生成AI技術でコスト削減&リソース不足を解消!ローカル局の課題解決を支援~ストリーツ「apnea」担当者インタビュー~
編集部
左から)ストリーツ株式会社 田島将太氏、渡邉真洋氏、矢野修至氏
情報環境の発達により、ローカルメディアの情報発信経路は爆発的に増えた。しかしその一方で、番組やプラットフォームごとに発生する編集、制作コストも大きく増大。現場の負担はますます大きくなっている。そんな課題を生成AI技術によって解決する新サービス「apnea」が誕生。全国各地のローカル局を中心に導入が進んでいる。
今回は、ストリーツ株式会社 代表取締役CEO 田島将太氏、同 取締役COO 渡邉真洋氏、同 事業開発担当VP 矢野修至氏の3名にインタビュー。開発の背景にあるローカル局の課題に触れながら、apneaによってもたらされる「解決」の形について伺う。
■プロフィール
田島将太氏
ストリーツ株式会社 代表取締役CEO。2016年に東京大学卒業後、スマートニュース株式会社に入社し、メディア事業開発を担当。 2019年に独立し、コンサルティングチームapneaを率いて、多数のWebメディアの成長支援を行う。2021年にヘイ株式会社に入社し、データアナリストとして分析業務を担当。2022年にストリーツ株式会社を共同創業し、地域の情報流通の課題解決を目指す。
渡邉真洋氏
ストリーツ株式会社 取締役COO。ヤフー株式会社にて、データアナリストとしてメディア、コマース領域の定量・定性分析やリサーチを担当。2018年に独立後、株式会社datamanを創業し、クリエイティブファームTHE GUILDにも参画。データをもとに、メディア、エンタメ、スポーツなど様々な事業の課題解決と成長戦略策定を行う。
矢野修至氏
ストリーツ株式会社 事業開発担当VP。1987年に京都大学卒業後、株式会社フジテレビジョンに入社。報道海外特派員として911同時テロ、アフガン・イラク戦争、スマトラ沖地震、北朝鮮などを取材。2016年より報道デジタル戦略責任者として「FNNプライムオンライン」を立ち上げ、収益化を実現。2018年よりDX改革責任者としてライブ番組制作インフラを統合し、大幅なコストカットを実現。2022年4月に独立し、ストリーツに参加。
■「増大するニーズにリソースが追いつかない」ローカル局が抱える課題を解決する
──ローカル局はいま、報道やリソース面でどのような課題に直面しているのでしょうか。ストリーツを立ち上げられる中で感じられたことをお聞かせください。
田島氏:生成AIブームとなる以前からローカル情報の重要性については注目していましたが、「これだけ日本にはニュースがあふれているのに、ローカル情報がどうして少ないのか」と常々感じていました。その背景の一つが、ローカル局におけるリソース不足の問題です。
放送そのものについては、各局ともに数十年の積み重ねがある領域です。しかし、情報をWEBに出すとなると、精通した担当者が社内に1人しかいない、ということも珍しくありません。各局さんからは、「新卒社員を採用しても、すぐに辞めてしまう」という声も多く聞かれます。
いまの時代、デジタルで新しいことにチャレンジしていかなければ、なかなか人は定着しない。しかし、それを成すためにはリソースが足りない。取り組みを進めれば進めるほど、スタッフに負担がかかり、ワークライフバランスが悪化するという負のスパイラルが起きているように感じました。
──増大する情報へのニーズにマンパワーが追いついていない、ということなのですね。
田島氏:オックスフォード大学にあるロイタージャーナリズム研究所の調査によると、「ニュースが多すぎて辟易している」という回答が世界で39%あったのに対し、日本では21%に留まるなど、ニーズの高さが浮き彫りとなりました。
