左から)ビデオリサーチ合田美紀氏、株式会社長崎国際テレビ 筑紫浩一郎氏、北陸朝日放送株式会社 金子美奈氏
地域資源をどう活かす? ローカル局2局の事例〜VR FORUM 2024レポート(3)
編集部 2025/2/14 08:00
株式会社ビデオリサーチが、2024年11月27日に東京ミッドタウンホールで「VR FORUM 2024」を開催。5年ぶりのリアルイベント(リアル&オンラインのハイブリッド形式で開催)となった今回は「コンテンツから拡がる"その先"へ」をテーマに掲げ、生活者とテレビメディアの変化に向き合いながら、最前線で活躍するキーパーソンらによる濃密な議論が繰り広げられた。
このうち本記事では、SESSION3「地域資源でチャンスを創れ! ローカル局の挑戦」の模様をレポート。人口減少やテレビ離れなど、ローカル局を取り巻く環境が厳しい今、地域独自の文化や歴史を資源としたコンテンツ展開に取り組む長崎、金沢の2局の事例を紹介しながら、地方ならではの魅力とローカル局の使命について語る。
パネリストは、株式会社長崎国際テレビ 取締役営業編成局長 筑紫浩一郎氏、北陸朝日放送株式会社 編成局長 金子美奈氏。モデレーターを株式会社ビデオリサーチ 執行役員兼ネットワークユニットマネージャー 合田美紀氏が務めた。
■長崎国際テレビ:「DEJIMA博」で地域アイデンティティを再確認 地元企業連携の礎に
「長崎が抱える最大の課題は人口流出」と、長崎国際テレビ 筑紫氏。ローカル局として果たすべき使命を「地域課題の解決」と位置付け、数々のプロジェクトに取り組んでいるという。
その一つが、同局が2014年より開催している地域交流イベント「DEJIMA博」。地元企業の協賛を得ながら拡大を続け、2016年には長崎市を中心とする官民一体の街づくり施策「長崎創生プロジェクト事業」第1号に採択、2019年には33万人を動員する大規模イベントへと成長した。
「イベントはただの集客活動ではなく、長崎の誇りやアイデンティティを再確認する機会でもある」と筑紫氏。「長崎が誇る史跡、出島をテーマに据えたこのイベントは、街の魅力を広く発信するきっかけとなり、地元企業との強いパートナーシップ構築にも寄与している」と語る。
さらに長崎における人口減少問題を見据え、同局では未来を担う子どもたちに向けた取り組みとしてスピンオフイベント「こどもでじまはく」を開催。イベント会場にはゴーカートや大型遊具を設置し、子どもたちに非日常的な体験を提供している。離島地域にもこれらの遊具をトラックやフェリーで運び、地域間の格差を埋める試みも行われているという。
「子どもたちが笑顔で地域を楽しむ姿を見た自治体から、翌年の予算がつくこともある。思いを込めた取り組みが地域に広がり、次のステップへ繋がることを実感した」(筑紫氏)
長崎にとって、「平和」は重要なテーマ。2025年の被爆80年を控え、地元テレビ局4局とNHK、さらにFM局を巻き込んだ平和プロジェクトを準備中だという。筑紫氏は、「課題に向き合い、それを共有しながら取り組むことで、ローカル局は地域の未来を共に創る存在になれる」と語った。
■北陸朝日放送:伝統文化を活かしたアートイベントを開催 スポーツ通じ地域活性化も
続いて北陸朝日放送 金子氏がプレゼン。北陸新幹線の開業から10周年を迎える石川県のローカル局として取り組む地域活性化戦略を紹介した。
同局では、金沢市に移転した国立工芸館と連携し、収蔵作品を4K映像で撮影・配信する「デジタルミュージアム」を展開。さらに江戸時代からの文化奨励政策に根ざした地域特性を活かし、寺町寺院群文化財の特別公開や、現代アートと伝統文化を融合させたイベントを開催している。
「文化資源の中には観光や地域振興の可能性が眠っている。実際に、伝統工芸品の製作をきっかけとして移住する若い作家や料理人が増えている」(金子氏)
