12 JAN

メディア行動はどう変わる? ~Z世代、動画、SNS、AI…生活者と社会の変化から考える 〜『VR FORUM 2023』レポート

編集部 2024/1/12 08:00

株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のビジネスフォーラム『VR FORUM 2023』が、2023年11月28日(火)にオンラインで開催。今回は「各社と共にメディア業界の変革を目指す Co-transformation」をテーマに掲げ、多様化するメディアや生活者と向き合いながら最前線でビジネスを展開する各界のキーパーソンを迎えてのディスカッションが繰り広げられた。

今回はこの中から、セッション「メディア行動はどう変わる? ~Z世代、動画、SNS、AI…生活者と社会の変化から考える~」の模様をレポートする。

コネクテッドTV(CTV)、動画配信、SNS、生成AIなど、技術やサービスのめざましい発展によってメディア環境が大きく変化し続けるなか、これからの生活者の中心を担う若者世代にフォーカス。生活者研究に携わるゲスト陣の知見を踏まえながら、その行動の実態や背景、展望について議論が行われた。

登壇者は株式会社SHIBUYA109エンタテイメント SHIBUYA109 lab.所長・長田麻衣氏、株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員・天野 彬氏。モデレーターを株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニット リサーチアナリシスグループ ひと研究所 フェロー・渡辺庸人氏が務めた。

■「楽しみの空白」「界隈」「エンゲージから“アテンション” 」生活者を読み解く3つの視座

株式会社ビデオリサーチ 渡辺庸人氏

前半は「生活者研究の視点」というテーマで、登壇者がそれぞれ行っている研究から導く現代の生活者像についてトーク。

映像視聴行動を起点とした生活者研究を行う渡辺氏は「コロナ禍の長期化によって生活者に『楽しみの空白』が生じ、それを埋めるために『楽しい体験をする』『コンテンツを見る』の2軸へ特に時間を費やすようになった」と語る。

「生活者における『リビングの過ごし方』の調査では『コロナ禍前と比べてテレビでネット動画を見ることが増えた』という回答が16%、『家族を気にせずリビングで(自分のスマホで)動画を見る』という回答が13%ほど見られた。テレビで放送を見ながらタブレット・スマートフォンでネット動画を見ることも増えており、テレビのネット結線率拡大とともに生活者の気持ちがより顕著に変化しつつある」(渡辺氏)

株式会社SHIBUYA109エンタテイメント 長田麻衣氏

一方、若者に特化したマーケティング機関として毎月15〜24歳の若者200人を取材、消費行動を分析する長田氏は「生活者のあいだに“界隈消費”が増えている」と指摘。「趣味やカルチャーなど緩い軸の中で同じ価値観を持つ人たちと連帯し、小さなコミュニティで熱量高く1つのトレンドを楽しむ動きがある」と語る。

「界隈同士が少しずつ重なっていたり、1人が複数の界隈に属しているというケースが多い。1つの界隈でのムーブメントが少しずつ伝播してトレンド化する流れが昨年ごろから顕著になっている」(長田氏)

さまざまな“界隈”のなかでも長田氏が特に注目するのが「世界観によって作られる界隈」。この中では「SNSアイコンなどアウトプット一つ一つの世界観がちゃんと統一されているかどうかが重要視される」といい、同じ界隈に属する人々は「世界観を揃えるために服装やポーズの取り方、写真の加工の仕方が近くなってくる」という。

「大量の情報に触れ続けている若年層は信憑性の判断に極めてシビアな傾向にある。“信じられる情報”の判断のポイントは『親近感が持てる』か『自分に近しい人』か。お金をかけて高クオリティな映像より、荒削りでも同世代による投稿動画に親近感を感じる」(長田氏)

株式会社電通 天野彬氏

電通メディアイノベーションラボ 主任研究員の天野氏は、生活者とコンテンツの出会い方の変化に注目。「2020年代は情報との出会いをAIやアルゴリズムが担うようになり、『コンテンツがユーザーを発見する』ようになってきている」と指摘。

これまでのAIDMA、AISASに次ぐ認知モデルとして「ALSAS(AL= Algorithm:出会いの最適化、S=Sympathy:共感、A=Action:行動、S=Share:共有)」を定義する。

「アルゴリズムに基づいたレコメンドが普及したいま、情報の重み付けは『誰が発信しているか』より『コンテンツにどう反応しているか』という点が重要。アルゴリズムは自分が見たものを機械学習しておすすめしてくれるので、能動でもあり受動といえる。こうした“中道的”な情報との出会い方が今後は大事になっていく」(天野氏)

