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35歳未満はBBCよりもYouTube、イギリス調査結果が示す現実 【MIPCOMカンヌ2024レポート後編】

編集部 2024/12/25 08:00

上昇トレンドはいつ来るのだろうか。そんな囁きが至る所で聞こえてきた2024年は世界のコンテンツビジネス市場にとって厳しい一年だった。フランス・カンヌで10月に開催された世界最大級のTVコンテンツ国際取引マーケット「MIPCOMカンヌ2024」(主催:RX)で報告された市場トレンドを解説しながら、後編にわたり2025年を生き抜くためのヒントを探っていく。後編は日本と同様に高齢化が進むイギリスのメディア視聴傾向に注目する。

投資控えの時代に輝くメディアとは?復活の兆しを探る 【MIPCOMカンヌ2024レポート】

■放送とネット視聴の割合はほぼ同じ

世界全体のコンテンツ市場の動きから上昇トレンドの兆しは僅かながらある。前編ではその内容について解説したが、後編は変化するメディア視聴傾向に注目し、生き残りのヒントを深掘りする。参考になるのはNY在住メディアカルトグラファーのEvan Shapiro氏が「MIPCOMカンヌ2024」で報告したイギリスのメディア視聴データ分析だ。

Evan Shapiro氏

イギリス在住7000世帯、1万6000人を対象に調査され、パネルとビッグデータの組み合わせによって、「誰が視聴しているのか?」「何を視聴しているのか?」「どのデバイスを使っているのか?」という3つの視点から分析されていた。イギリス人口の年齢構成は58%が35歳以上と、視聴者全体の中でミレニアム世代やZ世代が占める割合はアメリカやヨーロッパの他の国と比べて低い。日本ほどではないが、高齢化が進む国の1つだ。なお、世界全体では人口の55%が35歳未満である。

はじめに示されたのはイギリス一般人口のメディア選択の変化だった。2022年と2024年と比較すると、放送メディアを視聴する割合は52.1%から46.1%とシェアを落としたのに対して、ストリーミングとソーシャルビデオ視聴を合わせた割合は38.6%から46.3%とシェアを伸ばす。変化が起こっていることはある程度予想できることだが、放送メディアの視聴とストリーミングとソーシャル視聴を合わせた割合がほぼ同じであることには驚きだ。

世代別では当然異なる。35歳以上の放送視聴は60%近くを占めるが、16歳から34歳までのミレニアルとZ世代においてその割合は14%ほどだ。ストリーミングとソーシャルビデオ視聴を合わせた割合は80%を超える。ストリーミングには放送系のサービスも含まれているが、若者にとってインターネットを通じてコンテンツを視聴することが当たり前になっていることを示す。

この結果を受けて、Shapiro氏は「最も年齢の高いミレニアル世代は現在43歳。インターネット経由で視聴する習慣が一般人口にも影響を与えていることがわかる」と話していた。

■全体ではBBCトップも若年層ではYouTube

続いてTV、モバイル、タブレット、PCの4つのデバイスから家庭内WiFi回線経由の視聴を条件に調査されたメディア選択の実態についても報告され、イギリスのメディア視聴傾向が明らかになった。

その結果、イギリスの一般人口で最も視聴されているメディアは公共放送のBBCだった。全体の割合の中で20%を占め、他のメディアと比べると圧倒的に高い。レガシーメディアの強さを表しているが、2位のポジションは2022年と2024年では変化が起きている。2022年では民放テレビ最大手のITVが14.7%の割合で2位に位置付けていたが、2024年では13.7%に落とし、順位も入れ替わった。YouTubeが13.7%から15.7%と伸ばし、2位に浮上したからだ。YouTube以外のメディアが縮小傾向にあるのに対して、YouTubeだけが大幅に成長している。

メディア選択の実態においても年齢別で違いがある。35歳以上ではやはりBBCが強い。そして2位を保持するのがITVである。YouTubeは3位のままだ。35歳以上では全体としてSKYなど放送系が高い実績を上げている。

イギリスの視聴メディア実態調査(35歳以上)

興味深いのは16歳から34歳の結果だ。YouTubeが2022年、2023年、2024年共に1位に位置づけ、その割合は24.5%から27.5%と数字を上げてもいる。さらに2位にいるのはNetflixである。3位争いも熾烈だ。2022年時点ではBBCが3位だったが、2023年にTikTokがBBCを追い抜き、3位に浮上している。一般人口ではTikTokは数字を落としているが、若い層から支持を得ていることがわかる。

イギリスの視聴メディア実態調査(16-34歳)

なお、ストリーミングサービス間の競争が激化していることも示されている。16歳から34歳の若年層においてNetflixは過去2年間の間に18.4%から15.3%に減少しているが、Disney+は5.4%から8.8%に上昇している。一般人口においてはNetflixが4位に位置づけ、ほぼ横ばいが続く。ストリーミングサービス間でシェアの変動が起こっている。

■プレミアムコンテンツもYouTubeで

イギリスにおけるメディア視聴傾向は特殊な事例を示しているものでは決してないだろう。年齢層による違いがわかりやすい事例の1つであり、自国のケースに置き換えて数字の変化を捉えると生き残りのヒントになりそうだ。また上昇トレンドについて語る時、テレビやNetflixなどプレミアムコンテンツを制作するメディアが主語になりがちだが、YouTube時代の中でメディア競争や連携、そしてクリエイティブや流通エコノミーを考える必要がある。

データ分析したShapiro氏が力説する。「ミレニアル世代の多くが今では35歳に達し、6、7年後にはZ世代が35歳になる。この世代の視聴習慣がメディア全体に大きな影響をもたらす可能性は非常に高い。だからこそYouTubeを取り入れるべきだ。YouTubeは昔のテレビサービスのようなものを目指している。番組制作には直接影響しないが、視聴者を拡大するための最適な方法にある」。

イギリスではITVやチャンネル4がリーチ拡大を狙い、YouTube利用が増えていることも報告された。放送直後にオリジナル長編シリーズをYouTubeで展開するケースもある。日本では報道コンテンツを中心にYouTube展開が増えているが、ジャンルを問わず入口の1つとして利用することが今後、重要なのかもしれない。

Shapiro氏は「YouTubeは35歳未満の視聴者を拡大するチャンスとして考えるべきだ。また制作者にとっては視聴者を見つけるチャンスにもなる。TikTokをマーケティングの延長として捉えることもできるだろう。必ずしも売り込みだけが全てではないが、プレミアムコンテンツをソーシャルメディアにも提供することが今後のカギになるのではないか」と語っていた。

これまではMIPCOMで成功事例を語るセッションが人気を集めていたが、正攻法が見つけにくい状況のなかで、データ分析からヒントを求めるセッションに注目が集まっている。コロナパンデミック以降、その傾向は顕著だ。Shapiro氏は繰り返し「数字は嘘をつかない」と言う。変化が激しく不確実性の時代だからこそ役立つものになる。