左から)SESSION5-A:ビデオリサーチ鈴木康啓氏、Uber Eats Japan阿部ひとみ氏、博報堂DYメディアパートナーズ佐々井美嘉氏/SESSION5-B:ビデオリサーチ小木 真氏
最新事例から学ぶマーケティングトレンドと今後のヒント 〜VR FORUM 2024レポート(5)
編集部 2025/2/14 08:00
株式会社ビデオリサーチが、2024年11月27日に東京ミッドタウンホールで「VR FORUM 2024」を開催。5年ぶりのリアルイベント(リアル&オンラインのハイブリッド形式で開催)となった今回は「コンテンツから拡がる"その先"へ」をテーマに掲げ、生活者とテレビメディアの変化に向き合いながら、最前線で活躍するキーパーソンらによる濃密な議論が繰り広げられた。
このうち本記事では、SESSION5-A「マーケティングの潮流とメディアプランニングのこれから」、SESSION5-B「日本はどうする?海外のトータルオーディエンスメジャメント事情から考える」の模様をレポートする。
SESSION5-A「マーケティングの潮流とメディアプランニングのこれから」では、マーケティングやメディアプランニングのトレンドやこれからの変化について、最新の取り組みを交えながら説明する。
パネリストは、Uber Eats Japan 合同会社 マーケティング部 マーケティングマネージャー 阿部ひとみ氏、株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ 統合アカウントプロデュース局 AaaSアカウント推進一部 部長 佐々井美嘉氏。モデレーターを株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニット ビジネスソリューショングループマネージャー 鈴木康啓氏が務める。
SESSION5-B「日本はどうする?海外のトータルオーディエンスメジャメント事情から考える」では、株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニットマネージャー 小木 真氏が登壇。コネクテッドTV、ストリーミングサービスの視聴拡大がトレンドとなるなか、海外の放送局が考えるビジネス対応やメジャメントの事例を紹介。これからのヒントや議論すべき課題について語る。
■浸透の少ないデリバリーへの「罪悪感・抵抗感を減らす」広告展開
「マーケティングの潮流とメディアプランニングのこれから」では、Uber Eats Japan 阿部氏と博報堂DYメディアパートナーズ佐々井氏が、広告主、広告会社それぞれの立場から、デリバリー市場の拡大に向けた取り組みやメディア戦略の最前線について紹介。今後に向けた課題を明らかにした。
阿部氏はUber Eatsのマーケティングゴールについて「Uber Eatsを利用する家庭をさらに増やすこと」と説明。国内におけるデリバリー市場の浸透率は半数以下にとどまっていると語る。
「背景として、食品宅配の利用に『罪悪感』を持つ日本特有の傾向がある」と阿部氏。配送対象を日用品や雑貨など新しいカテゴリにも広げ、全方位的なサービス展開を目指していくとする考えを示した。
阿部氏はこうした現状を踏まえ、Uber Eatsで現在展開している2つの広告施策を紹介した。
1つ目は「(デリバリーで済ませることへの)罪悪感を払拭する広告」として、「仕事で忙しい親が子供の食事準備をUber Eatsでスムーズに」というストーリーのCM。日常の中で起こるトラブルをUber Eatsが解決するシーンを伝えることで、サービスの利便性を訴求する。
2つ目は「コストメリットを強調するプロモーション広告」として、利用者がすぐに行動に移せるメッセージをデジタル広告や屋外看板で展開。「ピザ50%オフ」などの具体的な割引を前面に出し、コスト面の抵抗感を低減させる狙いがあるという。
■認知の高いブランドと新規参入ブランド、それぞれの戦い方
「Uber Eatsのような既存認知の高いブランドと、新規参入ブランドでは戦略が全く異なる」と佐々井氏。「メディアプランニングを成功させるには、業界特性と商材の現在地、課題解決アクションの3つを整理する必要がある」と語る。
「たとえばデリバリー業界の場合、すでに高い認知を持つUber Eatsは、市場全体を拡大しつつ、未利用層をターゲットにした『ボトルネック解消型』の広告が中心。一方、新規参入ブランドの場合は認知度の低さが課題となるため、サービス自体の認知を広げ、利用者を獲得するためのメッセージを展開する必要がある」(佐々井氏)
