19 OCT

第23回「テレビ朝日新人シナリオ大賞」の大賞に松下沙彩氏の『スプリング!』が選出!ラブストーリーをテーマに1023篇の応募が集まる

編集部 2023/10/19 10:00

第23回「テレビ朝日新人シナリオ大賞」(主催・テレビ朝日、後援・朝日新聞社、BS朝日、東映、幻冬舎)の受賞者が決定し、10月17日(火)、東京・港区六本木のテレビ朝日本社内で授賞式ならびに受賞発表会見が行なわれ、松下沙彩(まつした・さあや)氏の『スプリング!』が、大賞に輝いた。

昨年は最年少22歳で『拝啓、奇妙なお隣さま』の若杉栞南氏が受賞した。同氏も2023年夏クールの土曜ナイトドラマ『ハレーションラブ』(テレビ朝日)で連続ドラマデビューを果たしている。今回は、「ラブストーリー」というテーマを設けてテレビドラマ脚本を募集。2023年3月1日(水)の締め切りまでに計1023篇の応募があり、第1次選考は日本脚本家連盟に所属する脚本家の方々によって行われ、164篇が通過。第2次、第3次選考は、テレビ朝日のプロデューサー、ディレクターなどで構成された“社内選考委員会”によって審査が行なわれ、第3次選考で10篇に絞り込まれた。

そして、2023年9月19日(火)、選考委員のの井上由美子、岡田惠和、両沢和幸の3氏による最終選考会が行われ、3篇の受賞作品が決定し、大賞の発表が行われた。

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大賞は、松下氏の『スプリング!』。この他、優秀賞には伊藤彰汰(いとう・しょうた)氏の『雨のサンカヨウ』、寺岡恭兵(てらおか・きょうへい)氏の『スマートフォンより愛をこめて』が選ばれた。大賞には賞金500万円、優秀賞には100万円が贈られ、授賞式では受賞者の3人にテレビ朝日代表取締役会長・早河洋より賞状が贈呈された。

受賞の言葉および受賞者のプロフィール

■大賞

松下沙彩(まつした・さあや)/『スプリング!』

■作者プロフィール
39歳/自営業(ライター)/愛知県在住

大賞と思わなかったのでびっくりしています。この作品はシナリオ学校に通っていた頃に書いていた作品で、その時の先生や同期のクラスの皆さんにアドバイスやご意見をいただいて、何度もシナリオを推敲し、修正をして提出しました。作品の中で主人公が小論文を書くんですけど、その中に推敲という言葉が出てきます。この作品もたくさんの方に提出前に読んでいただいて、推敲を重ねて、主人公と同じように提出した作品です。ご協力いただいたみなさんに感謝をします。

――脚本家を目指そうと思ったきっかけはなんですか?

ライター業をしているんですが、ライターは誰かの話を取材しに行って、記事にするのが仕事。それは人の話を聞いてきて書いているだけ。自分で何かゼロから書いてみたいと思ったのがきっかけです。

――今回の賞金の使い道は?

子供に何か買ってあげたいです。脚本に集中したいのであとは貯金して仕事を減らそうと思います。

――今後テレビ朝日のドラマを描くことになったらどういう作品を作りたいですか?

ラブストーリーは自分には絶対できないと思っていた難しいテーマ。ラブストーリー以外で、お母さんの話を書いてみたり、声優さんが好きなので、声優さんの話をいつか書いてみたいです。

優秀賞

伊藤彰汰(いとう・しょうた)/『雨のサンカヨウ』

■作者プロフィール
28歳/映像制作(フリーランス)/東京都在住

ABEMA(旧称AbemaTV)という会社に新卒で入って働いていました。その頃に脚本家になりたいということで会社を辞めて、脚本家を目指すようになりました。3年で賞を取らなかったら脚本家になる夢を捨てようって。そのラストイヤーでした。正直大賞を取れたらもっと嬉しかったでしょうが、優秀賞でも十分です。脚本家を目指しても大丈夫だなって言ってもらえたような気がします。今はラストイヤーにならなくてよかったと安心しています。これからも脚本家になれるように頑張って参ります。

――今回の賞金の使い道は?

