左から)モデレーター:株式会社TVer・中島和哉氏、パネリスト:朝日放送テレビ株式会社・伊藤拓哉氏、株式会社毎日放送・高橋貴志氏
ローカル局が“多数に埋もれない”勝ち筋は? 〜TVerウェビナー「在阪局から見たTVer」レポート(3)
編集部 2025/1/22 08:00
株式会社TVerのオウンドメディアScreens主催のウェビナー「放送局のための配信ビジネス最前線」が、12月6日にオンライン開催。今回は民放連加盟社およびその関係会社を対象とし、放送業界内部で直面する課題や成長戦略について、外部視点からの分析やパネルディスカッションを通じて議論を深めた。
3回目は、パネルディスカッション「在阪局から見たTVer」をレポート。2016年10月3日よりTVerサービスに参加した在阪民放2局。両社が取り組むTVer上での特色豊かなコンテンツ展開を紹介しつつ、今後に向けた展望が語られた。
パネリストは朝日放送テレビ株式会社 コンテンツプロデュース局 コンテンツビジネス部 マネージャー 伊藤拓哉氏、株式会社毎日放送 コンテンツ戦略局 コンテンツビジネス部 企画推進担当部長 高橋貴志氏。モデレーターを株式会社TVer コミュニケーション戦略室長 中島和哉氏が務めた。
■TVer配信でローカル番組が全国区の人気に「制作現場にとって最大のモチベーション」
「関西のバラエティ番組が全国の方に見てもらえるようになったのが、TVer配信を始めての大きな変化」と伊藤氏。「ローカル番組が全国ネットと同列に並び、面白さで勝負できることが制作現場にとっても最大のモチベーションになっている」と語る。
具体例として伊藤氏は、千鳥(大悟、ノブ)がMCを務める『相席食堂』を紹介した。2018年に関西ローカル番組としてスタートした本番組は、初回よりTVerで配信を実施。伊藤氏いわく「タレントの指原莉乃さんがSNSでつぶやくなど、一気に注目が集まった」という。
人気を受けて、AmazonプライムビデオやNetflixなど各プラットフォームでも配信を開始したほか、カプセルトイや限定コンテンツ、阪神タイガースとのコラボイベントや実店舗展開などを多数実施。「TVerでの成功がきっかけでローカル発のコンテンツがIP化し、全国や海外にも広がった」と伊藤氏はいい、「地方局にとって夢のあるストーリー」と力を込める。
これを受けて「配信当初は制作側に負担がかかる部分もあったが、今では制作陣から『この番組も配信したい』と声が上がるようになった」と高橋氏。「自分たちの番組を全国の人に見てもらえることはモチベーションになる」と同意する。
「配信の再生数が新たな評価指標として社内でも注目されるようになり、地上波の視聴率だけでなく、TVerのデータも注目されるようになった」(高橋氏)
■ローカル番組が埋もれないためには? SNSでの話題化、ライブ配信に期待
多くの番組が配信されるTVerの中で、ローカル番組が再生数をアップするためにはどのような要素が重要なのか。伊藤氏はSNSの効果を語る。
「『探偵ナイトスクープ』で瓜二つの2人が実は生き別れの双子だったと判明した回は放送後にSNSで大きく話題になり、通常の4〜5倍にのぼる91万再生を記録した」と伊藤氏。
「SNSで話題になることで番組を知らなかった人にも広がり、長期的な視聴者増加につながる」(伊藤氏)
一方、「コンテンツが増え続ける中、ローカル番組は埋もれてしまいがち」と高橋氏。「地域ごとの特性や情報を活かし、関西在住の視聴者には関西の番組を優先表示するなど、見せ方の工夫が必要」といい、TVerも注力するライブ配信への期待を寄せる。
「ライブ配信だからこそできる取り組みもある。ゴルフトーナメントの予選ラウンドなど地上波で放送されない部分をTVerで配信し、新たな視聴機会を作っている」(高橋氏)
毎日放送では、11月17日に投開票された兵庫県知事選の際に独自のYouTubeライブを行い、毎日放送のYouTubeライブとしては過去最多の同時接続者数を記録した。「報道系のライブ配信をYouTubeのように手軽にできるようにして欲しい。運用の手間が大きな課題」と高橋氏は述べつつ、「TVerでもこうした取り組みを増やしていきたい」と語った。
■在阪局の戦い方は「広告主がファンとなって出稿してくれる番組作り」
在阪局におけるセールス状況、マネタイズに対する取り組みはどのようになっているのか。伊藤氏、高橋氏からリアルな声が挙がる。
「DMPによる運用型広告が中心になると、番組の内容よりも視聴者の属性カバーが焦点になりがち。そうなるとキー局の圧倒的な在庫にはどうしても敵わないので、広告主様に番組のファンになっていただき、『この番組に広告を出したい』『この番組を見ている方々に自社の広告を届けたい』と考えていただける番組を作ることが在阪局としての戦い方になるのではないかと、営業担当者とも話している」(伊藤氏)
