左から)パネリスト:根岸豊明氏、和氣靖氏、中村耕治氏 モデレーター:塚本幹夫氏
ローカル局元トップが“次世代のテレビマン”に託す未来のカタチ【Inter BEE 2024レポート】
編集部 2024/12/18 08:00
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が主催するイベント「Inter BEE 2024」が、2024年11月13〜15日に開催。今年も、幕張メッセとオンラインのハイブリッド形式で行われた。
本記事では、放送と通信が一体化し、新たな進化を遂げる現在、新規の取り組みや更なる課題を議論する「INTER BEE BORDERLESS」企画セッションより、「ローカル局元トップが次世代に託す放送局の未来像」の模様をレポートする。
ローカル局で社長・会長を務めた3人のパネリストと放送局の未来を議論する同セッション。イベントでは、相談役もしくは元相談役だからこそ語れる本音や、課題を抱えたローカル局への思いはもちろん、テレビ業界の未来を担う後輩たちへのメッセージも贈られた。
パネリストは、九州朝日放送株式会社 取締役相談役・和氣靖氏、株式会社南日本放送 相談役・中村耕治氏、札幌テレビ放送株式会社 元相談役・根岸豊明氏。モデレーターは、株式会社ワイズ・メディア取締役メディアストラテジストの塚本幹夫氏が務めた。
■元ローカル局トップが紡いできた地域との関わり
まずは、各局で経営のトップにいた3人に、代表取締役時代にどんなことに注力してきたのか、質問が投げかけられた。
2006年、南日本放送の社長に就任する前後から、「地域の人口減少」と「(インターネット普及による)流通としてのローカル局の媒体価値の低下」といった危機感を抱いていたという中村氏。そこで、ケーブルテレビ、コミュニティFM、タウン誌など、さまざまな地域メディアとタッグを組んで、番組制作や情報交換を行うだけでなく、他県の系列局とも手を取り合い番組制作を実施してきたという。「会社がひとつになって、いかに地域と一体になれるのか」を再編の軸として、地域とのつながりに傾注したと明かした。
一方、和氣氏は「地域の皆さんから『KBC(九州朝日放送)は残ってもらわないと困るメディアである』と思っていただくためにはどうすればいいか。それが生き残りの道であると認識していました」と当時を振り返る。KBCでは、地域と深い関わりを持つ他県の「チャレンジ」を自分たちに取り入れつつ、カスタマイズ。そのなかで、一部反対意見があったものの「すべて回らないと意味がない」と、福岡県の市町村すべてと防災協定を締結したという。「『放送局』という枠組みを超える存在になることが、地域の皆さんから『なくてはならない存在』と認識されるものになる。それが生き残りの早道であると考えていました」と回顧した。
日本テレビ(キー局)から札幌テレビの代表取締役に就任した根岸氏。彼がボスとしてロールモデルにしていたのは、元総理大臣の田中角栄さんだったという。当時、社員約200人のことを「もっと知ろう」と、それぞれのキャリアはもちろん、働く上でどんなことを考えているのか……毎日のように資料を読み漁り、アンケートも募ってそのアイデアを事業に生かしたこともあった。また、日テレではネットワーク関連に携わっていたことから、他の系列とも連携を取り、札幌テレビ発でネットワークの活性化に注力したと述べた。
■「未来戦略のプラットフォーム」、「公共圏を一緒に作り上げる媒介役」テレビの役割とは?