最近はキー局のWEBニュースメディアが整備され、ローカル局発の全国ニュースも多く見られるようになりました。しかし、どうしても全国向けとなると競争が激しくなり、よほど大きなトピックでない限り注目が集まりにくいのも事実です。
これからはローカル向けにローカル情報をたくさん作っていくエコシステムが必要なのではないかと感じたことも、開発の動機のひとつです。ローカルニュースは全国ニュースと比較して読者が少ない分、費用対効果が低くなりがちでしたが、apneaを活用することによって人的コストを大幅に抑え、十分な経済的合理性を確保することが可能となります。
■プロが監修した「レシピ」で素材からワンタッチでコンテンツ制作、1つのソースから「書き分け」も可能
──apneaの具体的な利用方法についてお聞かせください。
渡邉氏:apneaでは、取材素材をアップロードし、次にプロが監修したプロンプト(指示文)が組み込まれた「レシピ」を選ぶことでコンテンツやドキュメント制作をを簡単に行うことができます。たとえば「専門家へのインタビューから解説記事を作る」というレシピを選択すると、取材音声を文字起こししたうえで、その内容を自動編集し、要点を押さえた記事を一発作成します。
1時間程度のインタビューであれば、所要時間は文字起こしに10〜20分程度、文章化に3分程度です。もちろん、AIが処理している間は人間はフリーになるので、実質人間が関わる時間は1分程度です。これによって浮いた時間は、さらに他の取材やタスクに割くことができ、より充実した情報発信が可能となります。
田島氏:取材では、特に重点を置きたいポイントや表現といったこだわりも生まれると思います。apneaではこうしたニーズにも対応し、「この言葉は必ず活かして」「この固有名詞はわかりやすい表現にして」「この言葉は強く聞こえるので穏やかな表現にして」といった“こだわり指示”を添えられるほか、補足情報をアップロードすることによって、取材者のクリエイティビティをコンテンツに反映させることができるようになっています。
──方言など地域特有の文脈や、媒体、番組ごとのコンテキストの違いにも対応できますか?
田島氏:「ここの表現は方言としてそのまま解釈して」など、オリジナルのレシピを定義することによって、そのような対応も可能です。
番組ごとにレシピを定義すれば、それぞれのコンテキストに応じたコンテンツ制作も可能です。たとえば同じ取材ソースを元に、「この記事では報道用に流れを重視する」「この記事では会話中、一番インパクトのあったエピソードを抜き出す」といった書き分けも一発で行うことができます。
──番組や媒体ごとに表現を調整することも可能なのですね。
田島氏:こうした技術はベテランの記者やディレクターの属人性によるところが大きく、マニュアル化しにくい部分でしたが、apnea上で「レシピ化」することによって、作業者に関係なく、メディアとしての統一感やクオリティが担保できるようになります。
■大手メディアの知見を取り込み「読まれる記事」にチューニング、情報の正確性も担保
──目に止まるための見出し作りなど、WEBやSNSでは独特のノウハウが多く必要とされますが、apneaではどのように対応しているのでしょうか。
田島氏:apneaでは、私たちストリーツが行ってきたメディアコンサルティングの知見を注ぎ込み、よく読まれるためのタイトルや文章構成のノウハウをプロンプト(処理コマンド)化しています。
たとえばインタビュー記事の場合、ただの書き起こしではなく、WEBで読まれやすいフォーマットやタイトルで配信することができます。利用いただいている放送局さんからは、「apneaでの記事作成に切り替えて以降、『Yahoo!ニュース』での閲覧率がアップした」という声をいただいています。
──いわゆる「AIっぽい」画一的な文体になってしまう恐れはありませんか?