「これを受けて、Uber Eatsでは『罪悪感』と『コスト』という2つのボトルネックを解消する戦略を立案した」と佐々井氏。それぞれの課題に応じて、ターゲットメディアや広告内容を緻密に設計しているとした。
■テレビとコネクテッドTVの組み合わせ、「トレンド」の流れに対して「テレビにしかない強み」も
テレビメディアにおける広告展開について、佐々井氏は「テレビもコネクテッドTVも同じスクリーンとしてプランニングするのが主流」とコメント。「視聴者はテレビスクリーンを見ているときに、それがテレビかYouTubeか意識することはない」といい、「それぞれの強みを見てプランニングするのが肝」と語る。
「地上波(テレビ)は圧倒的なリーチ力を持つが、50代以上にフリークエンシーが偏るところがある。リーチを担保しつつ、一部コネクテッドTVを組み合わせることで、狙ったターゲットへ大きい画面でしっかりメッセージを届けていくことがトレンドとなってきている」(佐々井氏)
これに対して阿部氏は、「テレビとコネクテッドTVは基本的に分けて考えており、クリエイティブもそれぞれ変えたりしている」としつつ、「リーチの補完という観点で考えると、たしかに見ている方は『これが地上波なのか、TVerなのか』というようなことはそんなに深く考えていないことが多いと思う」とコメント。
「(テレビとコネクテッドTVを組み合わせて)どれくらいリーチが取れるか、というシミュレーションをもう少し精緻にしていかないといけないとチーム内でも話し合っている」と語る。
続いて「テレビにあって、コネクテッドTVにはない価値とは?」という話題に。佐々井氏と阿部氏がそれぞれ語る。
「テレビCM出稿は簡単にできるわけではなく、事前に厳格な業態考査、クリエイティブ考査がある。クリエイティブの中で語られているメッセージが視聴者に対して誤認を与えないか、本当に根拠があることなのかをしっかり審査した上で流されているので、(テレビCMとして)流れている事自体が非常に信頼性の高いことだと思われている、という部分では非常に大きな強みであると思う」(佐々井氏)
「地上波の場合、(視聴者)全員が同じ時間帯でリアルタイム視聴している。我々などは食事のタイミングなどを狙って(CMを)打ったりしているので、こうした時間差がないところで広くリーチが取れるというところも地上波の魅力だと感じている」(阿部氏)
ここで鈴木氏が、テレビとコネクテッドTVを横断するビデオリサーチの効果測定ソリューションを紹介。TVとYouTubeの到達状況を総合的に評価する「Cross Media Reach Report」、2025年4月にリリース予定の、テレビとTVerの統合インプレッションやユニークユーザーを計測する「CM-UPMs(シーエムアンプ)」を取り上げた。
■「ブランディング広告」と「刈り取り型広告」どう棲み分ける?「ファネルの行き来と一貫性が重要」
市場拡大や認知を目的とし、長期的な視野を持つ「ブランディング広告」と、実際の営業促進を狙い、短期的視野を持つ「刈り取り型広告」とのバランスも大きな課題だ。阿部氏は「(ブランドとしての)一貫性の担保は難しいポイントだと思っている」と語る。
「ブランド戦略としての目標は長期的スパンでの利用意向の向上がKPIとなってくるが、まだまだ新しいサービスなので、ユーザーも獲得していかなければいけない。ユーザー獲得の観点から見ると、(ブランディングよりも短いスパンで)1週間単位で利用者が何人増えたか、ユーザー1人当たりどれくらいのコストで獲得できたのかという指標も合わせてトラッキングしていかなければいけない」(阿部氏)
「刈り取り型広告についてはマーケティングとは別のチームが担当しており、追っている指標も異なってくるのが一番難しいところ」と阿部氏。「追っている指標が違うと、成果物にも差が出てきてしまう」と語る。
「ブランディング広告はカルチャーに根づかせるためにメッセージ性の強いクリエイティブとなるのに対し、刈り取り型広告に関しては『プロモコードで何円割引』など、数字を目立たせたクリエイティブになる」(阿部氏)
「(ブランディング広告と刈り取り型広告の)お互いのメリットも生かしつつ、メジャーゴールになるかを議論し合うかが大事」と阿部氏。広告会社に向けたオリエンテーションの際にも、心がけているポイントがあるという。