「マネタイズという面では配信での広告在庫量が重要だが、我々ローカル局では全国ネットの番組は多くなく、再生数にしてもキー局と比較するとかなり少ない。在庫量の差が広告の売り上げに大きく影響するし、番組を指名買いいただく場合にも認知度が(価値基準として)大きく関わる。このギャップをどう埋めていくかという点は日々苦労しているところ」(高橋氏)
「弊社であれば、アニメ『プリキュア』シリーズは小さな女の子がたくさん見ているとか、『相席食堂』だったら千鳥ファンの若い男性がたくさん見ているということがわかる。『社長が相席食堂のファンだから、ぜひ広告を出したい』というように、番組を“指名買い“していただける事例をうまく掴んでいくことの勝負になる」(伊藤氏)
TVerでは「TVer ID」などデバイスを横断してのユーザー管理をはじめ、ログイン時アンケート、インストリームでのアンケート「TVer Surveyレポート」など、より細やかなターゲティングにつながる情報をファーストパーティーデータとして取得することができる。これらはどのように活用されているのか。引き続き伊藤氏が語る。
「『プリキュア』の場合、ランドセルとかおもちゃなど、子ども向け番組という点から直接的にイメージできるものをセールスしていく流れがあったが、データを活用することによって『プリキュアは親子での視聴が多い』『親にあたる視聴者層はレジャー施設をよく訪れる』といった側面も浮かび上がっている。こうした情報を具体的なセールス先のターゲット設定にどんどん活かせると良いなと思う」(伊藤氏)
「TVerは目的視聴が多く、『この番組が好きだから』と見る方が多い」と伊藤氏はいい、「(高い熱量を持つ視聴者の)ユーザー属性がはっきりすることは非常に助かる」とコメント。セールス面でのデータ活用に大きな期待を寄せた。
■「地元にも、全国に見てほしい」ローカル局のニーズは“受動視聴”で叶えられる?
最後は、それぞれTVerに期待する未来についてディスカッションした。
高橋氏は、「コンテンツ増加に伴い、再生数が伸びる番組と埋もれてしまう番組の二極化が進んでいる」とコメント。「(キー局番組と比較して)認知度が低いローカル番組をいかに見ていただくかは大きな課題」とし、「ローカル番組の見せ方やレコメンド方法について一緒に考えてほしい」と語った。
「『おすすめ番組』のようなレコメンドであったり、ユーザーの居住地情報など使って『関西でTVerを立ち上げたら関西の番組が優先的に出る』など、いろんなやり方があると思う。ユーザーによって見え方を変えたりして、興味のある番組を見ていただける仕組みがあれば」(高橋氏)
さらに高橋氏は「『今日はこの番組を見たい』と思ってアクセスする方がTVerには多い」とコメント。「FAST(Free Ad-supported Streaming Television)のように、ちょっとTVerに来て『なんだか面白そう』と番組に出会える仕組みがあると、より(ローカル番組にも)視聴のチャンスが増えていくのではないか」と提案した。
これを受けて中島氏は、「地上波のような、家に帰ってなんとなくテレビをつける体験をTVerでどう提供できるかは、大きなテーマ」とコメント。「今日はTVerでだらだらしようとか、(部屋に)何か流す音が欲しいからTVerで動画をかけよう、といった受動視聴スタイルのサービスにも挑戦していきたい」と述べた。
伊藤氏は「地元で作っている番組を地元の方に確実に見ていただきたい」とする一方、「自分たちの番組を全国の方に見ていただきたい」という二律背反的なニーズもある」とコメント。「やはりローカルコンテンツが全国区の人気番組になるということは、ある種のシンデレラストーリー的な希望」とコメント。「両方のニーズを叶える仕組みをTVerには実現してほしい」と語る。
これに対して中島氏は、「TVerアプリ起動時のアンケートで性別・年齢・郵便番号を入力していただいているが、自分と同じ地域、自分と同じ性別・年代で人気の番組や話題を(レコメンドで)出していけたらと思う」とコメント。さらに「『ご当地特集』のようなローカルに根差した企画をもっと立ち上げて、『こんなに面白い番組がこの地域では作られているんだ』と、全国のみなさんに知っていただく機会や仕組みを増やしていきたい」と述べた。
COOが語るTVerの現在地と課題 〜TVerウェビナー「放送局のための配信ビジネス最前線」レポート(1)
デジタル広告の伸び“鈍化”の中でTVerが取るべき一手は? 〜TVerウェビナー「外から見たTVer」レポート(2)
民放各局が語るTVerの現状と展望―スポーツ配信、CTV戦略、ビジネスへの挑戦 〜TVerウェビナー「在京5社と考えるTVerや配信ビジネス」レポート(4)