左から)株式会社NeoRealX・安藤聖泰氏、株式会社TBSテレビ・永山知実氏、関西テレビ放送株式会社・山本道雄氏
テレビ業界がXRに取り組むべき理由とは? 〜Interop Tokyo 2024 レポート
編集部 2024/7/18 08:00
2024年6月12日から14日にかけて、千葉・幕張メッセでインターネットテクノロジーのイベント『Interop Tokyo 2024』が開催。14日にはInternet x Media Summit特別企画セッション「テレビ業界が次にXRに取り組むべき理由はコレなんです」が行われた。
このセッションでは、テレビ局目線でのXRコンテンツ創造を掲げる株式会社NeoRealX代表取締役・安藤聖泰氏による司会のもと、株式会社TBSテレビ メディアテクノロジー局 未来技術設計部 テクニカルエバンジェリストの永山知実氏、関西テレビ放送株式会社(以下カンテレ) 経営戦略局 事業戦略部「カンテレXR」事業 プロジェクトリーダー・プロデューサーの山本道雄氏が登壇。テレビ局がXR領域に取り組む背景と強みについて語った。
■「放送の枠を超え、コンテンツを無限に拡げる」TBSのXR施策
グループ全体のビジョン“VISION2030”にて、「放送の枠を超え、コンテンツを無限に拡げよう あらゆる「最高の“時”」へ」という言葉を掲げるTBS。デジタル、海外、エクスペリエンスの3領域を最重点とする「EDGE」戦略を掲げるほか、赤坂の街全体を舞台にした「赤坂エンタテインメント・シティ計画」などリアル事業にも力を入れている。
永山氏は、TBSがXRに取り組む理由として「コア・コンピタンスである制作力の強化(グローバル競争力強化)」「エクスペリエンスの質向上」「デジタルプラットフォームでのコンテンツ提供」の3点を挙げ、番組内でのXR演出事例を中心に紹介した。
毎年年末の大型音楽特番『輝く!日本レコード大賞』の事例では、イギリスのロックバンド・Coldplayの楽曲「Viva la Vida」にあわせて、会場である新国立劇場の舞台映像にリアルタイムでCG映像を合成。生き生きとしたXR表現で魅せた。
また、2023年に放送された金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』の撮影現場では、スタジオの電車セットの背後に大型LEDを設置し、背景を表示するバーチャルプロダクションを実施。LEDの映像はカメラの動きに連動して変化する仕組みとなっており、屋外で撮影しているかのようなリアルな表現を実現した。
さらに永山氏は、XRを活用してTBSの人気番組コンテンツをリアルな体験コンテンツ化した事例を紹介。今年3月にアメリカ・テキサス州で開催されたインタラクティブ見本市「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)」では、「Apple Vision Pro」を活用した「SASUKE」のバーチャル体験ができるブースを展開した。
【関連記事】TBSの部署横断チーム、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)出展の狙いと手応え
また同社では、デジタルプラットフォームでのコンテンツ提供の取り組みとして、メタバース音楽フェス「META=KNOT(メタ・ノット)」を開催。かつて営業していたライブハウス「赤坂BLITZ」をソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」に再現し、バーチャルアーティストがライブを繰り広げた。これをもとに、VRChat上で復活した「バーチャル赤坂BLITZ」をレンタルする新事業にも取り組んでいくという。
■リアルイベントでの体験拡張にXRを活用するカンテレ
続いてカンテレの山本氏がプレゼン。同社ではXR専門のワーキンググループ「カンテレXR Lab」を設け、カンテレの培ったプロデュース力とXR技術を組み合わせたコンテンツを「カンテレXR」ブランドで展開している。「全年齢が楽しめる仕組みを」との考えから、使用に年齢制限のあるVRゴーグルではなく、ドームシアターなどを活用しているという。
同社が手掛ける、絶滅生物をテーマにしたイベント「わけあって絶滅しました。展」では、地球温暖化によって絶滅の危機に瀕するホッキョクグマの目線を体験するシアター型VRゲームを展開。東京・銀座三越で開催された、愛媛県・道後温泉のPRイベントでは、ドームシアターを使い、道後温泉に浸かった気分になれる入浴疑似体験ブースを展開した。
また、カンテレが本社を構える「カンテレ扇町スクエア」では、リアル・バーチャル複合型のシューティングテーム「イマーシブバドル」を展開。スマートフォンアプリで謎解きを行ったのち、カンテレ美術スタッフ陣によるリアルなバトルフィールド上で、ARグラスによる映像合成を用いたバトル体験が楽しめるという。
