左から)unerry・一枝悟史氏、ビデオリサーチ・吉田正寛氏
行動ログ✕視聴ログで見えたブランドリフトの新セオリー unerry✕Resolving LAB「log-BLS」
編集部 2023/10/24 08:00
ブランドリフトに大きな効果を持つとされるテレビCM。しかしこれまでの計測手段は事後のアンケートが主流であり、具体的な消費行動につながったかどうかを判断する手段としては活用しきれていない側面があった。
そんななか、膨大な行動ログと視聴データを組み合わせることによって、テレビCMの具体的な行動への波及を接触回数ごとに可視化できる仕組みが生まれた。株式会社unerry(以下、unerry)とビデオリサーチグループのResolving LAB株式会社(以下、Resolving LAB)とが提唱する解析ソリューション「log-BLS(ログ・ブランドリフト)」だ。
今回は前後編にわたり、この「log-BLS」について深掘りしていく。前編となる今回は、2023年10月12日に開催された、株式会社ビデオリサーチ(以下、ビデオリサーチ)・吉田正寛氏、unerry・一枝悟史氏によるウェビナー「CMに何回接触すると来店・購買につながる?大規模行動ログから見える広告の価値と活用」をレポート。実際の解析から見える新たなブランドリフトの形を紹介する。
■400億件の人流データと2,600万件の視聴データを結合。“過去”の効果測定も可能に
「log-BLS」の基盤となるのは、unerryが保持する国内400億件超の人流データ、そしてResolving LABが提供する国内約2,600万件(2023年10月度時点)の視聴データ、生活者アンケートパネル「ACR/ex」だ。
共に使用許諾、個人分離が行われたこれらのデータを、両社が共通して持つ「ADID(広告識別子)」によって結合。テレビCMへの接触によるブランドリフトの効果を具体的な生活行動レベルで可視化する。蓄積されたログを用いているため、これまでキャンペーンを行っていなかった時期にもさかのぼって分析が行えるという点が大きな特長だ。
今回のウェビナーでは、この「log-BLS」を用いて、さまざまな業種カテゴリにおけるキャンペーンの解析事例を紹介。かねてから“暗黙知”とされてきたセオリーを実証するものから、それを超える新たなパターンが浮かび上がったものまで、興味深いケースが並んだ。
■“10回の壁”は存在しない?! 「log-BLS」の解析で見えたブランドリフトの新セオリー
大手うどんチェーン「丸亀製麺」の事例では、CM接触回数の増加と正比例して来店回数が増加するという結果に。中でも7回以上の接触においてその傾向は安定して高くなった。これまで広告業界で一種の“暗黙知”とされてきた「7ヒットの法則」が、データの面からもはっきり立証された形だ。
千葉県の有名遊園地「鴨川シーワールド」の事例では、1回のCM接触から来園が大きく増加しつづけ、さらに7回を超えてからも引き続き伸長が見られた。これまで「7ヒットの法則」と並び、10回以上の接触は効果が頭打ちになるという通説があったが、それを覆した格好だ。「『接触7回以前』と『接触7回以上』とでは異なる属性が呼応しており、“7回超え”によって新たなターゲットが発掘された可能性が高い」(吉田氏)
日産自動車の事例では鴨川シーワールド同様、CM接触1回から4回まで連続して販売店への来店が上昇した。途中、5回から8回までは“山あり谷あり”の状態になるも、9回以降は安定して増加に推移。これまでの一般的なセオリーによらない、商材特有のブランドリフトパターンが見えてきた。
これまでOOH(屋外広告)の効果を具体的に測定することは難しいとされてきたが、「log-BLS」では視聴データを利用し、「野球中継に映り込んだスタジアムの場内看板」という軸で来店行動との相関が“発見”された。
ヨドバシカメラの事例では、野球中継を各回で全体1/3以上視聴したログを対象に、視聴頻度と来店数の関係を算出。その結果、8回視聴以降の来店率は非接触との比較で0.5%の来店率アップを記録。それ以降の回数においても効果が継続することが確認されたという。
■出稿先と商材の相性が明確化。「ファンダムの“流行り”」可視化で思わぬ潜在層発掘も
「『log-BLS』では、各社様がブランドのステータスやマーケティングコミュニケーションにおいて抱えるさまざまな課題に対して、商材ごとにKGI(重要目標達成指標)に相当する指標を作り、その効果を確かめることが可能」と吉田氏。
「個人分離された視聴ログと生活者行動パネルを紐付けることで、CM出稿先の番組視聴者プロフィールが浮かび上がり、『この番組への出稿はこのターゲットに刺さる』というように、商材と番組の相性を明確に見ながらCM効果を伸ばすことができる」と語る。
これを踏まえ、一枝氏も「特定のタレントや番組の雰囲気を好む、いわゆるファンダム単位の“流行り”が可視化される」とコメント。さらに「『10代女性と同じ行動をする 40代男性』というように、思っても見なかった潜在層も浮かび上がる」と、新たな可能性を示唆する。
「これまでターゲット別のブランドリフトを見ることはサンプル数の関係で難しかったが、『log-BLS』ならばターゲットを絞り込んだ分析をしていくこともできる」と吉田氏。「たとえば、『F1(女性20〜34歳)層だともっと効果が高い』という分析結果をもとにキャンペーンの“若返り”を図るといった展開も可能になる」といい、「活用によって、プランニングの幅や、やるべきことの形が大きく変わることになる」とした。
続く後編では、unerry・一枝氏、ビデオリサーチ・吉田氏にインタビュー。今回取り上げたウェビナーの内容をさらに深く掘り下げ、ビッグデータによって広がるブランドリフト計測の未来形を探る。