飲みに行って女性と出会ってラブストーリーを生み出そうかなと思います。

――今後テレビ朝日のドラマを描くことになったらどういう作品を作りたいですか?

脚本家を目指す時に“声なき声”を拾えるような脚本家になりたいなと思っていたんです。あとは、めちゃくちゃお笑いが好きなのでコメディを書きたいです。

優秀賞

寺岡恭兵(てらおか・きょうへい)/『スマートフォンより愛をこめて』

■作者プロフィール
37歳/テレビディレクター/福岡県在住選考委員の講評

この賞がもらえて本当に嬉しいです。普段福岡の方で情報番組のディレクターをしております。これからはこの賞をいただいたので、ドラマ文化のない福岡でドラマを作りたいなと思っています。

――賞金の使い道を教えてください

あまり考えていないのですが、このあと、ちょっと豪華なお寿司を食べようかな。あと、新しいパソコンを買います。

――今後テレビ朝日のドラマを描くことになったらどういう作品を作りたいですか?

できればコメディ作品を描きたいなと思っています。あと、プロにしかできないことだと思うので漫画原作など、“原作もの”も挑戦してみたいなと考えています。

選考員の声

<井上由美子>

今年も通常の形で授賞式を開催することができて審査員としてたいへん嬉しく思います。1000本以上の作品が集まって、最終審査に10本が選ばれました。100分の1の確率を勝ち上がってきた作品を心を込めて読みました。今年は題材がラブストーリーだったので作品の登場人物も作者も若い人が多いという印象でした。それはいいことかなと思いましたが、一方で題材や人物の人間関係が似通った作品が多くて、もう少しバラエティに富んだものが読みたかったなとも思います。一口にラブストーリーといっても若い人の恋もあれば老人の声もある、不倫の恋もある。70年前に金魚に恋をする室生犀星の『蜜のあわれ』が書かれたように、もう少しバラエティに富んだ作品が読めれば嬉しかったです。でも、そんな中、今回受賞した作品は個性的で筆力もずば抜けていた作品ばかりだと思います。

大賞の松下さんの『スプリング!』は高校生男女が小論文を通じて恋を紡ぐお話ですが、小論文という題材はなかなか見たことがなく、新鮮でした。展開も無理がなく、この作品の世界をスムーズに楽しめたなと思います。優秀賞の伊藤さんの『雨のサンカヨウ』は将来の見えない男子高校生が無戸籍の女性と出会って恋に落ちる物語。重いテーマなんですが、人物の造形や台詞がとても軽やかでそのギャップもあって、とても面白い作品になっていました。応援したくなる作品でした。寺岡さんの『スマートフォンより愛をこめて』は偶然の出会いを夢見た女性が幼なじみと偶然出会ってストーカーをする物語です。しかしその相手もストーカーをしていたというラブコメ風味のきいた作品。実は審査員として私は寺岡さんの作品を推していたんです。ストーカーしていた相手にストーカされていたという展開は思いつきそうでなかなか思いつかないと思いましたし、そのアイデアに溺れずに人物を魅力的に書こうという工夫がされているのがすごく伝わってきたからです。惜しいのはタイトル。どこかで聞いたことのありそうなタイトルで損をしているなと思いました。もう少し新鮮で内容にフィットしたタイトルであれば作品の見え方も変わってきたと思います。

<岡田惠和>

全体的に激しい恋愛ものはほとんどなかった。禁じられた愛とか。みんなたぶんそういう激しさをラブストーリーには求めていないのかなと新鮮でした。その中でもお三方の作品は個性に溢れていて、最終的にそういう作品が勝ち上がってきたんだなと思います。楽しい作品ばかりでした。