「クリエイティブに関するブリーフィングを行う際、トンマナに関するレギュレーションを示し、『必ずこれは入れる、これは入れない』という最低限の合意を代理店側と取って、その上でクリエイティブの制作をしている。刈り取り型広告を展開するチームはまた違ったブリーフィングになると思うが、(ブランドの一貫性を保つ)水準をキープすることで、一定のクオリティを担保する」(阿部氏)
「ブランディングにしっかり厚みを置いた方がいいのか、今いるお客さんをしっかり刈り取ってロウアーファネルに集め置くのかという悩みは、いろいろなクライアント様からいただく」と佐々井氏。重視するべきファネルについて「何が正解かというものはないが、『ずっと同じであり続ける』は避けるべきではないか」と語る。
「アッパーファネルが必要な時期もあれば、『今はしっかり認知も取れて利用意向も高まってきているのでロウアーファネルを強めていこう』という時期もあると思う。一方、ロウアーファネルを強めすぎると、今度はブランドビルディングがおろそかになってしまうところがある。キャンペーンごとにアッパーとロウアー、それぞれ強くするファネルの位置を行ったり来たりさせることが非常に大事ではないか」(佐々井氏)
「アッパーファネル、ミドルファネルではラグジュアリーな世界観を演出しているのに、ロウアーファネルでは『何%お得』のようなメッセージを出していると、ユーザー側としては『ラグジュアリーなサービスではないのか?』と思ってしまう」と佐々井氏。「一定の世界観を保つことは非常に大事」とし、「プランニング視点では、そういった一貫性の担保やアジャストメントが重要になる」と語る。
佐々井氏は、博報堂DYメディアパートナーズが提供する、統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」を紹介。「AIやプロフェッショナルの力を組み合わせ、全体の一貫性を取るためのソリューションを提供している」と語り、「こうしたサービスを使っていただくことで、今のステータスがどこにあり、どういう打ち手をしていき、一貫性を保つためにどうすればよいかという話もクリアになってくるのではないか」と述べた。
■「広告の“体験化”」と「効果の数値化」 ブランド価値と投資効率の両立が今後の課題
SESSION5-A終盤は、登壇者が今後のマーケティングの方向性について、語った。
「多様化したメディアチャネルの中で(生活者の方々は)情報を取捨選択されていると思うので、『見たくなる広告作り』をしていきたい。具体的にはコンテンツタイアップなど、ただリーチを最大限にするだけではなく、より深いエンゲージメントを目標にするコンテンツ連動に取り組みたい」(阿部氏)
「こうした部分はメディアの方々と一緒に協議してやっていきたい部分であり、リーチの数では計れないところの指標の計測が必要になってくる」と阿部氏。「そういったところをぜひ一緒に組み立てて解決していきたい」とし、「面白い広告、楽しい広告を作っていけるようにご協力いただければ」と呼びかけた。
「進化する上で非常に重要なポイントは、大きく分けて『ブランドビルド』と『投資の全体最適化』」と佐々井氏。
「ブランドビルドにおいては、ブランドストーリーをいかに伝達していくか、伝えたいメッセージや理解していただきたいことをどういった形で伝えていくのか、手法の設計が非常に大事になってくる」とし、「コンテンツはもちろん、新しいメディアに対してメッセージをどこに載せていくか、変化する生活者に届けるためのアップデートも重要になる」と語る。
さらに佐々井氏は「投資の全体最適化」について、「非常に難しいポイント」としつつ、「いかに『ブランド』と『(顧客)獲得』を大きいビジネス成長というゴールに向かって共存させていけるかが重要」とコメント。
「目に見えないものの見える化、例えばアテンション計測やエフェクティブリーチといった定性的なものをいかに計測、指数化し、スピード感のあるPDCAでゴールに向かって動かしていけるかっていうところは我々(広告会社)も頑張っていかなければいけないポイント」とし、「ぜひ皆さんと一緒に取り組んでいきたい」と述べた。
モデレーターの鈴木氏はセッションを振り返り、「マーケティングやメディアプランニングが『統合』と『適応』を軸に進化していることが明らかとなった」とコメント。「複数のメディアや手法を組み合わせ、変化する市場やユーザー行動に柔軟に対応することが求められている」とまとめた。
