株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 統括責任者の奥 律哉氏

10 JUL

オーディエンスインサイトから見る「テレビの今後」〜Interop Tokyo 2024 レポート

編集部 2024/7/10 08:00

2024年6月12日から14日にかけて、千葉・幕張メッセでインターネットテクノロジーのイベント『Interop Tokyo 2024』が開催。12日に行われた株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 統括責任者の奥 律哉氏によるセッション「テレビビジネス最前線(1)オーディエンスインサイトから見たメディアコンテンツビジネスの今後」をレポートする。

本セッションでは日本の広告費の最新トレンドを紹介するとともに、生活者のメディア利用行動の変化を可視化。オーディエンスインサイトを踏まえながら、人口減少時代に突入する日本でのメディアコンテンツビジネスのありかたを論じる。

多くの来場者でにぎわう『Interop Tokyo 2024』

■「『動画広告』かつ『運用型広告』」に“のびしろ”「テレビのポテンシャル発揮するとき」

まず奥氏は、電通が今年2月27日に発表した「日本の広告費2023」の内容を振り返って説明。2023年の日本の総広告費は 7兆3167億円となり、前年に続いて過去最高を更新した。

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媒体別の構成比は、マス4媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)の31.7%に対して、インターネット広告が45.5%。OOHやイベントなどのプロモーションメディア広告費は22.8%となった。このうち、TVerなどテレビメディア関連の動画広告費は昨年比で126.6%と成長。奥氏は「すべての広告費はやがてネットへと統合されていくだろう」とし、4マス媒体の広告費について「今後は自媒体の減少分をデジタルで捉えていかなければいけない」と述べる。

インターネット広告媒体費を、「取引手法別構成比」で確認すると、運用型広告87.4%、予約型広告9.9%、成果報酬型広告2.7%となっている。一方、ビデオ(動画)広告全体の売上は6860億円で、昨年比でおよそ116%に増長。「これからのデジタル広告は『動画広告かつ運用型広告』にのびしろがある」と奥氏は示唆する。

ビデオ(動画)広告に絞った取引手法別構成比では運用型広告84.4%、予約型広告15.6%と、こちらも広告費全体とほぼ同じ比率に。また、広告種類構成比ではインストリーム(動画内)広告は55.9%、アウトストリーム(動画連動バナーなど、動画外)広告は44.1%となった。

「ビデオ(動画)広告市場の2024年予測ではインストリーム広告が112.1%、アウトストリーム広告が112.4%と、いずれも高い水準の成長率が見込まれる」と奥氏。動画広告全体の市場も来年度は7697億円までの増長が予想されるなど「いま、動画広告に対するクライアントニーズが高い」とし、「そのうえで、メディアとしてのテレビのポテンシャルをいかに発揮できるかが鍵」と強調する。

■接触率から見る“テレビ離れ”の背景「ビッグスクリーンとしてのテレビは健在」

ビデオリサーチ社MCR/ex調査(関東圏)によると、1日あたりのテレビの自宅内外接触率(週平均)は、2003年の85.4%から2023年には57.2%へと減少した。「コロナ禍では一時的に接触率が上がったテレビだが、コロナ禍が落ち着くとともに下がっている」と奥氏。「やはりテレビが見られなくなってきていることは課題」としつつも、一方で「コネクテッドTVはかなりのボリュームに上がってきている」と、新たな風向きを示す。

自宅内における1日あたりのメディア接触時間(週平均)では、コロナ禍を経てスマートフォン、タブレット、PC経由のネット利用が「コロナ禍の4年間で10年分と感じるほどの成長を達成してしまった」と奥氏。「テレビも悠長に構えている場合ではない」と危機感を募らせつつ、続けてデモグラベースのデータを紹介する。

「デモグラベースでデータを見ていくと、そもそもアナログテレビの時代から若者たちよりも年配者がテレビを見ていた。さらに踏み込んで言うと、年配者ほどコネクテッドTVを見ている」(奥氏)

「いまやテレビ受像機は『リビングのビッグスクリーン』として捉えられており、自宅にいる時間が長く、かつテレビを良く見る年配者ほどコネクテッドTVの接触が高い」と奥氏。「テレビ好きな人ほどコネクテッドTV経由の視聴が多い」と問題提起する。

■「『放送と通信の連携』は古い、『ネットの中にテレビがある』現実としっかり向き合う」

もともとテレビを視聴する傾向が高かった年配層にも「デジタルシフト」が起き、「媒体としてのテレビ」から「スクリーンとしてのテレビ」へと捉え方が変化していることを示唆した奥氏。「いまの時代は動画コンテンツの中にカテゴリとして『テレビ映像』がある状況」と語り、「もはや『放送と通信の連携』などという概念は過去のもの」と喝破する。

「かつて『1世帯平均2台』とされてきたテレビ受像機の普及率は、2023年現在で1世帯あたり1.75台と割り込んだ。『サブテレビ』の役割はタブレットやスマートフォン端末に取って代わられている」(奥氏)