『スプリング!』はとても可愛い作品で、小論文というものについて書くことで恋愛が進んでいく。小論文を使って物語を進めるのはすごく難しいと思うんですが、誠実で清々しい作品に仕上がっていました。セリフも巧みでセンスがありました。『雨のサンカヨウ』はヒロイン役の子が無戸籍という存在。シリアスすぎたり正義を振りかざしたりしがちな題材をすごく明るく書いていて、それが逆にリアリティを感じさせる仕上がりにさせていたと思います。主人公のキャラクターもすごく好きでした。『スマートフォンより愛をこめて』は面白く駆け抜けた作品という感じ。なかなかできることではありません。構成も巧みで思い切っていてセリフもうまいし力を感じました。シンプルな幼稚園ぶりの男女が恋に落ちる内容で、読んでいて結ばれてほしいなと素直に思いました。

<両沢和幸>

最後に残った3本のどれにするかはいろいろ議論となりました。ラブストーリーというと言葉の響きがおしゃれで楽しい作品というイメージを持ちがちだけど、愛の話はたくさんあって、愛という軽い響きで終わってしまうのでなくて、愛は元気づけることもあれば破滅も生む、そういう愛に対する深い考察を持った作品がもっと増えてくるといいなと思いました。

『雨のサンカヨウ』は僕はかなり好きでした。戸籍のない少女と高校生のラブストーリー。2人のラブが切なくて、今回の中では戸籍がないというかなりドラマティックな展開を持ってきた。様々なエピソードや展開も面白かったです。『スマートフォンより愛をこめて』は幼稚園の頃に初恋の2人が再会して片方が気づいていて、もう片方がなかなか気づかないと思っていたら気づいていた。でもなかなか想いを伝えられない。構成がすごく面白かったです。『スプリング!』は受験の話で、女の子が自分が落ちたと思って落ち込んでいると、男の子が自分も落ちたから一緒に勉強をしようと誘う話す。受験がモチーフになっている話で面白かったです。映像化を楽しみにしています。

第22回『テレビ朝日新人シナリオ大賞』大賞受賞作

■タイトル『スプリング!』
■作者名:松下沙彩(まつした・さあや)
■内容

優等生で書道部に所属する女子高生・逢坂碧は、受かると期待され、挑んだ国立大学の前期入試に落ちてしまう。失意のどん底で声をかけてきたのは、同級生でバスケ部の村瀬佑。佑も、碧と同じく法学部に落ちたという。現役合格最後のチャンスは3日後に控える後期試験だが、試験科目は小論文、合格者はたったの10人。碧の気持ちはすっかり浪人に向かっていた。

投げやりモードの碧を、なぜかしつこく励ます佑。一緒に小論文を勉強をしようと、国語教師の狭山に引き合わせようとする。佑の巧みな誘い文句に、次第に一理あると思いはじめる碧。性格も学校カーストも正反対の2人の、短期集中・合同後期試験対策がはじまる。

初めての小論文に挑む碧と佑。狭山いわく、似ていない2人だからこそ一緒に勉強する意味があるという。小論文の書き方を学ぶうち、自分と向き合い、佑という“他者”に少しずつ心を開き始める碧。2人斬りの自習室で過ごす時間が、これまで交わることのなかった互いの心近づけていく。

試験前日、そんな2人の歯車が乱れはじめる。佑に好意を寄せる後輩・りんから、碧は予期せず、佑の“嘘”を聞かされたのだ。勝手に一緒に頑張っていると思っていた。自分はうぬぼれていたのではないか。恥ずかしさと悔しさに苛まれる碧。佑は碧に、消しゴムの御守を通して秘めていた想いを告白し、嘘をついてしまった弁明をする。

しかし、たくさんの感情が一気に押し寄せ、碧はパンク寸前。翌日の試験に集中するため、ここからは自分で乗り越えるしかないのだと佑から離れる碧。佐山から、一人最後の指導を受ける。後期試験の当日。碧の眼に映るのは、佑との3日間を思い起こさせる出題テーマ。碧は合格できるのか。そして、佑に向き合う自分になることができるのか。季節と共に碧に訪れる、春の予感。

■優秀賞受賞作
■タイトル『雨のサンカヨウ』
■作者名:伊藤彰汰(いとう・しょうた)
■内容

そこそこ何でもできる高校3年生・水瀬空は、テキトーな学校生活を送りつつ、やりたいことや夢が見つからず、進路に悩んでいた。一方、戸籍のない17歳の少女・立花美雨は、学校に行けない、働けない、スマホも持てない、身分証もない、何もない生活を送っていた。

