左から)テレビ朝日 平石直之氏、北海道文化放送 杉本歩基氏、TOKYO MX 樋田光風氏、高樹町法律事務所 澤田将史氏
メディア企業は生成AIをどう使うか~活用事例とリスクマネジメント~ InterBEE2024レポート
編集部 2025/1/24 08:00
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2024」を2024年11月13~15日にかけて幕張メッセで開催。昨年より約2,100名多い33,853名が来場した。
本記事では、放送と通信の融合を前提としたうえで、その“先”にあるビジネスの形をさまざまな切り口で取り上げたセッションプログラム「INTER BEE BORDERLESS」をレポート。今回は11月15日に行われたセッション「メディア企業は生成AIをどう使うか~活用事例とリスクマネジメント」の模様をお伝えする。
本セッションでは、放送の現場でも活用が進む生成AIについて、業務効率化、制作物への活用事例を紹介。さらに生成AIを利用する際のリスクに詳しい法律家を迎え、現在進行形で進化するテクノロジーを使う際に注意すべきポイントを尋ねる。
パネリストは、北海道文化放送株式会社(uhb) 編成局 編成部 杉本歩基氏、東京メトロポリタンテレビジョン株式会社(TOKYO MX) 編成制作本部 編成局 編成部長 樋田光風氏、高樹町法律事務所 弁護士 澤田将史氏。モデレーターを株式会社テレビ朝日 アナウンサー 平石直之氏が務めた。
■北海道文化放送の事例:「FAXリリース自動処理」で業務効率化
最初に北海道文化放送 杉本氏がプレゼン。FAXで届くリリースを自動管理するWebアプリケーションに生成AIを組み込み、業務効率を高めた事例を紹介した。
このシステムでは、FAXで届くリリースをPDF化したのち、OCRで文字認識。これを生成AIで自動要約し、クラウド上で共有する。AIが自動で内容の要約やジャンル分類を行うため、手作業の削減だけでなく、検索性が大きく向上したという。
「『ChatGPTに内容を打ち込んで要約してください』と言っても、忙しくて入力すらままならないケースが多いが、システム化すれば、意識せずとも自動処理された情報を活用できる」(杉本氏)
このシステムでは、生成AIがニュース記事を自動生成する機能も搭載。要約したリリースの情報をもとに記者が取材した内容を加えることで、短時間での記事作成が可能という。
「この自動化システムを社内に広げた結果、60人規模でもイニシャルコストをかけずに安定運用できている」と杉本氏。
開発担当は杉本氏1名のみで行っており、「APIを活用すれば短期間でPoC(概念実証)から実運用まで持っていける時代になった」と、生成AIの導入ハードルが下がっている現状を強調した。
■TOKYO MXの事例:生成AIでテレビCMを制作
続いてTOKYO MX 樋田氏がプレゼン。生成AIを駆使し、人間の出演者のように自然に振る舞うCGアニメーション「デジタルヒューマン」を登場させた同局イメージCM制作の舞台裏を語った。
「『どこまでもマニアック』という局のキャッチコピーを体現するため、今回あえて生成AIによる映像表現を選んだ」と樋田氏。
【TOKYO MX新キャッチコピーイメージCM】「どこまでも!マニアッ9。」15秒
短い期間で仕上げるため、AIが生成したラフ映像をベースにCG制作と手動修正を繰り返し、本編を完成。撮影なしでイメージを具現化できる利点がある反面、、矛盾点のある画像を修正する作業が必要だったという。
例:「指が6本ある」「ユニフォームの背番号が噛み合わない」など。
CM放送後、視聴者からはさまざまな意見が。「これはオリジナル作品だと言えるのか」など、主にその作家性に関して厳しい意見も見られた一方、「技術的な進歩を感じる」と、驚きの声も多く上がっていたという。
生成AIを用いたコンテンツ制作について樋田氏は、「生成物に対する修正の手間がかかる」と述べつつ、「空撮映像など、実際に撮影を行うとコストがかかる部分の費用を削減でき、イメージを具現化できる」「デジタルヒューマンの場合はスキャンダルなどのトラブルがない」などのメリットを強調。
「最終的にはコンテンツとして“どう面白さを伝えきるか”が重要」といい、「生成AIを活用するにしても、うまくプロデュースしなければ視聴者はついてこないと感じた」と振り返った。
TOKYO MX、新キャッチコピーは「どこまでも!マニアッ9。」生成AIを活用してイメージCM制作
■ABEMAの事例:試合映像のハイライト切り出し、字幕・テロップ作成を半自動化
続いて平石氏が、生成AIを用いたABEMAのクラウド編集システムを紹介。ブラウザ上で動作するWEBアプリとして設計された同システムでは、試合映像のハイライト作成などが半自動化し、クラウド上で共有。かつてはスタッフが手作業で切り出していたハイライト映像や字幕生成も、今後はゴールシーンや重要場面をAIが自動検知し、即座にハイライト動画を組み上げる段階に進んでいく見込みという。
また、同システムでは素材中のコメントを文字起こしし、オンエアを切り出した事後記事の生成にも対応している。
「クラウド上で映像切り出しができ、文字起こしから簡易的な要約、記事公開まで一括管理で行える」と平石氏。作業者は内容確認と最終修正だけ行えばよく、制作時間は30%削減、記事本数も1.6倍に増やすことができたという。
■導入ハードルが下がる中… 著作権・炎上リスクを避けるために重要な3つのポイント
最後に澤田氏が、弁護士の立場から生成AIにまつわる著作権・炎上リスクなどを整理、解説した。
「AIの学習データに含まれる作品がほぼそのまま出力されると、著作権侵害につながる可能性がある。適切なリスク低減策を講じて、リスクを十分に低減した上で、事業上のメリットを踏まえて活用していくべき」(澤田氏)
「生成AIを実務に導入するならば、『モデルの選定』『入力するプロンプトの選択』『出力物のチェック』の3つのリスク低減策を講じるのが望ましい」と澤田氏。「たとえ法的に問題がなかったとしても、ネット炎上するケースもあり得るため、迅速な対応体制も必要」と述べた。
各社ともに試行錯誤しつつ、生成AIを柔軟に取り入れることで業務を変革する現状が示された今回のセッション。最後にパネリストたちが現状を振り返りながら、今後に向けた展望を語った。
「生成AIを一度使ってみると、どんな場面で効果が出るかが見えてくる。完璧を求めずにトライし、要所要所を人間がサポートする体制が大事だと考えている」(杉本氏)
「生成AIだからこそ作れる表現もある一方、良くも悪くも想定外の“AIらしさ”が出てくる瞬間もある。どのようにコンテンツとして魅力的に落とし込むか、プロデュース力が試されていると思う」(樋田氏)
「たとえ人間が作ったものでも、リスクはゼロではないので、AIについてだけリスクを過度に捉える必要はない」と澤田氏。「生成AIを使用するにあたっては、十分なチェック体制を整え、メリットとリスクを天秤にかけながら使用することで大きな問題は防げる」と述べた。
テレビにとってリテールメディアは敵か味方か?~テレビとの親和性を探る~ InterBEE2024レポート
基調講演~CTV上での放送コンテンツの存在感とは~(前編)【Inter BEE 2024レポート】
最新の生活者データから見る制度設計の指針~InterBEE2024「定量データから見る情報空間の現在地」レポート
配信と放送のシームレス時代に取るべきアクションは? 〜InterBEE2024「放送の未来像を配信の“現場”から考える」レポート