ローカル局社長が語る地域メディアの“未来ビジョン”【InterBEE2023レポート】
編集部 2024/1/26 08:00
一般団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が主催する「Inter BEE 2023」が2023年11月15~17日にかけて開催。昨年に引き続き、幕張メッセ会場とオンライン会場のハイブリッド形式で行われ、幕張メッセ会場には昨年より約5,000名多い31,702名が訪れる盛況となった。
本記事では、放送と通信の融合を前提としたうえで、その“先”にあるビジネスの形をさまざまな切り口で取り上げたセッションプログラム「INTER BEE BORDERLESS」をレポート。その中から、11月16日に行われた『ローカル局社長が語る地域メディアの“未来ビジョン”』の模様をお伝えする。
広告ビジネスを取り巻く環境が厳しさを増す中、自局の強みを活かして地域社会の課題解決やビジネスモデルづくりに取り組むローカル局4社の社長が登壇。それぞれが描く未来へのビジョンが語られた。
パネリストは株式会社東日本放送 代表取締役社長・藤ノ木正哉氏、株式会社CBCテレビ 代表取締役社長・松波啓三氏、山陰中央テレビジョン放送株式会社(さんいん中央テレビ) 代表取締役社長・田部長右衛門氏、南海放送株式会社 代表取締役社長・大西康司氏。モデレーターを日本放送協会 放送文化研究所 メディア研究部 研究主幹・村上圭子氏が務めた。
■トレンドは“共闘”。ポータルサイトの共同運営でコンテンツ収益の最大化を狙う
セッションではまず、登壇各社が自己紹介を兼ねて看板番組を紹介したのち、それぞれの取り組みを紹介。東日本放送、CBCからは、エリアを同じくする放送局同士が連携して展開する動画配信ポータルサイトの事例が挙がる。
東日本放送が運営する「東北総合ポータル topo(トポ)」では、同局と東北地区のテレビ朝日系5局(岩手朝日テレビ・青森朝日放送・秋田朝日放送・山形テレビ・福島放送)が共同で自社制作番組や地域情報を配信。地上波キャッチアップのほか、独自のライブ配信なども実施する。月額550円のSVODを基本としつつ、一部コンテンツを無料配信することで県外ユーザー向けPRも担っており、「実際にユーザーの約3割が東北外から」だという。
CBCテレビが参加する『Locipo(ロキポ)』は、中京地区の民放5局(CBCテレビ・東海テレビ・中京テレビ・メ〜テレ・テレビ愛知)が共同で自社番組や地域情報を配信。基本無料のAVODとして展開する。
「各社が単独でプラットフォームを持つことは体力的にも大きな負担になるが、共同という形でこれを持ち合いつつ、中京エリア発のテレビコンテンツを集約することでどこまでリーチを外に向けられるかを試している」と松波氏。現在は「各局のコンテンツを広告主や配信プラットフォームへ売り込む場としても機能させ、番組コンテンツの収益最大化ツールとしての活用を志向している」と語る。
このほか、CBCではYouTube上に各番組のチャンネルを開設し、オリジナル動画を多数配信。合計18チャンネルで8億回の再生数を叩き出し、登録者も合計100万人に達するなど、好調だ。なかでももっとも登録数が多いチャンネルは、CBC制作のオリジナルドキュメンタリーを配信するチャンネル」だという。
「地上波では視聴率を取るのがなかなか難しいドキュメンタリーだが、YouTubeチャンネル上では27万人が登録しており、地上波で一定の視聴率に相当する視聴者をコンスタントにキープし続けている。閲覧にともなう広告収入も全チャンネル内でトップだ」(松波氏)
さらに中日ドラゴンズの応援情報に特化した「『燃えドラ』チャンネル」では、ドラゴンズOBによる「地上波ではできないコアなトーク」を配信し、ここでも多くの広告収入を獲得。これらを通じて得た収益は「次の展開に向けた投資に活用している」という。
■越境ビジネス、プラットフォームアプリ… ローカル局が放送外事業に見出す商機
一方、さんいん中央テレビ、南海放送は、放送の枠組みを超えたビジネス展開を紹介する。
さんいん中央テレビは中国への越境ビジネスを行う株式会社ACDへ出資し、関連会社化。中国のメッセンジャーアプリ「WeChat」にてインバウンド向けに日本の観光や食、トレンド情報を毎日ライブ配信するチャンネル展「青山246放送局」を展開するほか、大型動画配信プラットフォーム「bilibili(ビリビリ)」上にて、中国で人気の高い日本の特撮・アニメ情報や個人インフルエンサーの発信を支援。マネタイズに成功しているという。
南海放送は、テレビ・ラジオ番組への参加や地域イベントへのアクセス機能を持つ「南海放送アプリ」を開発。全国21の放送局へのライセンス提供による収益のほか、地元自治体や企業とのタイアップの場として活用し、複数のマネタイズにつなげている。「デジタルなコミュニケーションで生活者との接点を作り、それをそのままリアルな場所で展開するための動線づくりに『南海放送アプリ』を使っていただいている」(大西氏)
■ローカル局の本分は“地元経済の活性化”「そのためにテレビ局であることを活かす」
最後は、ローカル局としての“本分”にあたる地域連携に関する話題に。広域放送であり準キー局としての顔を持つCBCに対し、県域放送である他の3社は「地域ハブ」としての強い思いを前面に出す。
「放送事業も放送外事業も渾然一体となって展開していくべき」と持論を掲げた東日本放送では、地域におけるにぎわいの創出を目的とした大規模イベントの企画運営に注力。毎年仙台市中心部・勾当台公園を会場として行われる「仙台クリスマスマーケット」では数十万人規模の来場者を集めるだけでなく、イベントと連動した特別番組の公開放送を実施し、地域内に大規模な交流拠点を作り出している。
南海放送では、放送エリアである愛媛県と県下の20市町が抱える地域課題を解決するシンクタンク「愛媛アライアンス戦略室」を開設。地域における情報や人脈が集約される地元放送局としての強みを活かし、自治体向けプロポーザル(提案企画)の獲得を狙う。「地元との関係を再構築していくことが目下の目的」と大西氏。事業収入における地域事業の割合を「現在の8.3%から10%以上に拡大したい」と語る。
これに対し、さんいん中央テレビの田部氏は「総事業売上45億円、うち地域事業売上が10億円という状況を『総売上100億円、うち地域事業60億円』に持っていきたい」とコメント。「もはや放送は“主業”ではない」と大胆に語る。
「放送収入は落ちていく一方。社員は決して怠けているわけではないのに、営業数字が下がっている」と田部氏。「いま掲げた数字の水準まで押し上げなければ、テレビ局というビジネス自体が立ち行かない」と強い危機感をにじませる。
「ローカル局が根ざす場所である地域そのものがなくなってしまっては元も子もない。街中のシャッター商店街を買い取ってリノベーションする事業にも乗り出した。普段は社長室にほとんどおらず、常に外に出て人と会い、事業の種を作り続けている」(田部氏)
「テレビを軽視しているわけではなく、テレビを残し、活かすためにビジネスへ取り組んでいる」と田部氏。「自分たちの力で地域を再生することで経済が生まれ、情報を外に出せる」とし、「そのためにも、県や市に頼らず全部自分たちでやっていくことが大事」と結んだ。