。先行者としての立場、プラットフォーマーとしての立場から、いかにノウハウを共有できるかという話になると思う」(武井氏)
■“広告倫理“の時代に価値を増すテレビCM「放送の価値を定義できるプロジェクトに」
最後に今回のセッションを振り返り、登壇者が一言ずつコメントした。
「『提供できる価値に対して安すぎる価格設定ではないか』というお声もいただき、大変ありがたい思い。貴重な広告チャンスは数が限られているからこそ、もっとも効果の高いCMを出稿できるようにすることが、この業界のためにも視聴者のみなさまにも貢献できると考えている」(松本氏)
「何かを変えるときにスモールスタートとなるのは仕方ないが、やはりスケールしないと世界は変わらない。業界全体で放送の価値を向上できるプロジェクトにしていきたい」(武井氏)
「アテンションさえ獲得してしまえば炎上動画すらお金になってしまうという世の中で、アテンションを獲得することに高い倫理感を持って取り組んでいるのがテレビ局だと考えている。『社会的に正しいことをして得ているインプレッション、アテンションである』という意味で、他の媒体とは1impの重みが違うと思う。テレビもデジタルも横並びで評価できるからこそ、広告倫理が更に問われる現代での価値を打ち出してほしい」(谷口氏)
これを受けて境氏は、「倫理的な価値も含めた意味で、これからのテレビCMは『純粋な広告メッセージを伝える手段』として評価されるのではないか」とコメント。「こうした考えでこれからも『Ad Reach MAX』の取り組みに注目してみてほしい」と結んだ。
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