内閣府の消費動向調査によると、2024年時点でテレビの世帯普及率は総世帯ベースで92%。この数字だけを見るとまだまだ高いように見えるが、世帯主年齢別では、29歳以下の世帯では、2010年時点では94.4%あった世帯普及率が、2024年には77.9%と大きくスコアを下げている。

「テレビをよく見る層である世帯主年齢60歳以上の世帯は94.6%と高い水準をキープしているが、裏を返せばここが最後の砦だ」と奥氏。危機感を強くにじませる一方、興味深い点を指摘する。

「たとえば、29歳以下の単身世帯におけるテレビの普及率は71.7%だが、いまやテレビの視聴手段にはネット経由も含まれる。最近は電波の受信機能を持たない『チューナーレステレビ』の普及も進んでいることを踏まえると、そのボリュームはこれ以上となるだろう」(奥氏)

「テレビ離れが取り沙汰されているが、『ネット視聴もふくめてテレビ視聴』だとすれば、その割合を増やせる希望がある」と奥氏。「ネットが上位概念であり、放送はそこに内包されている状態であるという現実としっかり向き合う必要がある」と語る。

「テレビ受像機におけるネット結線率は66%ほど。自宅内におけるネット動画の視聴時間統計を見ると、若年層はスマートフォンで動画を視聴し、年齢層が上がるほどテレビ、すなわちコネクテッドTVで視聴しているという傾向が浮かび上がってくる。こうしたダイナミズムの中、映像情報のウィンドウをどこに設け、どういうコンテンツへ誘導するべきなのか。本気で考える必要がある」(奥氏)

「これまでテレビ番組とCMは『田んぼとあぜ道』の関係のように、ゾーンを分けつつも協調しながら良質なコンテンツを届けてきた」と奥氏。「いまデジタルの分野では、詐欺広告や、クリック率を重視するがゆえ、大きなウィンドウで画面を覆い尽す広告など、画面すべてが『広告の出面』として利用され、混乱を極めている」と現状を語りつつ、「そんな中、テレビに出来ることは何か、しっかりと足元を見つめ直す時期ではないか」と呼びかける。

■人口減少社会で再評価されるテレビのリーチ力「コアターゲットと周辺を同時に取れる」

最後に奥氏はメディア環境を取り巻く課題をまとめて解説。デジタル広告においては運用型広告が大半を占めている点にあらためて触れながら、テレビ広告の持つ構造の課題と今後について言及する。

「『チラシのように電波を使いたい』というニーズは昔からあったが、なかなかそれに応えられない構造があった。こうした現状を改善するべく、デジタルの広告の要素を取り入れてオンライン取引や最短当日発注、放送直前の素材変更に対応する日本テレビの『Ad REACH MAX』のような取組が始まろうとしている。この試みでは同時に、GRP換算であったテレビCMの価値をデジタル同様、インプレッションに置き換えていこうとしている」(奥氏)

さらに奥氏は、昨今のCGM(ユーザー生成コンテンツ)の台頭についても言及。「ユーザーレベルでも生成AIなどを活用してコンテンツを発信できる時代になった」としつつ、「中身を確認せずに『興味関心』だけが情報として出回ることで、ノイズも増大してしまった」といい、「『何が本物の情報か』が問われるいま、テレビメディアの役割をあらためて再確認するべきではないか」と投げかける。

「いまは作り込んだコンテンツよりも『ライブ系コンテンツ』のニーズが拡大しており、『100%の作り込みで2時間後に出るくらいならば、90%の完成度でいますぐ出したほうがよい』という時代へと確実に変化している。コンテンツの内容にこだわるのもいいが、それ以上に出すタイミング、即時性が大事。待っていると、同じペースで出されるフェイクコンテンツに飲み込まれてしまう」(奥氏)

最後に奥氏は、これから日本が迎える人口減少社会について言及。「1億2000万人の人口が8000万人に減少するとされるなか、ターゲティングとセグメントの意味もあらためて考えなければいけない」と語る。

「広告には、文脈を変えてターゲットを広げる価値がある。ピープルドリブンで細かくスポットを当てる手法が、これからの人口減少社会においてこれまでと同じ効果をもたらし続けるかはわからない。そういう意味で考えると、テレビが持つリーチの広さは、『コアとその周辺を同時に取れる』という、非常に魅力的な機能として期待されうる」(奥氏)

「新規顧客の獲得よりはいまいる顧客をロングタイムで惹きつける施策に予算を割く流れになっていた」と奥氏。「しかし、ロイヤルカスタマーであっても、その比率は時間を経るごとに減少が避けられず、広いリーチによって母数を増やす『新規顧客の集客装置』としてのニーズが確実にある」とし、「その中でこれからのテレビが果たせる役割は非常に大きい」と締めくくった。

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