■曖昧化するテレビとデジタルの境界――メディア市場の最新動向と未来像
「日本はどうする?海外のトータルオーディエンスメジャメント事情から考える」では、ビデオリサーチ 小木氏が、アメリカやヨーロッパのテレビメディア・テレビ広告市場を例に、急速に変化するテレビとデジタルの広告取引の形について解説した。
「アメリカでは、テレビ画面に映るサービスの4割がデジタルサービスで占められている」と小木氏。YouTube、Netflixなどのストリーミングサービスに加え、従来の放送局も独自の配信プラットフォームを展開し、競争が激化していると指摘する。
特に注目されるのは、「コードカッター」と呼ばれる有料ケーブルテレビ契約者の減少。視聴者が安価もしくは無料の配信サービスへ移行することでケーブルテレビのシェアが年々縮小する一方、放送局は「メディア総合企業」として、地上波のみならずストリーミングや無料広告型動画サービス(FAST)を活用し、視聴者のニーズに対応している。
「テレビ画面はストリーミングサービスが放送局とシェアを奪い合う舞台となっており、プレイヤーとサービスが入り乱れるカオス状態」と小木氏。イギリスでは動画広告収入の3分の2がデジタル化し、放送局によるVODが大きな役割を果たしているという。
「日本では地上波が全体の7割と大多数を依然として占めているが、若年層において動画サービスのシェアが2割を超えている。今後この割合がどう変化するか注目したい」(小木氏)
そんな中、海外においては「放送局とストリーマーがスポーツコンテンツを巡って熾烈な競争を繰り広げている」と小木氏。「結果として、どちらがテレビでどちらがデジタルなのか境界が曖昧になっている」と語る。
「スポーツコンテンツの人気は、地上波テレビとストリーミングの双方で顕著。アメリカでは地上波放送局がスポーツへの投資を拡大し、視聴者を引きつける一方、ストリーミングサービスもスポーツのライブ配信を強化している」(小木氏)
■多数の企業参入で取引基準が多様化するアメリカ 計測データの分散と混乱が課題
ストリーミングプラットフォームの成長が目覚ましいアメリカでは、YouTube、Netflixに加え、2024年にはAmazonも主要な広告取引市場「アップフロント」に参入。小木氏はこの動きを「地上波の広告取引市場にデジタルプレイヤーが参入する、新たな時代の幕開け」と表現する。
その反面、広告取引については多数の参入による課題も浮き彫りになっているという。「アメリカの広告取引市場では業界大手のニールセン社がデータ計測において一強の立場を占めているが、現在では新興のデータプロバイダーも次々と参入している」と小木氏。これにより異なるデータ間での矛盾が生じ、広告主や放送局に混乱をもたらしているという。
一方、ヨーロッパでは統一的な計測基準を目指す動きが進んでいる。イギリスでは、国内のテレビ局が主導となり、テレビ視聴データとデジタル媒体の広告配信ログを独自メソッドで統合するキャンペーン統合指標「CFlight」が始まり、現在は同国のテレビ視聴動向調査・分析機関・BARBで運営、地上波と配信の視聴データを統合する取り組みが行われている。
「日本でも、テレビとデジタルの視聴定義やフォーマットの違いをどう捉えるかが大きな課題」と小木氏。視聴行動を一元的に把握するための計測基準の必要性を訴えた。
■ヨーロッパに学ぶ広告取引の未来「業界の垣根を超えたコラボレーションが鍵」
放送局やストリーミングサービスが連携し、視聴者との接点を広げる取り組みが進むヨーロッパの事例を踏まえ、小木氏は「業界の垣根を超えたコラボレーションが、未来のメディア市場を切り開く鍵になっている」とコメント。
「『これはテレビなのか、デジタルなのか』業界の垣根がわかりづらくなっているなか、求められるのは業界を超えたコラボレーションであり、そこからイノベーションが生まれることが重要」と強調する。
「最終的には、生活者が何を求めているのかが軸となり、コンテンツがその基盤になる」と小木氏。「コンテンツによって人が集まり、マーケットやビジネスが生まれるということ、これがメディアや広告の未来だと感じた」と振り返り、「メディア、コンテンツ、広告それぞれのビジネスが発展していけるよう、コラボレーションとイノベーションが進められるよう、みなさまと取り組んでいけたらと思います」と、全体を締めくくった。