美雨には、いつか戸籍を買って“普通の女”になるという夢があった。そのために、無戸籍でも働くことができる『××女学園』でセーラー服を着て男たちに写真を撮られる仕事をしていた。

ある日、、出会った2人は互いに最悪の印象を持つ。だが、雨の日に再会。誕生日にもかかわらず、恵まれない環境に心をすり減らし孤独だった美雨は、傘を届け、そばにいてくれた空に戸籍がないことを打ち明ける。「透明人間」と自らを揶揄する美雨に空は雨を浴びると透明になる花“サンカヨウ”をプレゼント。美雨は透きとおるような笑顔を返し、2人は互いに惹かれ合う。

しかし、住む世界が違う2人はすれ違ってしまう。それでも諦められない空は、美雨のアルバイト先で想いを打ち明ける。教室のセットで一緒に勉強をし、夜の校舎で楽しいひと時を共に過ごす。学校ごっこでも、勉強や部活の楽しさを教えてもらった美雨は、空に教師になることをすすめる。互いに夢をもらって、最高の思い出となった。

だが美雨は、唯一の繋がりがある、恋しい存在の母から将来を奪われてしまう。さらに、自身の存在すら否定される。将来も母も失って、自殺を考える美雨。空は事情を知り、美雨を探し回るが、まるで透明人間のように誰も知らない。やっとの思いで美雨を見つけ出し、美雨に愛を注ぐ。空と、空の母からの温かい愛に触れ、美雨は恋しい存在の母と決別する進路を選ぶ。

美雨は遠い施設に引き取られることになり、お別れをする2人。空は教師に、美雨は戸籍を作って普通の女になることを誓い、別々の道を歩む。そして4年後、雨を浴びる透明のサンカヨウのもとで再会を果たす。

■優秀賞受賞作
■タイトル『スマートフォンより愛をこめて』
■作者名:寺岡恭兵(てらおか・きょうへい)
■内容

銀行に勤める山村明日菜は悶々としていた。理由は、猛烈に彼氏がほしいから。それも合コンやマッチングアプリで出会うのではなく、運命的に結ばれるような彼氏がほしかった。

そんな明日菜が銀行の窓口業務中、口座開設の申し込み客として園田志門が来店。形式的なやり取りを交わすうち、身分証明のために預かった免許証を見て明日菜に衝撃が走る。志門は20年前、明日菜が初めて恋した男の子だったのだ。しかし、志門の引っ越しを機に2人は疎遠になっていた。

その志門が、なんと20年ぶりに明日菜の目の前に現れた。明日菜は緊張から志門に気づいていないフリをしながらしどろもどろに作業を進める。そして手続きが終わり、志門が席を立ったあと、あろうことか、志門が申し込み用紙に記入した住所や電話番号を書き写して持ち帰る。帰宅後、明日菜はメモをもとに地図アプリで志門のマンションを検索、さらには志門のインスタグラムやフェイスブックなどのSNSを覗き見。そして酔った勢いで志門のマンションに行ってみるなど、幼なじみのネットストーカーと化す。

しかし、志門のマンションから自宅に戻る“ストーカー明日菜”をさらにストーキングしているものがいた。志門だった。実は明日菜が銀行で志門に気づく数日前に、志門は明日なの存在に気づいていたのだ。ランチに向かう明日菜の後をつけたり、SNSで明日菜の動向をチェックしたり、さらにはQ&Aサイトに明日菜との接し方のアドバイスを求め、ついには明日菜に気づいてもらおうと彼女が働く銀行で口座を開設したのだ(そこで明日菜に個人情報をメモされた)。

そこからは、SNSを通じてのネットストーカー合戦がスタート。そんな中、志門が純愛アドバイスを求めて投稿したQ&Aサイトに「勇気を振り絞って声をかけて見ては?」という回答が。その回答に勘違いした志門は明日菜のアパートに向かうが、実はそのアドバイスを投稿したのは明日菜だった。その頃、明日菜も志門のマンションに向かっていたが、はたして明日菜と志門の超人工的運命の初恋は成就するのか?