TBSテレビ 龍宝正峰 社長
TBSテレビ龍宝社長が描く、北米・韓国拠点の新グローバル戦略【TIFFCOMイベントレポート/TBSテレビ】
編集部 2024/11/21 08:00
「我々がこれから目指すテレビはタイムレスバリュー。時間軸や国境を超えてコンテンツを大きなビジネスに拡大させていく」と、TBSテレビ龍宝正峰社長が語る。実現の鍵を握る1つがグローバル戦略である。国内唯一の国際ビジネス・コンテンツマーケット「TIFFCOM」(2024年10月30日(水)~11月1日(金)/東京都立産業貿易センター浜松町館)でTBSホールディングスが11月1日に主催したセミナーイベント「メディアグループからグローバルコンテンツカンパニーへ~グローバルビジネス元年から始めるTBSの世界戦略~」をレポートする。
■投資額1600億円、プロフェッショナル人材300人採用へ
TBSホールディングス主催のTIFFCOMセミナーはTBSテレビ龍宝社長のオープニングスピーチから始まった。グローバル戦略に焦点を当て概要を説明し、TBSホールディングスが推し進める「デジタル分野」「海外市場」「エクスペリエンス」の3分野を最重点領域とする拡張戦略「EDGE=Expand Digital Global Experience」の中で重視しているのが「新しいオリジナルIP開発」という。
「クリエイティブ力は我々がこれまで最も得意としていた部分だが、それをさらに強化し、オリジナルIPを開発していく。時間軸や国境を越えて大きなビジネスに拡大することを宣言する。我々がこれから目指すテレビは“タイムレスバリュー”だ。コンテンツを長期的に広げていく」と、龍宝社長は力強く語る。
さらに中期経営計画(2024―2026)では成長戦略投資として、グローバルに通用するオリジナルIP開発などを含めた約1600億円の投資額を確保している。この投資規模について龍宝社長は「2024年をグローバルビジネス元年と捉えてスタートしたところ。想定よりも多くの金額を投資に使い始めているため、1600億円にとどまらず、オリジナルIPの拡張に費やしていくつもりだ」と説明する。
またグローバル分野に長けたプロフェッショナル人材の獲得にも力を入れていくという。「新しい力と旧来のTBSの伝統の力をうまく組み合わせ、最強のチームとして頑張っていきたいと」と龍宝社長。EDGE戦略の中で2026年までに300人規模のキャリア採用を計画し、既に100名近くの人数を受け入れていることを明らかにした。
具体的な施策には、2023年までの第1ステップの段階で立ち上げた世界水準の制作体制を有する新会社THE SEVENの取り組みもある。Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』を代表作に持ち、来年以降も新作の発表を予定している。
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■グローバル事業売上高550億円を目指す
北米と韓国を新たな拠点としたグローバル戦略も動き出している。TBSホールディングス執行役員TBSグループグローバルビジネス統括の横井仁氏がその概要などを説明し、グローバル事業の収益計画も明かした。グローバル事業の売上高は2026年度時点でグループ全収益の5%にあたる225億円、 2030年度には同10%にあたる売上高550億円を見込む。
新拠点の北米における事業を担うTBS Internationalバイスプレジデントの瀬川郷守氏と、TBSグループが買収したBellon Entertainment社のプレジデントであるグレゴリー・ベロン氏のトークセッションも行われた。
長年にわたり「SASUKE」の海外展開を協力してきたベロン氏は「TBSの未来を共有してくれることに感謝している。今やライセンス販売実績165の国と地域、フォーマット販売実績25の国と地域に広がる『SASUKE』だが、その旅路は簡単なものではなかった。そして大きな学びもあった。型破りに日本のオリジナル版を30分番組としてライセンス販売した戦略が成功した。番組そのもののコンセプトの強さと市場ニーズに合わせたことが功を奏した」と、これまでの「SASUKE」のサクセスストーリーを語った。
海外では「ニンジャ・ウォリアー」の番組名で親しまれる「SASUKE」のIPを最大限に活かした新たな展開も始まっている。「ニンジャ・ウォリアー」ブランドのアドベンチャーパーク施設がイギリスで立ち上がって以降、世界19か所に拡大中という。さらに、この秋からは広告付き無料ストリーミングサービスのFAST(Free Ad-supported Streaming TV)で「ニンジャ・ウォリアー」プログラムが海外で始まった。FASTチャンネル最大手のLGチャンネルおよびSamsung TV Plusで展開されている。
TBS初のハリウッドプロジェクトも始動した。瀬川氏は「アメリカ現地でエンタメビジネスの眼差し方を肌で感じているところ」と切り出し、具体的にはハリウッドのプロデューサーとTBSのIPを発展させるため、Spring Hillカンパニーとバラエティ番組の共同開発を進めているという。
■韓国ビジネスも加速、新戦略の3つの柱
今年6月にソウル・弘大に拠点を構えた韓国ビジネスも加速させていく。登壇したTBSテレビグローバル営業開発部長兼TBS KOREA代表理事の深井純氏は「韓国におけるビジネス新戦略は主に3つの柱がある。1つはセールスエージェンシーとしてドラマの番販とリメイク事業の加速、2つ目は韓国企業とIP開発体制の構築、3つ目はK-POPイベントなど韓国コンテンツに50億円規模の投資を計画する」と説明する。
こうした戦略の中でNAVER WEBTOONらと合弁で設立した「スタジオ・トゥーン」からは2タイトルをリリースした。またパートナーシップ協定を結ぶ韓国CJ ENMとは両社のクリエイター40人以上が参加するワークショッププログラムを実施。交流を図るなかでドラマの企画開発を進めているという。
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新たなビジネスパートナーとバラエティ番組フォーマットの共同開発にも取り組み始めた。今年8月に合意した独立系フォーマットエージェンシーSomething Specialのコンテンツ事業を統括するキム・インスン氏が登壇し、「TBSの作品アーカイブはグローバルマーケットでもポテンシャルの高いものが多い。互いの得意な部分を尊重しながら、恋愛リアリティショーなどを想定した企画開発を進めさせてもらっている」と話し、信頼関係を築いている様子だ。
TBSグローバル新戦略において世界のエンターテイメント市場を牽引する最も重要な地域である北米と韓国に新たな拠点を構えたことは大きな意味を持つだろう。また海外パートナーとのオリジナルIP共同開発に目を向けた点も今どきの正攻法だ。国際コンテンツビジネスのトレンドを掴みながら、ポスト「SASUKE」に向けてアクセルを踏み始めている。