田島氏:apneaでは同じチームで過去に書いた記事を自動的にピックアップし、文体を似せて作成する機能を盛っています。これによって書き手の「らしさ」を担保し、人間と見分けがつかないレベルのコンテンツを作ることができます。
──生成AIでは、架空の情報や誤った解釈が挿入されてしまう「ハルシネーション(捏造)」問題も取り沙汰されています。メディア向けの生成AIとして、情報の正確性はどのように担保しているのでしょうか。
田島氏:一般的な生成AIでは情報ソースとしてWEBから取得した情報を利用することも多いですが、apneaではユーザーがアップロードした素材を加工して記事を作っていく仕様となっているため、正確性が担保されない外部の情報が入り込むリスクは非常に小さくなっています。
文章を作成する際も同じように過去記事を参照し、「この記事をお手本にするように」と指示する「フューショット学習」と呼ばれる工程を行います。これによって、情報の一貫性を担保しつつ、期待に沿った内容の出力が得られるようになっています。
■SNS告知、CM考査やリーガルチェックも……記事生成にとどまらない活用シーン
──すでに全国各地の放送局で導入されているapneaですが、それぞれの現場ではどのように活用されているのでしょうか。具体的な事例をお聞かせいただければ幸いです。
渡邉氏:長野放送様では、情報番組のコーナーを録画した音声データをapneaにアップロードし、文字起こしからオウンドメディアへの記事作成をワンタッチで行われていると伺いました。apneaによって、これまで人力で3時間ほどかかっていた一連の作業が、4分の1ほどに短縮できているとのことです。
また同局では、報道部における残業時間の削減が大きなテーマでした。特に文字起こしに人がかなりの時間を費やしており、夜のニュースが終わった後に文字起こしのためだけに残業することがすごく多かったとのこと。
apneaを導入してから、文字起こしのための残業時間が削減され、労働環境の改善に繋がっているそうです。放送業界の労働組合の地区会議でもapneaがトピックとしてとりあげられたという話も聞きました。
また、愛媛県をエリアとするテレビ愛媛様では、SNSでの告知文やYouTubeの概要欄テキスト作成にも活用されています。SNS上で目を引く文章を作るためには、顔文字やハッシュタグなど、独特の文法に対するノウハウが必要でしたが、apneaならば効果的な文章を一発で生成できると大変好評です。記事制作以外にも、CM考査における回答集の作成や、契約書類のリーガルチェックなどにも活用されているということです。
テレビ愛媛、AI支援ニュース編集アシスタント「apnea」を導入し“やり慣れた方法”を効率化
──リーガルチェックにも活用できるのですね!
渡邉氏:リーガルチェックの用途においても、apneaが利用している大規模言語モデルは司法試験をクリアできるレベルの実力を持っています。もちろん法務の専門家の方による人的なチェックは必要ですが、提出前に不安な箇所を重点的にチェックするなど、担当者レベルでの柔軟な活用が可能です。
■情報の高付加価値化とワーク・ライフ・バランスを両立、AIで現場を「人間らしく」
──apneaによって、放送の現場でもますます生成AIの活用が浸透しそうですね。今後、どのような効果、変革が期待できそうでしょうか。
矢野氏:生成AIに限らず、放送業界における新技術のテクノロジーの採用はどこか二の足を踏むところが少なくなかったように思いますが、生成AIのすぐれた特長を知り抜いたうえで、メディアの共存をはかっていくことも、また使命なのではないかと考えています。
いま私が期待するのは、生放送という形態を活かした、リアルタイムな付加価値の付与です。たとえば記者会見を生中継した際、その内容をAIで分析することで「○○○というキーワードが何回現れた」というように、情報をより深く理解するための背景を与えることも可能になるでしょう。今後apneaでもこうしたシーンに対応し、スピード感をもってコンテンツをリッチにするお手伝いができるようできればと思っています。
田島氏:先にも述べましたが、apneaの導入によって情報発信における効率化、省力化の流れが進んでほしいと考えています。
