左から)伊藤健二氏、合澤智子氏、渡辺庸人氏

03 FEB

「テレビCMの強みとは」VR調査結果から深掘り議論【テレビカンファレンス2024レポート後編】

編集部 2025/2/3 17:00

民放キー5局が共同主催するビジネスイベント「テレビカンファレンス」が昨年に続いて、今年も開催された。2回目となった今回、11月7日(木)に東京国際フォーラムB7ホールで「もっと伝えたい、テレビのこと〜ビジネスを加速させるテレビマーケティング最前線〜」と題し、テレビ局が取り組む様々なソリューションを披露する場となった。現場の声が集約されたスペシャルステージのカンファレンスの模様を前・後編にわたってレポートする。後編は「ブランドセーフティ」を題材にテレビCM効果の調査結果を議論した内容をお届けしたい。

■マイナスイメージを防ぐ3つの「ブランドセーフティ」

「テレビCMの強み~ブランドセーフティの観点から」と題したこのセッションでは、広告活用が多様化するなかで、注目される「ブランドセーフティ」に関する調査を行い、その結果をもとに深掘りする場が設けられた。KDDIコミュニケーションデザイン部部長・合澤智子氏とビデオリサーチビジネスソリューショングループ兼リサーチアナリシスグループフェロー・渡辺庸人氏が登壇し、TBSテレビ営業局局長・伊藤健二氏が進行役を務めた。

KDDIでコミュニケーションデザイン部(旧宣伝部)を統括する合澤氏はKDDIブランドのプロモーションを手掛けるなか、テレビと無料動画の活用について率直な意見を述べた。

「テレビはブランドのワンメッセージを伝えることに効果的だと思っています。ただし、最近はブランドのサービスの内容が複雑化していますので、詳しいところはデジタルでターゲティングし、伝えるやり方が必要です。コネクテッドTVも活用しながら、色々なメディアを複合的に活用していくことが重要だと思います」(合澤氏)

つまり、こうした現状を背景に「ブランドセーフティ」に関する議論はテレビに限らず、広告メディアである無料動画でも求められているということだ。

「ブランドセーフティ」の定義についても改めて整理された。TBS伊藤氏曰く、「3つのブランドセーフティ」があるという。1つ目は「プラットフォーム自体」、2つ目は「どのコンテンツと一緒に流れるか」という組み合わせ、3つ目は「並列して流れる他社CM」との兼ね合いだ。それぞれ視点は異なるが、いずれも考慮した上でブランドのマイナスイメージを防ぐ必要があることが指摘された。

伊藤健二氏

実際にKDDIでもブランドを構築する上で、このような課題感を持っているという。合澤氏は「ブランド毀損を起こさないように、日々広告活動に取り組んでいます」と話す。

■若年層も反応する「不快」な広告視聴体験

ブランドセーフティについて共有した上で、「テレビカンファレンス」を主催する民放5局がビデオリサーチに依頼した調査結果が報告された。TBS伊藤氏は「テレビはブランドセーフティが担保されていることで、広告効果に対してプラスの影響を期待できるのではないでしょうか。これを仮説とし、調査を依頼させてもらいました」と説明する。

調査目的は「テレビや無料動画における広告が生活者に与える印象の特徴をメディア別に明らかにする」もの。全国約1700名対象に2024年8月に実施された。なお対象となった広告はテレビ、TVer、無料動画の3媒体である。

調査結果で明らかになったことの1つに「広告という存在は許容されているが、“気になるかどうか”については媒体間で差があった」ことが挙げられた。また「健全性への懸念意識」「不快な広告視聴経験」についても結果は同様だ。

ビデオリサーチの渡辺氏は「テレビCMに対しては“気にならない”“集中して見聞きしている”というポジティブな反応が高い。一方で、“うるさい”といったネガティブな評価は無料動画の動画広告の方が高めに出た結果となりました。またテレビCMやTVerの動画広告に比べると、動画広告の広告表現は“品がない”“青少年に好ましくない”といったところでややスコアが高くなっています。さらに、不快な広告の視聴経験においても媒体間で差があります。もともとコンテンツが違うことで、広告にも違いがあることが要因にあると分析しています」と説明する。

