左から)モデレーター: 奥 律哉氏、パネリスト: 渡辺庸人氏、森下真理子氏
最新の生活者データから見る制度設計の指針~InterBEE2024「定量データから見る情報空間の現在地」レポート
編集部 2024/12/23 08:00
一般団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2024」を2024年11月13~15日にかけて幕張メッセで開催。昨年より約2,100名多い33,853名が来場した。
本記事では、放送と通信の融合を前提としたうえで、その“先”にあるビジネスの形をさまざまな切り口で取り上げたセッションプログラム「INTER BEE BORDERLESS」をレポート。今回は11月13日に行われたセッション「定量データから見る情報空間の現在地〜生活者トレンドを正しく理解し、制度設計の礎とする」の模様をお伝えする。
メディア環境は加速度的に変化し、従来の常識では捉えきれない生活者行動のダイナミックな変化が進行している。本セッションでは、生活者のメディア行動に関する調査データや、英国の独立規制機関「Ofcom」等が公表したレポートを基に、生活行動やメディア利用の変化を深掘りし、これを踏まえた制度設計の在り方について議論する。
パネリストは株式会社ビデオリサーチ ひと研究所 所長 渡辺庸人氏と、株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 森下真理子氏。モデレーターをメディアビジョンラボ代表 奥 律哉氏が務めた。
■「テレビ専念」の行動パターンが“消失”「見たいものが終わると他のメディアへ」
前半は渡辺氏が、ビデオリサーチの日記式生活行動調査「MCR/ex」のデータを用いた生活者のメディア行動パターン分析の結果を紹介。15分単位で1週間分の行動を記録した調査データから、行動パターンの類似性や傾向を分析する取り組みを実施してきており、今回は2018年、2020年、2022年、2024年の4回分の調査データについて分析結果を比較し、コロナ禍前からアフターコロナに至る変化を捉えた。
渡辺氏は調査結果をもとに、生活行動パターンを11種類に分類。主なパターンとしては、平日は仕事や学校に行き、土日は休むという典型的なものから、在宅でテレビをよく見るタイプ、ネット利用が目立つタイプ、夜中に仕事などで外出をするタイプなどがあるという。
生活者の傾向からは「時間配分の変化も大きな特徴として挙げられる」と渡辺氏。2018年と比較して2024年では外出時間が1日平均33分減少し、代わりに在宅時間が増加した。渡辺氏いわく、この時間の増加は特にネット利用や在宅勤務に割かれており、「コロナ禍で生じた変化が定着している」という。
また、12~29歳の若年層においての朝のネット動画視聴の増加にも注目。モバイル端末での利用が目立つ。「『朝から推しの動画を見て目覚ましにする』『時計代わりに海外ドラマを流す』といった声が聞かれる」と渡辺氏は語る。
また2024年のデータを別途分析した結果では“テレビ専念視聴型”の行動パターンが消失。テレビ視聴が生活の中心から「行動の一部」へと変化している傾向があることが示された。生活行動のパターンはアフターコロナでもコロナ禍前に戻るわけではなく、変化の固定化の兆候があるという。
「若者のメディア利用においては特定のコンテンツを求める傾向が強く、テレビで見たいものが終わると他のメディアに移行することが多い。単にメディアの選択肢が増えたことによるものではなく、生活スタイルそのものが変わったことを意味している」(渡辺氏)
■従来メディアとネットの“分水嶺”は40代「若年層の価値観が中高年層にも波及」
続いて森下氏が発表。生活者がふだん利用するメディアの種類や利用頻度、メディアを頼りにする度合い等を調査し、世代間での差異を明らかにした。
ふだん利用するメディアとしては、ポータルのニュースサイトや民放・NHKの番組、ECサイト等の新旧メディアが上位を占める。しかし年齢層別にメディア利用頻度を見ると、若年層はSNSやブログ、動画・音声配信のシェアが高い一方、50代、60代ではテレビやラジオといった電波系メディアへの依存度が高いことが明らかになった。
「頼り」を切り口とするメディア評価においても年齢層によって大きく異なる傾向が認められた。「2024年単年で見ると、中高年層は従来型メディア、若年層はネット系メディアを頼りにする度合いが強い。その中間に位置する40代はいずれのメディアへの偏りが見られない、いわば分水嶺にあたる」と森下氏。さらに過去調査(2020年)の結果を加味した別分析を行ったところ、40代が若年層に近いメディア評価を行うようになっていることが確認されたとし、「若い世代に見られた価値観が徐々に上の世代に波及し、50代以上でも従来型メディアとネットメディアを頼りにする度合いの差が縮小している」と語った。
■放送と配信の融合を法律レベルで見据えるイギリス、そこから日本が学ぶべきことは
ここで奥氏が、総務省有識者会議による「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第3次)(案)」に対する意見募集が行われていることを紹介。
「地上波の小規模中継局をブロードバンドで代替する案が取り上げられているが、テレビに接続した録画機能を使用できなくなる懸念がある。調査では60歳以上のテレビ視聴時間の内訳はリアルタイム視聴が85%、録画再生視聴が15%という結果が出ており、こうした実態に寄り添ったものとは言い難い」(奥氏)
「現状をデータで正確に把握し、それに基づいて制度設計を行う必要がある」と奥氏。「放送の定義をテクニカルな面だけでなく、社会的役割という観点から再定義することが重要。その上で、放送とネットの融合に向けた具体的な施策を検討していく必要がある」と語った。
セッションの後半では、イギリスにおけるメディア関連の法整備の動向を参照。日本における制度設計のヒントを探った。
イギリスでは2024年に「メディア法」の法案が成立し、約20年ぶりに放送法制が改正。主要動画配信サービス(Netflixなど)がOfcomの管轄対象になることや、スマートTVなどにおける放送事業者の配信サービスのプロミネンス(目立つ形での可視化)などが盛り込まれている。
さらに放送を取り巻く環境変化への対応策として、2024年11月にDCMS(デジタル・文化・メディア・スポーツ省)がテレビ業界、インフラ産業、視聴者保護団体、規制当局らによる業界横断型フォーラム「Future of TV Distribution Stakeholder Forum」の設置を発表した。発表時に公表された委託調査レポートによると、2040年には国内世帯の95%がネット経由でのテレビ視聴が可能になるという。
放送の将来像をめぐっては、Ofcomが2024年5月に公表したレポート「Future of TV Distribution」の中でDTT(地上波デジタル放送)の縮小や廃止を含めた3つの選択肢が提示されている。放送メディアのネットへのシフトが取り沙汰されているが、奥氏は「BBCは現在の放送サービスをそのままネットへ移行するのではなく、新たなサービスとしての拡張を志向しているようだ」という。
「若年層を中心にメディア利用の多様化が進んでいるが、日本では地上波放送の維持が議論の中心となっており、ネット配信への移行に対応する制度設計が十分に進んでいない面がある」と奥氏。「もはやIP(ネット)、RF(電波)という括りで議論をしている場合ではない」とし、「日本もイギリスのように柔軟な政策対応が求められる」とコメントし本セッションは終了した。
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