■「自分が求める世界観に必要なのはコレ」“逆算”から生まれる消費のモチベーション

生活者が情報の見つけ方や重み付けの基準を大きく変化させる今、企業はどう対応していくべきなのか。後半では「世界観」「時間の過ごし方」という2つの切り口から論じる。

「現在の生活者は視覚的な情報を軸にコミュニケーションを図ることが当たり前となっており、世界観は『視覚的な感覚にもとづいた“共通認識”』を指す」と長田氏。「相性のよい事柄や仲良くなれそうな相手を判断するうえで、『自分がどういう世界観を好きか』が重要な判断軸になっている」と語る。

「『自分が求める世界観の中で必要なものはコレだから買おう』というように、世界観から逆算した消費が当たり前となりつつある。企業が一方的に世界観を定義するのではなく、ターゲットとする人々の“界隈”が作る世界観のトレンドに合わせ、入っていくスタンスにならなければいけない」(長田氏)

これに対して渡辺氏は「SNSの普及によって生活者が自分で表現できるようになったことで世界観という感覚が重視され、価値や機能を持つようになってきたのではないか」とコメント。天野氏は「一貫しないメッセージの表出は生活者にはすぐバレる」とし、「これからは企業にもスタンスやビジョンの一貫性が強く求められていく」と述べる。

■生活者のさまざまな「時間の過ごし方」に入り込む

「時間の過ごし方」という切り口について、渡辺氏はビデオリサーチ社の調査データから、12〜29歳の自宅内におけるネット動画の視聴行動を時系列でまとめたグラフを紹介。コロナ禍以降、6〜7時台を皮切りに「朝の時間帯に視聴の山が生まれている」という。

 

「朝に推しの動画を見る、まとめ動画を朝食時に倍速で見る、40分の海外ドラマをタイマー代わりに見るという声が聞かれた。コロナ禍によって出社や通学の形態が変わり、朝時間の使い方にも変化が起きている」(渡辺氏)

これを踏まえ、天野氏は「すきま時間に動画を見て、気になったものを後で調べる、といった一種の視聴ジャーニーが生まれているように思う」と指摘。「こうした時間帯にいかに見てもらいやすくするよう、出面としてのクリエイティブのバリエーションを意識して増やしていかなくてはならない」と語る。

「他店舗やECでも購入できる商品を販売している以上、109では『わざわざここへ買いに来る』理由作りが肝となる」と長田氏。「階段に座ってTikTok動画を撮ったり、推しの写真が貼られた壁を背景に自撮りしたりと、買い物以外に『SNSへ上げたくなる写真や動画を撮る』『友達とダラダラする』という時間の使い方が生まれる空間設計を2017年ごろから強化している」という。

「そういった意味ではコンテンツも一緒だと思う。わざわざ時間朝の忙しい時間を取るためにどういう価値が提供できるか。30分ぴったりでタイマー代わりになるコンテンツとか、『一石二鳥』感が大事なのでは」(長田氏)

「生活者のさまざまな『時間の使い方』にうまく入り込めると、新しい時間の価値に対してコンテンツを提供できる。そこにビジネス化のチャンスがあるのではないか」(渡辺氏)

■「生きるうえで何を大切にしているか」解像度の高い生活者把握から“求められるコンテンツ”が見える

「SNSで生活者が情報発信し合うメリットが大きくなる一方、大きいムーブメントは生まれなくなっているように思える」と天野氏。「メディアの使い方や人の価値観が連動しながら変わっていく中で、どう新しい課題が生まれているか。そこの視点の先にビジネスチャンスがあるのではないか」と提言する。

これに対して、「幸せや時間に対する価値観が、今の若者は他の世代と大きく違う」と長田氏。「コンテンツや消費という狭い切り口ではなく、人々が日々を生きていく中でどういうことを大事にしているのか要素分解することで、求められるコンテンツの形が見えてくる」と語る。

「いまの若者に人気のドラマには、物語の結末をストレートに示すようなタイトルのものもある。タイパを重視する世代にとっては、最初から中身が把握できるほうが『見やすい』ということ。ユーザー側とコンテンツ側の意図をすり合わせるため、生活者の生の声を聞いていくことはこれまで以上に重要なことになっていくと思う」(長田氏)

全体を振り返り、渡辺氏は「生活者に対する解像度をより高くしていくことが非常に重要だと感じた」とコメント。「メディアがこれからどうなるか、明確な未来像のヒントが今回のセッションを通して沢山見つかったのではないか」と締めくくった。