ローカル局のトップとして、様々な功績を残してきた3人だが、「これからのテレビの使命と役割」についてはどう感じているのか。モデレーターの塚本氏は投げかけた。
「放送の使命や役割は変わらないと思います」、「伝統的なマスメディア・組織として、人、物、金を使って、ちゃんと裏を取って正確な情報を出すスタンスでやっている『テレビの立場』は普遍です」と語るのは根岸氏。先日の選挙特番では、もうひとつの情報空間であるネットと向き合い、国民の広場となっているSNSの声を拾って「意見の見える化」に取り組んでいた、と紹介しつつ、こう述べた。
「(ネットのなかで)隠れて見えない意見を(選挙特番で)吸い上げていましたが、そういう努力をしているかぎり、テレビの役割は変わらないと思います」(根岸氏)
続いて和氣氏は「民放特有の役割や使命があるというよりも、『メディアの担い手』のひとつとして、ユーザーに情報をお伝えし、ユーザーと共に公共圏を作り上げる媒介役を担うのが放送だと思うんです。我々や先輩たちもそうでしたが、これからの若い後輩たちも、媒介役としてのプライドを持って取り組んでくれると思います」とコメント。また、以下のように思いを語った。
「今後、民間放送が従来のようなプレゼンスを持って、これまでと同じようにやっていけると楽観はしておりません。ただ、民間放送、とりわけローカル局の存在意義はあるし、その意義を認めていただくためにも、特に若い世代の皆さんに精進していただきたい。その課題に取り組むべく、『仕組み』を整えたのが我々世代であると認識しております」(和氣氏)
一方、中村氏は「使命・役割というよりは、当たり前のことをやるのが経営ではないかと思います。大袈裟に思わなくていい。もともと公共なのですから」と語る。そのなかで「我々、地域メディアはまだまだ放送の力を出し切っていない」と課題を提示。
「ローカル局の立場としては、地域おこしや地域再生を(地元民と)共に行わなければならないと思っております。そのなかで、地域再生のプロセスに関わってくる『地域メディアとしてのジャーナリズム力』がまだ出しきれていないですし、『放送の力』を使う余地もまだある。公共の電波だからこそ、皆さんと共存できる部分があるのではないでしょうか」(中村氏)
また、「地域の未来戦略のプラットフォームになっていく道」を探っていくなかでは、公共性が柱になっていくと中村氏。地域メディアは「公共性を追求することが経営基盤の強化になる」と確信しているのと同時に、公共性に立って考える意識がなくなったときに、放送が弱体化していくだろう、と述べた。
■進歩の波を恐れずに、地域と共に未来を作っていく…次世代へ渡したいバトン
最後に、ローカル局の元トップとして、次世代に何を託すのか。それぞれメッセージが贈られた。
「キー局にお勤めの方とは違うし、そういう意味では放送業界を一括りにして語ることはできないと思いますが、我々(ローカル局)は、地域で生きているメディアですので、地域と共に未来を作っていかなければなりません。その大前提として、これまで活かしきれなかったリソースを活かし、地域に拠って立って、地域と共に歩む姿勢を見せる。そして『地域を愛すること』、『地域で生きていく覚悟』が次の世代に求められることだと思っています。『ローカル局の次世代』にはそれを望みたいし、託したいです」(和氣氏)
「東日本の震災やコロナ禍もあって、若い世代のなかで、地方の暮らし、ローカルな暮らしの豊かさが広がってきています(求められています)。じつは、ここにひとつの希望を見ているわけです。私は、暮らしに豊かさがあることが、次の時代の価値であり、地方の希望だと考えています。地域に希望がないことには、ローカル局の希望はないので、その希望をどんどん引き出し、一緒に希望を作っていく……。これは『なかなかやりがいのある仕事じゃないですか?』と皆さんにお伝えしたいですね」(中村氏)
「特に若いテレビマンには、(巷で言われているような)『オワコン』や『テレビ離れが進んでいる』などの言葉に惑わされず、『テレビは終わらない』という矜持を持って進んでいただきたいです。また、これから来る進歩の波を恐れず、怯えず、抱え込むことが重要だと思いますし、テレビ企業としても『変化があっても変化を恐れない体質』をみんなで作りあげてほしいですね。進化するテレビにみんなで立ち向かい、頑張ってほしいです」(根岸氏)と結んだ。