導入をご提案する際、「生産性が4倍になったら、仕事量も4倍になるのでは?」という声をいただくこともあるのですが、本質は、空いた時間を他のリソースへ投入できるようになるというところにあります。これまで以上に取材へ時間をかけることも可能ですし、新しい報道の形を模索することも可能となるでしょう。今後、apenaによって空いたリソースを何に使うかが、今後の放送局の経営において重要な判断となっていくのではないでしょうか。
矢野氏:これまでの放送局は、制作や技術・美術など、ある意味でデバイスやアプリケーションによって組織分けがなされてきましたが、apenaを活用すれば、これまで取材や制作に直接関わることのなかった方々が従来の組織を超えてコンテンツ作りに参加する未来も夢ではありません。部署も縦割りにする必要がなくなり、今後の組織編成にも大きな変革をもたらすのではないかと考えています。
──最後に、今後に向けた展望をお聞かせください。
田島氏:今後は、多言語版の記事生成にも活用いただきたいと考えています。
日本の人口が減っていく中で読者を増やすには多言語で届ける必要がありますが、さまざまな地域へ行くと、まだまだ日本語以外の情報が少ないと感じます。各地域の放送局様が多言語の情報を発信できるようになれば、リーチも広がりますし、土地の魅力をもっと多くの方々に知っていただけるのではないでしょうか。
異なる言語、プラットフォームに向けたコンテンツを作るためには、これまで非常に大きなコストが必要でしたが、apenaを活用いただくことによって、1つのソースからリッチなコンテンツ展開を一斉に行うことができます。現在はテキスト主体のサービスですが、ゆくゆくは動画などのマルチメディアコンテンツにも対応したいと思います。
矢野氏:スピード感を持った取材の形がよりオープンになれば、放送においてもより豊かな情報を提供でき、短時間でより多くのコンテンツを作ることが可能になります。すでに放送済みのコンテンツをそのまま「コピペ」で配信するのではなく、apneaを使ってデジタルに最適化しつつ、付加価値をつけてコンテンツをお届けいただけたらと思います。
渡邉氏:これからの時代、リソースの再配分は重要なキーワードになっていくと思います。コンテンツの質を高める、数を増やすということは大前提として、その上で余ったリソースをどのように活用していくかを考えることが、現場、経営ともに大事になっていくのではないでしょうか。
apneaによる効率的なコンテンツ発信のワークフローが当たり前になるほど、取材や編集方針の精査、コンテンツそのものに対するレビューなど、人間による入口、出口の洗練化が焦点になっていくと思います。
自分のリソース配分をどう変えていくかという問題は現場の方にとっても大事となり、大枠の編集方針はますます重要な要素となっていくでしょう。apneaによって、今後現場の記者さん一人ひとりがデスクとしての役割を帯びていくようになっていくと考えています。
田島氏:コンテンツを作るためのワークフローの持続可能性をどう担保するか、ローカルメディアにとってはとても大事な局面にさしかかっていると思います。
apneaを導入いただいた放送局様からは、「これまで常態化していた土日出勤をなくすことができた」という声もいただいています。さらに副次的なものとして、これまで属人性の高かった取材や業務ノウハウがしっかり明文化され、残っていくというメリットも見出されています。
つまるところ、AIの活用は人間らしい生活を助けることにもつながるのです。これからのローカルメディアにおける変革を実際の行動へと移していくにあたって、apneaがパワフルな相棒としてお役に立てることを願っております。
――今回の取材を経て――
情報の編集、整形にかかっていたコストを削減するとともに、人間にしかできない価値づくりの部分に大きな時間を割ける仕組み──。apneaがこれからのローカルメディアに果たす役割は、非常に大きなものとなりそうだ。
AI支援ニュース編集アシスタント「apnea(アプネア)」
https://streets.jp/service/apnea
apneaは基本料金50,000円から利用可能、利用量に応じて柔軟にアップグレードできるリーズナブルな料金プランを提供している。30日間無料のトライアルも用意されている。作成したいコンテンツに応じてレシピをカスタマイズするサービスなど、豊富なサポートも用意されており、トライアル中も利用できる。