調査結果から渡辺氏が意外性を感じたのは「不快な広告視聴経験に対する若者の反応」だったという。調査結果では男女15~19歳の区分において無料動画の動画広告で不快な広告経験を「ある」と答えた割合は51%と半数を超えた。また男性20~34歳の区分ではテレビ、TVer、無料動画共に「ある」の割合が高く、女性20~34歳の区分では無料動画の「ある」の割合が最も多かった。

合澤智子氏

「若者は当然デジタルネイティブの世代です。広告に対してなかなか反応しないという話もあるなかで、若年層が逆に不快な広告視聴体験に対して敏感に反応していることが興味深い特徴であると強く感じました」と渡辺氏が解説すると、これを受けてKDDI合澤氏がau のCMシリーズ「au三太郎」の事例を交えて感想を述べた。

「メディアそのものの課題とクリエイティブ面でのメッセージとしての課題がありそうです。例えば、“三太郎シリーズ”にデジタルのクリエイター出身の方が登場すると、“テレビに出て凄い”という反応が得られます。つまりこれは、テレビには信頼性があるということ。メディアに対する感度は私達が考える以上に高くなっていると感じています」(合澤氏)

■「興味関心」や「購買意欲」のアドバンテージはテレビCMにある

今回の調査では「テレビCMの強み」に関する結果も得られた。「広告主への“信頼感”と“親しみ”」と「商品・サービスへの興味関心や購買意欲の醸成」がテレビCMの強みとして挙げられるという。

渡辺庸人氏

これについてビデオリサーチ渡辺氏は「テレビは伝統があり、しかも身近な安心なメディアという評価を含めて広告主への評価は非常に良く、強みとして結果に表れています。またテレビCMは商品・サービスへの興味関心や購買意欲に繋がる効果性もまだあるのではないかと結果から読み取ることができます。もちろん動画の方も効果があることが結果から見えてきますが、アドバンテージはテレビCMの方にあるということだと思います」と説明する。

調査結果の全体のまとめとしては「テレビコンテンツ、配信コンテンツそれぞれ“住み分け”して生活者に認識され、いずれも広告は許容されている」「広告接触時の不快感は、企業評価や商品・サービスの関心度の低下への要因となりうる。また出稿する媒体やコンテンツに掲載される他の広告からの影響も受ける可能性がある」「テレビCMの強みは不快感の少なさ。“信頼”“親しみ”や購買・利用意向醸成といった点で有利な点が確認できる」の3点がポイントにあるという。そして「広告接触に伴う生活者の感情的な体験は、ブランドセーフティの観点から重要な要素であり、テレビに強みがある領域」と結論付けられた。

最後に登壇者それぞれの立場から前向きな意見が述べられた。

「広告主はもちろんのこと、生活者にとってもブランドセーフティが担保されるということは不幸な体験が減るということです。ブランドセーフティという観点から見た場合、改めて生活者が広告に接触する際にどのような体験をしているのかということに注目していくことがポイントにあると思います」(渡辺氏)

「やはりテレビはやはり大きくブランドを作ることができるメディアであると思いました。お客様の視聴スタイルを想像しながら、お客様の感度の進化をキャッチしながら活動していく必要があると改めて思いました。私たちもしっかり意識を上げていきます」(合澤氏)

「地上波テレビ、TVerも含めて改めて安心安全のブランドセーフティが大きな価値になっていくと考えています。広告イメージに対するマイナス面を避けるだけでなく、効果性というポジティブな意味でもブランドセーフティはテレビの1つの強みになる思い、今後の活動に活かしたいと思います」(伊藤氏)

ブランドセーフティという観点からテレビの強みを議論した今回のセッションは、テレビの未来を考える「テレビカンファレンス」ならではのテーマでもあった。