また同局では、スポーツを通じた地域活性施策として、高校野球をはじめ、バスケットボールやサッカーなど、多様なスポーツイベントを展開。移動式のバスケットコートを購入し、被災地支援や地方イベントに活用するほか、スポーツ配信サービス「HAB Connect」を事業化するなど、放送に限らない新たな形で地域との繋がりを築いているという。
■共通課題を持つローカル局同士の連携で信頼関係を醸成
筑紫氏、金子氏がそれぞれ共通して言及したのが、「テレビ離れ」や「広告収入の減少」という共通の課題に対する、地域メディア間の垣根を超えた連携の取り組みだ。
長崎国際テレビでは、先述の被爆80年を迎える2025年を踏まえたNHKや地元FM局・FM長崎を加えた長崎6局での平和プロジェクトのほか、長崎への原爆投下日である8月6日には同じ被爆地である広島のローカル局・広島テレビのスタジオを結び、キャスターの池上彰氏と同局キャスターによる平和特番を4年前から毎年展開しているという。
さらに同局では、佐世保市を本社とするジャパネットホールディングスが運営する「長崎スタジアムシティ」を地元長崎の民放3局(長崎放送・長崎文化放送・テレビ長崎)とともに応援する試みにも参加。
「試合観戦や外食など、日常の中に非日常を体験できる場所をつくることが、最終的に子どもの人口を増やすことにつながる」というジャパネットホールディングス・髙田旭人社長の考えに賛同し、各局アナウンサーによるオープニングイベントへの参加や、スタジアム内サテライトスタジオからの生放送を行うなど、盛り上げに寄与しているという。
「マネタイズできるかのセンスはいるが、なにより先行投資することが大事」と筑紫氏。「まず思いがあって、そこに結果がついてくる」とし、「子どもを持つ若い親に局のブランドを認知してもらうなど、目に見えないゴールを設定することも必要」と語った。
北陸朝日放送では、石川県の民放3局(テレビ金沢・北陸放送・石川テレビ)と連携した合同キャンペーン「#WAKUをこえろ」に参加し、共同制作による特別番組を放送。地元になじみの深い体操「若い力」を各局アナウンサーが実演する様子を同時生放送したほか、各局のワイド番組キャスターの相互出演などを展開し、SNSのインプレッション数をはじめ地上波の視聴率向上に成功した。
地区全体の“視聴率底上げ”目指しタッグ 〜石川・民放テレビ4局共同キャンペーン「#WAKUをこえろ!」インタビュー(前編)
また、2024年の能登半島地震発災時は、石原良純や本田圭佑など、石川県にゆかりのある著名人が出演するメッセージCMを4局で制作。「わずか1〜2週間」(金子氏)という短い準備期間ながら、大きな反響を得たという。
「各局がそれぞれ自局にゆかりのある著名人をブッキングする形で分担制作し、素材を各局で自由に使えるよう共有したことで、大きな突破力が生まれた」と金子氏。「ライバル局同士の連携は簡単ではないが、課題と目標を共有することで信頼関係が生まれた」と振り返る。
■「ローカル局は地域課題に取り組むコンサルタントであるべき」
セッションの締めくくり、筑紫氏はローカル局の使命について以下のように語った。
「ローカル局はもはやマスメディアではなく、地域課題に取り組むコンサルタントであるべき。課題に向き合い、地域と共に未来を創る存在になりたい」(筑紫氏)
「地域の課題は新たな価値を生み出す源泉。自治体や地元企業、住民と繋がることで、自社だけでは描けない大きなストーリーが描ける」(金子氏)
これらを踏まえて合田氏は、テレビ番組やCM・広告接触後の来訪・来店・購買効果を可視化するビデオリサーチのサービス「log-BLS」の提供など、マーケティング支援の取り組みを紹介。「ローカル局が地域の宝とともに元気になるアイディアは、まだまだたくさんあるように思います」と締めくくった。