■XRデバイス普及の鍵は、コミュニケーションの“違和感”克服とプラットフォーム整備「テレビ局としてどんなことができるか」
後半は、登壇者全員でのパネルディスカッションが行われた。
テレビ、スマホをはじめとするデバイスの進化に関して、永山氏は「デバイスの進化によって私たちにもたらす情報量が増える」とメリットを語り、「視聴者は新しい体験を楽しむことができるし、クリエイターもやりがいがある」と期待をふくらませる。
これに対して山本氏は、「コミュニケーションデバイスとしての側面に注目している」とコメント。「レゾリューション(解像度)とレスポンスの2点が改善すれば、よりコンテンツの自然感が増し、リアル世界における『実在度』が増す」と語る。これに対して安藤氏も「結局は違和感をいかに乗り越えるか、という点だと思う」と同意。「IOC(設計段階でのロジック検証)や回線整備もセットで考えていくことが必要だろう」と語る。
「テレビ局としてデバイスはどう進化すると思うか?」というテーマに対しては、「コンテンツを視聴するデバイスの最終形態は、グラスやコンタクトレンズなどの形に落ち着くのではないか」という永山氏に対して、山本氏が「XRゴーグルが登場したとき、スマートフォンとは違う次元を感じた」とコメント。「新たなデバイスに最適なコンテンツを作らなければいけない」と語る。
「日本のベンチャーでは、スマートフォンが登場した際にガラケーのゲームをそのまま移植し、失敗してしまった経緯がある。いかにデバイスを理解しながらコンテンツを作っていくかというのは、非常に難しい課題であると思う」(山本氏)
「デバイスの話はもちろんだが、今後の爆発的な普及においては、そこにどういったプラットフォームがあり、どういったコンテンツが提供されるかというところが大きな鍵となると思う。テレビ局として自分たちもしっかりそこへ取り組んでいきたい」(永山氏)
■若者へのタッチポイント、制作力を画面の外へ…… テレビ局がXRに取り組む理由
パネルディスカッション後半の話題は、XRビジネスが提供する体験価値の進化について。永山氏は「今後は没入感のあるXRデバイスでの体験が、自分の経験になっていく」とし、「旅行体験やトレーニングなど、文字通り体で感じる方向に一層進化していくのではないか」と語る。
これに対して山本氏は、LEDやサイネージなどを通じた「街のメディア化」を挙げ、「リッチな映像が人目を引き、XRによって街が面白くなると確信している」とコメント。「今後ハードが安価になっていけば、街中の博物館や美術館、動物園などあらゆる場所に映像が浸透していくことになる」と言い、「内装などリアルな空間デザインも含め、テレビ局の役割は広告以外の領域にも大きく広がっていくのではないか」と期待を述べる。
「テレビ局ならば、これまでとはまた違った角度でXR業界にコンテンツを供給できるのではないか。たとえば、歴史や地理といった教養番組のコンテンツは、地方創生などに活かせるはず。『多彩なコンテンツで人々に豊かな生活を』というカンテレの経営理念を、XRの分野にも発揮していきたい」(山本氏)
これに対し、「XRビジネスという観点で言えば、番組制作現場での活用や体験のリッチ化という分野において、テレビ局としての需要がしっかりあると感じている」と永山氏。「こうした状況に対して日和見するのではなく、どんどん先行して取り組みを進め、XRの分野においてもTBSを認知していただけるようにしていきたい」と意気込む。
パネルディスカッション最後は、今回のセッションタイトルである「テレビ局がXRに取り組む理由」について議論。永山氏は、XRに取り組む理由に「若者へのリーチ」を挙げ、「Z世代、α世代のみなさんがいま集まる『ロブロックス』や『フォートナイト』などのメタバース空間にTBSがタッチポイントを作っているということが大事」と語る。
「XRを使い、新しい表現で『ときめくとき』をお届けしたい。場所やコンテンツの提供手段が変わっても、我々が取り組んでいくことは同じと考えている」(永山氏)
これに対して「テレビの制作力、プロデュース力をテレビの画面の外へ拡張したい」と山本氏。「グループ会社や協力会社含めて局のなかにいろんなクリエイターが常駐し、フロアを移動するだけでコラボレーションができるという環境を価値として活かし、XR業界へ届けていきたい」と語った。
これを受けて安藤氏は、「まさにXRは、テレビ局としての強みを発揮しやすい分野だと思う」とコメント。「若者と接するなかでXRに対する反応は予想以上に大きい」と語り、「こうしたさまざまな放送局の取り組みについて、今後も紹介する機会を設けていきたい」と結んだ。